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Vol.5 「お客様から見た景色」が仕事のターニングポイントに

今年6月新たに社外取締役に就任した小脇美里さんは、ライフスタイリスト、ファッションエディター、ブランディングディレクターとしても活躍しています。働く女性やママたちから絶大な支持を集める小脇さんが、オイシックス・ラ・大地でそれぞれの輝きかたを見つけて働く女性のリアルな声をインタビューしていくこの企画。

第5回目は、執行役員でもあり、Oisix商品開発部の本部長を務める冨士聡子さん。食品の衛生管理や品質管理などに携わり、東日本大震災直後にはOisixが早期で取り入れた放射線物質検査の導入や体制づくりを担いました。仕事に対して真っ直ぐな思いを持って、最善を尽くす人柄に信頼を集めていますが、本人は「10年前は本当に何もうまくいかず苦労しました。いまでも不安ばかりです」と話す控えめな冨士さん。それでも執行役員や本部長といった大役を引き受けようと決断するに至った仕事への純粋な思いを聞きました。

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オイシックス ・ラ・大地 社外取締役
小脇美里さん
ファッションエディター/ブランディングディレクター。令和初のベストマザー賞・経済部門受賞。鯖江市顧問SDGs女性活躍推進アドバイザー。ママだからこそ実現できる取り組みを発信する新スタイルライフスタイルメディア「MOTHERS編集部」を立ち上げ、編集長を務める。1歳半娘と6歳息子の二児の母。

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オイシックス ・ラ・大地 執行役員、Oixis商品本部 本部長、オペレーションエクセレンス委員会 委員長
冨士聡子さん
2000年に管理栄養士を取得し、食品衛生コンサルタント会社に就職。2005年にオイシックス・ラ・大地に転職し、商品開発チームに配属される。商品開発マネージャーを経て、品質管理部部長に。2度の産休・育休を経て、2020年に商品本部長として復職、2021年執行役員、オペレーションエクセレンス委員会委員長を兼務。

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本当にいいものを多くの人に届けたい

小脇さん:
 冨士さんは、現在Oisix商品開発部の本部長とオペレーションエクセレンス委員会の委員長を兼務しながら、執行役員という責務を担っていらっしゃいますが、具体的にはどんなお仕事なのでしょうか?

冨士さん:
 商品開発部は、農家さんからどんな野菜や食材を仕入れるか、それをどういう商品にしていくかという開発をしていく部署です。
 一方で、オペレーションエクセレンス委員会は、お客様にお届けするサービスの中で、お客様に御迷惑をかけるような問題が起きていないかということを探すようなチーム 。問題を見つけ、その問題を着実に解決していくのが役割です。例えば、お客様に期待して待っていただいている商品があるのに、天候不良で食材が足りなくなったり、品切れになってしまったり、ということが起こることがあります。一見、しかたがない事ではあるのですが、そういったこともできる限り起こらないように対策を講じていきます。そういう意味では、商品開発とオペレーションエクセレンスは、別の仕事でありつつも関係性があります。

小脇さん:
 冨士さんはオイシックス・ラ・大地に転職される前から、食に関する仕事に携わっていたのですよね?

冨士さん:
 以前は、食品工場のコンサルティングの仕事をしていました。食品工場にいくとそこの社長さんが「取引先が、うちの商品のほうが他よりおいしいと言ってくれるのだけど、もっと安いほうがいいと………」という言葉をよく聞いていて、とても悩ましかったです。安くないと売れないのだろうか、本当に良いものへのニーズはないのだろうかと。
 そんな時、見たテレビでオイシックス・ラ・大地の宏平さん(高島社長)が「有機野菜の世界も規模が大きくなれば、もっと利用しやすくなるはず」という話をしていました。一部の人が良いと思っているものを、もっと広くみんなに使いやすくしたい。私がやりたいことを実践している会社があると知って、早速会社を調べて説明会に参加したのです。

小脇さん:
 確かに、以前は有機の食材って生活感度の高い一部の人のものという感じがありましたが、今はもっと一般的になっていますよね。冨士さんも宏平さんも、だいぶ早い段階で目をつけていらっしゃったんですね。

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冨士さん:
 私が転職してきたときには、まだ創業4年目、社員は30人くらいでした。当時は経営層も20代で、まだまだみんなで手作りのように頑張っているような雰囲気があり、好きなことに挑戦させてもらうことができました。
 フードロスという言葉は一般的ではなかったですが、農家でいかに無駄を減らすか、最適化をするかという話もよくしていました。畑で捨てられてしまう大きすぎた野菜などを社員で拾いにいき、加工工場に持っていって商品化してみるというようなチャレンジもありました。
 一方、品質管理が十分でないと、もったいない商品だとしてもお客様のご迷惑になってしまいます。ただの自己満足にならないよう、納得できる品質をお客様に届けることを大切にしてきました。私も当時は、26、27歳で、夜中までつい熱中してしまうことも多かったです。

