水深800メートルのシューベルト|第129話
(僕はお酒を注意したと二人に伝えたが)でも、パパもママも一向に僕の言うことが耳に入っていないようだった。特にパパは、じっと見下ろしてはくるが、それは顔を僕に向けているだけで、魂はまだ病院の中にあるみたいにボンヤリしていた。
「ジュリア、車で来たんだろ? 中にビールかワインはないか?」
「あるわけないでしょ。今お酒で血を吐いたのを忘れたの?」
ママは呆れたというような顔をした。
「ちょっくら買ってこい……、いや……、うっ……、もういらねえや」
パパは胸を押さえて気持ち悪そうに顔を歪めた。また血を吐いたら怖いな、僕はオリビアさんの陰へそっと後ずさった。
「俺は、もう助からねえんだってよ。無理矢理病室に連れて行ったと思ったら、書類にサインした途端、今度は急いで追い出しやがった。死刑宣告までしてよお、それがあいつらのやり方なんだ」
パパは怒りながら吐き捨てるように言った。よく見ると、目に涙が浮かんでいた。