VR会議で仕事はできるのか。毎日・毎週の会議を horizon Workrooms に切り替えてみた
今年はメタバース元年だそうです。だからって訳ではないですが、弊社では今年から全ての社内会議・パートナー会議を Google Meet から horizon Workrooms に切り替えました。いわゆるVR会議ツールです。
といっても、弊社はパートナーさん含めて1人1台Quest2を渡しても5台という零細中の零細企業。事例としては規模が小さすぎる気もしますが、VR会議に興味のある方に何か参考になればということで書いてみることにしました。
現在、身内の会議は全てVR会議、年始から3ヶ月強が経過して平日使用率は100%、開いたVR会議数は平日約60日の約150回(1日平均2.5回)、5分の会議もあれば1時間の会議もあり、既に常用ツール化していて継続する予定…とそんな状況です。
VR会議を試みてきた歴史
弊社のビジネスは、いわゆるIT系(業務用iOSアプリとかWeb高速化とか)です。社内をリモート体制にするのも比較的早く、VRに取り組みやすい環境でした。そんな背景もあって、ビジネスVR会議の取り組みは4年前から始めていて、Oculus Go (2018) が出た直後にも試しています。
当初はVRの没入感に衝撃を受け、これまでに経験したことのない「一緒にいる感覚」に感動したものですが、正直仕事の会議ツールとして常用できるものではありませんでした。
後継の Oculus Quest (2019) でも感想は変わらず。VRChat や RecRoom 、AltspaceVR 等アプリを色々変えて試してはみましたが「一緒にいる感覚」は増したものの、ビジネス会議ツールとして使うには不十分でした。
理由は簡単で、ビジネス会議に必要最低限なツールが仮想空間の中に揃っていなかったからです。
仮想空間内で業務の資料も見れないし、キーボード入力もできず、議論したことのメモも取れないし、それを参加メンバーでシェアすることもできません。臨場感ある空間で身振り手振りして喋るのみ…
仮想世界の中で「閉じる」タスクであれば良いのですが、弊社が求めていたのは仮想世界の中で現実世界の仕事をするということ。上述の理由でやはり会議が成立せず、VR会議の常用は時期尚早という結論を出しました。それが2020年初頭。
その後、同年秋に Oculus Quest2 (2020) が登場し、翌年夏にビジネス会議用VRと銘打った Quest2 専用サービス horizon Workrooms がリリースされます。
早速試したところ、想像を遥かに超えたVRの進化を体験できました。ビジネス会議に必要最低限な機能も備えていることも分かり、これなら常用できると判断。
従業員やパートナーのエンジニアさんに1人1台購入&配布して、実験に付き合ってもらうことにしました。
で、2022年からは全てVR会議に切り替えて今に至ります。
Quest2 + Workrooms でできることやメリット
初回の設定が少々面倒ですが、一度設定しておけば、会議の時間になったら Quest2 をかぶって Workrooms アプリを起動するだけなので、慣れれば Google Meet や Zoom でビデオ会議を始める労力と大差ありません。
ゴーグルをかぶればそこは Workrooms の仮想会議室。参加者全員が揃ったら会議スタートです。全員が揃うまで雑談したり、資料を準備して待ったりすることもあります。
交通機関で移動したり資料を持って部屋移動する代わりにゴーグルをかぶるという違いはありますが、同じ空間に「集まる」のは現実世界の会議と一緒です。参加者の空間を「繋げる」ビデオ会議と大きく異なる点ですね。
では、VR会議では、どれぐらい現実世界の会議室と同じことができるのでしょうか。以下に Quest2 + Workrooms の主だった特徴を列挙してみました。
会話
仮想世界での会話は発話者の方向から聞こえる身振り手振り
現実世界での上半身(手・指・腕等)の動きが仮想世界に反映されるコンピュータの持ち込み
普段使ってるWin/Macを仮想会議室内でそのまま使える入力装置の持ち込み
現実世界のキーボードに重なるように手元に仮想キーボードが現れて入力可能プロジェクターで資料共有
仮想プロジェクターを使ったプレゼンや資料共有が可能黒板でブレスト
仮想ペンを使って仮想黒板に自由に書くことができる
操作するのにある程度の慣れは必要なのですが、ビジネス会議に必要十分な機能が一式備わっています。
