「おい! 今笑った奴は誰だ」
教官が、手を後ろに組んで細い目の端を尖らせ、隊列の一人一人の顔を睨めつけるようにしながら、歩いて来た。
「お前じゃないよな?」
教官は背を丸めて顎を突き出し、訓練生の顔に息がかかるような距離に顔を寄せていた。そうやって、前から順番にやって来て、僕の一人前の所で止まった。背中から汗が滲み出てくるのを感じて、震えた。
「ようし、お前とお前」
教官は、僕に背を向けると、一人前の男と、前方の誰かを指で示した。
「お前たち二人はライフジャケットなしで泳げ。一時間な」
教官は歌うように告げた。
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