 震災後、いち早く放射能検査に乗り出す

小脇さん:
 そこから品質管理に携わるようになったのですね。冨士さんは、震災後に放射能の食材検査にも携わったと聞いています。当時は、私も新婚で妊娠を考えていたので、食べ物にすごく敏感になって、放射能検査をきちんとしている食品を探していたんです。そこでOisixがいち早く検査をしていることを知って。そこからOisixユーザーになりました。なのでもうリアルユーザー歴、10年以上になりますね。

冨士さん:
 お客様のためになることは、即行動するのがこの会社だと思います。社内で放射能検査のノウハウを持っている人がいたので、震災後すぐにアメリカから放射能検査機器を取り寄せました。しかも、精密機器なので郵送が不安で、社員が飛行機で飛んで持って帰るほどの対策をしたんですね。上司とともに、入荷されてくる野菜などをどう検査し、合否を出して、いかに安全にお客様に届ける許可を出すのか、ということに日々取り組んでいました。
当時は、「スーパーに買い物に行っても安全性が気になるし、外食も怖くなった」というお客様の声が届いていたので、そうしたお客様たちを集めて、食材についての説明会も行いました。
 それが私の仕事のターニングポイントになりましたね。「私達は検査しているから大丈夫」という説明会をしても、やっぱり心配なものは心配ですよね。いろいろなご指摘を受けましたが、それを1つ1つ説明することの重要性を身にしみて感じました。
 それ以降は、お客様の方から見た景色で話をすることを大事にしています。ただ専門的知識で話すのではなく、いかに寄り添って提案をするかが重要なのだと感じました。
 これはいまの会社のあり方にもつながっていますね。誰かの不便や不安に答えるものを形にしていく。そういう一人ひとりの社員の気持ちが、いまは商品化されているのだと思っています。

小脇さん:
 確かにOisixの商品は、誰に向けて届けたいのかと言うことがすごく明確に見えますよね。忙しいけれど、子どもの栄養をちゃんと考えている親御さんのために作られたキットだったり。安心安全なものを手軽に購入できることだったり。食にはちゃんとこだわりたい、でも時間がないと言うような人には本当に救世主のような存在だと思います。でもそれって、社員の方の話を聴けば聞くほど自分たちの内からの悩みから出てきたアイディアだったりする。だからユーザーに届くんだなって思います。

 経営層に入ったからこそ見えた世界

小脇さん:
 執行役員になられたのは、第二子を出産して復帰後だと伺いました。まだ小さいお子さんを抱えて大役を引き受けることに迷いはありましたか?

冨士さん:
 実は、お話をいただいた時に正直に「私は自信がありません」と宏平さん(高島社長)に伝えました。2016年に第一子、2019年に第二子を出産しました。女性が多く、女性たちが活躍している会社ですし、産休や育休も当たり前に取って戻ってこられる現場です。お客様も女性が多いですし、やはりもっと女性が役員や経営層に入っていくことで良くなっていく部分はあると思っていました。
 しかし、保育園のお迎えの時間や子どもの病気などもあるかもしれないと考えると、臨時の対応ができません。そんな状況で経営層の役割ができる自信はなかった。
 正直にそう伝えると、宏平さんは「大丈夫だよ、やってみてよ」と。「できるだけ自分で仕事を抱えるのではなく、人を使って仕事ができるように動かしてみて」と背中を押してもらいました。人に任せていくことは、私の苦手なことでもありましたし、まだうまくできてるとはいい切れないかもしれません。でも、だからこそやってみようと思えました。

小脇さん:
 冨士さんならきっとできるという信頼があったからこそでしょうね。私も社外取締役のお話をいただいた時に、大役すぎて務まるのか心配でした。しかし、大きな企業の役員クラスにはまだまだ女性が少ないですよね。居ても、50代、60代くらいの方が大半で経験も豊富な方ばかり。男女平等が当たり前でない時代に道を切り拓いてくれた方々で、尊敬と感謝でいっぱいなのですが、そろそろ次の世代の私たちもがんばらないといけないんじゃないかなと思って。育児真っ只中で、不安でいっぱいなのは変わりないのですが、まずはやってみよう!と思い、お引き受けさせていただくことにしました。 なので、冨士さんがもがきながらでも「苦手なんです」と正直に言いながらも挑戦している姿は、きっと次の世代に向けての新しいロールモデルになる気がします!私たちの世代は、子育ても仕事もなるべく楽しみながら道を切り拓いていけたらいいなと思うんです。そうしていくことで、次の世代が「私にもできそうかも」と思ってくれるんじゃないかなって。