加えて、余り本質的ではないですが、仮想空間ならではの面白みもあります。
レイアウトや景色を1アクションで切り替えられる
1アクションで座席移動できる
仮想プロジェクターに投影された画面を自分の目の前に表示できる
仮想黒板を自分の机上に投影して書き込むこともできる
先日のアップデートでは新たなルームが追加され、ビーチで会議ができるようになりました。ワーケーションっぽい気分を味わえたりします(笑)
機能的なメリット以外にも、VRならではの非機能的メリットもあります。
そこに一緒にいる感が半端なく凄い
現実世界の服装や身だしなみを気にしなくて良い
ゴーグルの付け外しが、会議とワークの切り替えスイッチになる
ファントムセンス(VR感覚)を体験できる
特に同じ空間で一緒に議論している感覚は圧倒的だと思います。これは、弊社がVR会議を続けるモチベーションになっている点です。
Quest2 + Workrooms でできないことやデメリット
もちろん、良いことばかり…な筈もなく、不便に感じるところも結構あります。
会議中に飲み物を飲めない
Quest2を人数分購入すると結構な費用がかかる
初期のセットアップが面倒くさい
仮想会議室内を自由に歩き回ることはできない
仮想黒板で綺麗に図や文字を書くのが難しい
机や椅子の位置のレイアウトを自由に変えることはできない
当然ながら現実世界のモノを持ち込めない (手触りを確認する行為は不可)
仮想プロジェクターに特定ウィンドウのみを表示できない (画面全体のみ)
Quest2 本体や Workrooms の起動にたまに失敗する
長時間VR会議をしていると額や頬が圧迫されて疲れる (個人的限界は1時間)
ヘアスタイルが崩れるので直後にビデオ会議や現実世界の会議があると困る
多いですね(笑)
これらの細々なデメリットが、クリティカルな問題になってしまう組織だとVR会議の採用は不可能かも知れません。実際に検証してVR会議は使えないと判断された企業さんもおられるぐらいですから、業種や仕事の進め方によって合う合わないがあります。
ただ、弊社では余り問題になっていません。組織によるということですね。
弊社の場合、普段のコミュニケーションが、チャットのSlack、チケット管理のRedmineとBacklogでほぼ完結していて、会議の所要時間が概ね30分未満、5分の時もしばしばで議題が明確...という体制にしているからかなと考えてます。
新しい働き方の実験としてVR会議を継続したい
ザックリとですが、Quest2 + Workrooms によるビジネスVR会議の概要を紹介してきました。
約3ヶ月の間、毎日使ってきた弊社の感想は、「ビデオ会議ツールではできない集う体験ができて、リモートワーク下でのビジネス会議の生産性が上げられるツールだな」です。
懸念された生産性のマイナス影響は感じていません。効率が落ちているとの意見は一つもなく、マネジメント担当の自分の感覚でもプロジェクトのスピードが低下した感じはありません。
数値的なことを言うと、この3ヶ月間で売上も下がっておらず、逆に毎月前年比UPを記録しています。(ってまぁこれは案件の波もありますが)
一番良いのはやはり一緒にいる感覚の効果。本当に想像以上です。共に課題解決に向かって議論を深めていく一体感が、ビデオ会議ツールの比ではありません。
こればかりは体験しないと分からない感覚で定量化が難しくもどかしいですが。仮想プロジェクターと仮想黒板の存在が非常に大きいと思います。(特に前者の使用頻度は高くほぼ毎回)
総じて、弊社にとっては今のところデメリットよりメリットが大きく上回っています。やめる理由が特に見当たりませんので、新しい働き方の実験としてこれからも継続してみるつもりです。
ちなみに、VR会議をしているからと言って現実世界で集う価値がゼロ…ってな訳もなく、3ヶ月に1度ぐらいはリアルに会いましょうってことにしています。先日、食事会をしたところですが仮想世界で頻繁にあっているからこそリアルの会話も弾むという体験もできました。
ビジネスVR会議を未体験な方は、「面倒くさいことしてるなぁ…」とか「別にビデオ会議ツールで良いでしょ…」と先入観で距離を置いてしまうよりも、一度体験してみられるのをお勧めしたいです。是非。
先進的なことが好きな組織なら、リモートメインで仕事をしている4,5人程度の小規模なチームから試してみると良いかも知れません。
本稿がビジネスVR会議に興味をお持ちの方の何かヒントになれば幸いです。