表現をしてみるやつ
適当に始まりだけ書いといて、続きが気になるやつを書いたりする。更新。
景色の描写をしてみよう。
冷たい風が、ビルの隙間から、忙しなく歩く人の間を抜けてゆく。/ 先を歩く女は、手に持った荷物に風を受けながらも、まっすぐ前に向かっている。彼女は前を向いたまま何か言葉を発したが、聞きとれない。私は聞き返す労力を惜しんで、適当な相槌を打った。女は、両手の荷物を持ち直した。/
15分前に名古屋駅を出た各駅停車の車内では、電車が走る音と車掌のアナウンス以外に音を立てるものはない。車窓には昼下がりの柔らかな田園風景が広がり、まばらに座った乗客たちはのんびりとした空気感に包まれ、まどろんでいる。/今日のみこんだ言葉はなんだったっけ。言いたかったはずなのに、わすれた。話をどこに差し込めばいいのかわからず、多分、土星の輪っかに空いてる間隙のことを考えはじめていた。相手はきっと、話を聞いてもらいたいんだから。「私はそう思わないな」を言おうとすると、気分が悪くなっちゃうんだ。よかった、今は一人で。集団から独立していて、みんな一人。夜空に散らばる星みたい。完結していて、積極的に関与しないのが、心地いい。
名古屋行きの急行にて。
桃園。無人駅だが、急行が止まる。乗り換えで降りたことはあっても、改札を出たことはない。この駅の待合の壁は濃いピンク色に塗られており、周囲から変に浮いている。桃園だから桃色、なのだろうか。ここに止まるたびにナンセンスだなあと思う。しかし、何度もここを通過するたび、それがまた愛おしくなってくる。
南ヶ丘。駅付近は、比較的高級そうな住宅が並ぶ。南ヶ丘をよく知る友人は「高級住宅街」だと言う。名古屋方面へ進むと、家々を見下ろしながら、遠くに山を眺められるのが嬉しい。高校時代に何度も来た思い出の場所である。
津新町。駅の一部かと思われるほど、「喫茶レモン」が印象深い。降りたことはない。目の前にマンションや予備校があって山が見えにくいので、嬉しくはない。新町ってどういう意味なんだろう。
津。確かに「?」に見える。駅はロータリーがよく見えて、駅っぽさを感じるので嬉しい。街並みは変わらない。何度か映画を見に来た。
江戸橋。小さな駅だが、三重大学の最寄りである。駅の自転車置き場が二層になっている。センター試験の時はすごく混んで面白かった。あと、三重大学には風車がある。「みえだい」に耳が慣れているため、「めいだい(名大)」を聞いた時に聞き間違えてしまう罠。
景色と主観。
沖に目をやると、色の薄い山々が広がっている。あれは故郷なのか、と思うと、不思議な気持ちがした。自分の知っている故郷の山とは思えないほどよそよそしくて、今にも消えてしまいそうだった。海は段々と満ちてきて、少し前まで誰かの足跡が残っていた場所は、寄せる波に呑まれてしまった。
流れてきた雲が束の間、月を隠し、また流れていく。暗い空では、吹き荒ぶ風が、黄金に照らされた雲を散り散りにしている。形を変えていく雲は、月の確かさを際立たせている。月は眼前を通過する雲に動じることなく、真白い雪のような輝きをこちらに放っている。しかし同時に、雲とも風とも交わらないその美しい月が、淋しくも見えた。真白い月は、実際、極寒であるらしい。これが終わればいっそのこと、月でひとり淋しく凍えて、宇宙の塵になりたいものだ。満月よりも何倍も明るく、大きい地球を見つめながら、四肢から凍えていく様子をイメージしている私に、少し離れた位置にいる男が声をかけた。/ 男の問いに少し黙った後、大丈夫、と答えてそのまま地面に転がっていると、男が視界に入って、風邪ひくよ、と毛布を掛けてきた。私の上に乗せられた毛布は、熱で段々と柔らかく、暖かくなった。腕と脚にじわじわと暖かさを感じ始めると、背中のコンクリートが一層冷たくなったように思われた。
向かいのホームの、白と青が交互に並べられた据え置きのベンチに、高校生と思しき、詰襟の男の子たちが座っている。いまは平日の、朝9時半である。唯一持ってきたらしいスマホを、大事そうに両手で持って、時折顔を見合わせて笑う6人は、彼らの芯になる材料を探している途中なのだと思われた。