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水深800メートルのシューベルト|第344話

「え……えと。君は確か……」
 彼は、僕が明らかに身近な人間だが、名前だけはどうしても思い出せないといった笑みを浮かべた。日焼けした目元に皺が寄っていた。僕が名前を告げると、皺はこめかみにまで広がった。


「そうそう。確か、海に行ったことがないんだったよな?」
 彼は人懐こい表情を浮かべた。


「実は夕べ、海に行ってきたんです。マーシャルズビーチに……。今、帰って来て……」
 座り込んでいる彼に目線を合わせようと、僕はしゃがみ込んだ。

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