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冨士さん:
 そうだったらうれしいですよね。実際にやってみると「これでいいのだろうか」という不安はいつもあります。不安と不安と不安しかないんですけれども(笑)。
 しかし、執行役員という肩書があると、いままでの自分の部署だけで行っていたことが、他の部署を巻き込むことができるようになりました。いままで悩んでいたことや見えなかったことが、経営層に入ったことでできるようになる世界があると感じました。この会社には、まだまだ女性の役員やマネジメントの増える余地と環境はあると思っています。だからこそ、私が一歩前に出ることで、少し気持ちを軽く持って引き受けるのも良かったのかもしれないですよね。
 よくサービスを考える時に「ママの声を」と言われることもありますが、子育てはママだけだろうかと思う時もあります。もうパパもママも一緒に子育てし、料理もしていく時代になっています。その考え方や違いや変化を、言葉にしていくことも大事だと思っています。
 でも、その言葉にしていく方法もまだまだ勉強中です。どうしたら経営層に伝わるように発言していくのかも今後の課題だと思っています。

育休中の消費者としての“肌感覚”を忘れずに

小脇さん:
 執行役員になられてもしっかり課題を見出して努力されている姿は、きっと次の世代の女性達にも伝わっていると思います。仕事をする上で大事にされていることは他にもありますか?

冨士さん:
 執行役員になっても、現場の経験を常に持つことを大事にしています。農家の仕入れや物流ステーション 、商品開発の現場などにできるだけ足を運びたい。商品開発の分野はまだ勉強中ではありますが、商品が自分たちの意図したものと合っているかどうかなどを実際に自分で試すことで、お客様と肌感覚がずれないように心がけています。

小脇さん:
 肌感覚を忘れないってすごく大事ですよね。私も編集者として何かを発信したり、商品開発をしたりしていますが、“一般的な目線”ってすごく大切だなと思います。なのでスーパーで買い物をしている時にも、ついつい周りの方を観察してしまいますね。

冨士さん:
 実は、第一子を産んだ後に、それまでの環境との違いに産後うつのようになった時期がありました。仕事では、誰かが自分の仕事ぶりを見ていてそれを評価してくれるのが当たり前でした。しかし、子どもを産んで、家で子どもと二人きりでいると、誰も何もしてくれないし、誰も評価してくれないことが、本当につらかったんです。
 でもそのおかげで、働いていたときには気づかなかった大事なことに気づきました。評価をもらうよりも、取り組んでいる時間を楽しむこと、変化や成長を待つこと、そういった根底にある大事なものが他にもあるのだと改めて気づくことができました。そこから仕事の見方も大きく変わりました

小脇さん:
 出産や子育てを機に仕事への思いにも変化があったんですね。

冨士さん:
 育休は、私達が仕事人から一般消費者に戻ることのできる時期。それも重要だと思いました。女性だけでなく、男性にとっても同じ。男性は基本的に走り続けてなかなか休めないと思うので、そうした産休復帰した人から話を聴くのもいいと思います。産休を取るたびに、お客様の視点に近づいているという実感が、私にはあります。社内のサービスに反映していきたいですね。
 仕事ばかりしていると、お客様に買い続けてもらうために探索することが当たり前でした。しかし、消費者に戻ってみると「それはしつこいんじゃないか」「面倒になってしまうのではないか」「消費者的にはこっちのほうがいいのではないか」と思える。仕事から離れて、純粋にサービスを見る時間は貴重でした。
 仕事に戻ってしまうとそうした感覚が段々薄れてしまいがちなので、育休中に思ったことの「書き留めリスト」をその時々で書いておき、今でも仕事の時に見返すようにしています。

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小脇さん:
 産休や育休でキャリアダウンするのではないかと心配になる女性も多いと思いますが、冨士さんのようにポジティブな視点で見られるといいですよね。そしてOisixのように産休・育休の経験をプラスに生かせるような企業が増えるともっと世の女性たちは働きやすくなるんだろうなって思います。私も編集者として、人の思いを言葉や企画へと翻訳していくことが仕事なので、一般の生活者の視点って本当に大事だと思っています。企業にとっても、そういう目線や気付きって、プラスになるはず。
 最後に、今後やっていきたいことなどあれば教えて下さい。

冨士さん:
 やはりお客様が食べて「一番おいしい!」と思えるポイントで商品を届けていきたいですね。ただその食材の旬ということだけでなく、加工品でも冷凍にするタイミングやポイントが大事なのです。調理をしてすぐに冷凍し、そこから1週間以内に届けるのか、冷凍のセンターで1カ月経ってから届けるのかで、やはり全然違いますよね。食べ物なので、天候によって食材供給や味に影響してくることもあります。だからこそ一番おいしく感じてもらえるタイミングで届けたい、と思っています。オペレーションエクセレンスともつながってきますが、それが常にできる体制を保っていきたいと思っています。

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