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経済都市ジェノヴァの興亡(2)
代々木ゼミナールの元世界史講師宇山卓栄氏の著書『経済で読み解く世界史』を先日ブックオフの割引コーナーで見つけて買ってきました。経済という一本の縦のテーマから世界史の有名な事件や人物を解説する内容で、なかなか面白いです。
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前回の続きです。経済都市ジェノヴァからの高金利借金に苦しむポルトガルはスペインに吸収されてしまいました(1580年)。スペイン国王フェリペ2世の時代です。
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当時スペインは南米大陸の諸地域を次々と植民地化しており、大量の金銀を獲得することに成功していました。スペインは自他共に認める「太陽の沈まぬ国」となったのです。
そのスペインも資金面ではジェノヴァの経済力をあてにしていました。ただ、スペインはポルトガルと異なり、特区として開放していたネーデルラント領アントワープからも資金調達をおこなっていました。また、アントワープはキリスト教の新教、特にカルヴァン派の影響力が非常に強く、富や利潤獲得を肯定する教義は経済発展と非常に相性がよかったことも幸いしました。次第にジェノヴァとアントワープは世界金融センターとしての覇権をめぐって、激しく火花を散らしていきます。
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その頃、ジェノヴァが資金面を援助していた神聖ローマ帝国皇帝カール5世がシュマルカルデン戦争でドイツ諸侯との戦争に敗れ、ジェノヴァの戦債が焦げ付いてしまいました(1555年)。徐々に競り負けていきます。その結果、それまで低金利に抑えられていたジェノヴァ債も大きく利率が跳ね上がりました。徐々にアントワープが経済力の差を見せつけて競り勝っていきます。
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戦争に負けたカール5世は引退し、子のフェリペ2世が跡を継ぎます。フェリペ2世は信仰心の篤いカトリック教徒で、新教徒の弾圧を始めました。それに伴い、経済都市として栄華を極めていたアントワープは一気に衰退し、新教徒住人たちはオランダのアムステルダムに大挙して脱出していきました。
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当時の欧州最大の経済都市を自らの手で破壊してしまうという理解しがたい政策をとった要因として、旧教の教えに従順であった国王フェリペ2世があまりにも経済感覚を欠いていたことも背景にあるようです。しかしながら、その代償としてスペインの国家財政は困窮し、数度にわたる債務支払いの停止宣告を出しました。追い打ちをかけるように、1588年にはイギリスとのアルマダ海戦でも敗退し、ドイツでの30年戦争も新教諸国の相次ぐ参戦で追い詰められていきました。
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ジェノヴァは衰退していくスペインとともに経済的影響力を失っていきました。最終的にポルトガルはスペインから独立を果たします(1640年)。
(ジェノヴァ債の金利の)1.125%という異常な数字は、既に収益を生まなくなっていた金融センターの終わりの始まりであったのです。恐慌の発生、金融危機などによって長期金利が上昇する前に、「嵐の前の静けさ」ともいうべき、不気味な金利の低迷期間がなからずといってよいほど続きます。
今の時代もまさにこれとよく似た状況が起こっているように思います。歴史の失敗に学ぶことができるかどうか、現代人の知性が問われています。