マガジンのカバー画像

毎日ちょっとだけ連載小説|水深800メートルのシューベルト

1,110
連載で小説を始めてみました。一話をかなり短く(200文字くらい)毎日ほんの少しずつ進める予定です。 読んで頂けると嬉しいです。
運営しているクリエイター

2024年7月の記事一覧

水深800メートルのシューベルト|第989話

うだつが上がらずもうすぐ退官させられると陰口をたたかれているとは言え、大尉にまで登りつめ…

吉村うにうに
4か月前
3

水深800メートルのシューベルト|第988話

「ああ、君の言う通りだよ。若いうちは、勉強せねばならん」 「大尉は、なぜこちらに?」  …

吉村うにうに
4か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第987話

「す、すみません大尉。今、持ち場に戻りますので」 「いいよ、いいよ」  大尉は目の横の皺…

吉村うにうに
4か月前
5

水深800メートルのシューベルト|第986話

 彼は諮問する教官のような口ぶりだった。 「太平洋ですね」 「目的地は?」 「オーストラリ…

吉村うにうに
4か月前
9

水深800メートルのシューベルト|第985話

「おい、アシェル、こっちへ来い」  ドビーが注水コンソールの隣にある戦闘システムコンソー…

吉村うにうに
4か月前
5

水深800メートルのシューベルト|第984話

「深度三百メートル。メインベント、フラッドバルブ共に閉鎖しています」  コンソール前に座…

吉村うにうに
4か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第983話

発令所の入り口のハッチは開け放してあり、そこには辛子色のパーカーや青いシャツの乗組員がひしめき合っていた。  ドビーはその背中を押しのけて 「クラムジー、こっちへ来い」  と、振り返ることなく手で合図した。仕方なくハッチの外まであふれる人の群れを掻き分けながら進むと、水面から遠く離れて使わなくなった潜望鏡が見えた。そこで、更に潜望鏡の向こうに行ったドビーを追うかどうか迷った。  潜望鏡の向こうにある小さなテーブルは艦長用だが、艦長は不在で、代わりに何人かの士官が占拠し、そ

水深800メートルのシューベルト|第982話

確かに、大尉はいつも笑顔だ。潜水艦乗りの中でも特に。深い皺に刻まれた穏やかな表情を思い出…

吉村うにうに
4か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第981話

 潜航が面白い? この揺れが生じて不快なスロープができ、人のエネルギーを奪う出来損ないの…

吉村うにうに
4か月前
5

水深800メートルのシューベルト|第980話

それがバレないよう彼の目を見ずにその後方のハッチに目を向けたまま答えた。彼は、僕を押して…

吉村うにうに
4か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第979話

 嫌味っぽく言う人間は、この艦内では珍しい。そもそも、潜水艦は高いストレスがかかるので、…

吉村うにうに
4か月前
9

水深800メートルのシューベルト|第978話

 兵曹長は、急いでいるところを邪魔された不満を一瞬爆発させてから諦めたようにため息をつい…

吉村うにうに
4か月前
4

水深800メートルのシューベルト|第977話

      (48)  ドドド、と水を掻き分けながら潜航すると、通路はたちまち心臓破りの…

吉村うにうに
4か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第976話

 セペタが腕時計を見たのを合図に二人で玄関を出た。アパートのエントランスから、キャディラックまでは、傘もささずに走った。エントランスまでトリーシャが見送りに来るかもと思ったが、そうしなかった。フェリックスが再びぐずりそうだったからだ。代わりにアビアナがエントランスに隣接する車止めの屋根のあるところまで見送って手を振っていた。  僕とセペタは何度か振り向きながら走った。駐車場までの短い間に、たちまちずぶ濡れになった。頭から水滴を滴らせながら、水蒸気でぼやけて見えるアビアナの影