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ケープタウンのストリートでの出会い②Bo-kaap編

これはある日の学校終わりに起きた出来事だ。

そろそろ次の引っ越し先も探していかないとなー、そう思いながら帰りのバス停に向かった。

40代ぐらいの小柄な男性がすでにバス停に座っていた。
先に人が待っている事は、ケープタウンにホームレスが溢れるのと同じくらい普通だし、その人が浮浪者ぽい見た目をしていたのも違和感はなかった。

少し警戒しつつ彼を横目で見ていた。すると彼はこちらを警戒するように背を向け、膝の上でなにか手先を動かしていた。

どうやらその人はdagga(ケープタウンでマリ〇ナはそう呼ばれる)を、吸おうと紙巻きタバコを作っている最中だった。
数日前にそれをきっかけにロシア人たちと仲良くなった事もあり、僕はまた興味が湧いてきた。
(ちょっと声をかけてみようか)
彼に声をかけた。

それってdaggaやんな?
『おぉっ!お前よくその名前知ってるな!なんや?お前も好きなんか?』

まぁそうだよ!
『おぉー!そうか!お前も持ってないんか?』

僕は正直に答えた。
『んじゃお前の吸わしてくれよ』

んー、良いけどその前に少し聞きたいことがあるんだけど。
『なんや、俺地元の人間やからなんでも知ってるぞー!任せろっ!』

そこで僕は家の情報や治安がマシな地域はどこかなど聞いてみた。
彼はFacebookなどで調べれることを知っており、そこから小一時間この家、エリアは良い、悪いなどとても親切に教えてくれた。
(喋りかけてみるもんやなー)

さすがに僕もバス停で話すのはあれだからと、どこか良いChillスポットは無いか彼に聞いた。
『んー、それなら良いとこ知ってるぞ!ただ今日この後ボスにお金貰いにいくから、一緒に来てくれるか?その後俺の家まで来たいか?』 

僕は少し戸惑った。
(ボスってなんや!まじでそっち系の人なら怖いけど、まだ明るい時間やし途中までは行ってみるか〜?)

『大丈夫や!めちゃ景色良い所も知ってるから!』

オッケイ!行くことにした。

僕はWhat's upの位置情報共有をオンにしてMに
知らせておいた。
Mからは『お前何してんねん、死ぬんちゃうぞ…』
僕もそう願う。

End of Bokaapのエリアにあったグラフィティーアート。
僕のお気に入り👏

ボスの元へ…!!

彼の名前はMotoと言い、ケープタウンに来る前は地元でジャンベ職人をしていたらしい。
ジャンベとはアフリカ音楽でよく使われる太鼓で、バチはなく手で叩いて音を奏でる→🪘のような形の楽器だ。

Kloof streetを歩きMotoのボスのとこへ一緒に向かう。(マジでギャングとかじゃないよな…)
Motoは住宅街に入っていき、ある家の入り口で止まった。
そこには警備服を着た女性と、電話ボックスほどの大きさの小屋に小太りの男性が座っていた。

その小屋はおそらく警備室?のようで、街や住宅街で事件など起きた時に助けに行くための事務室らしかった。
壁には大きめの銃が一丁。そして小太りの男は誰かと電話していた。
Motoは『ここがボスの所だ。少し待っておいてくれ』そう言い、僕は道沿いで待つことにした。

数分後、Motoは一昔前の型の携帯を持って、嬉しそうに戻ってきた。
何をしてたの?
そう聞くと彼は『あれが俺のボスだ。給料と新しい携帯をもらったんだ。これで俺も連絡がとれるよ』
どうやら何日か前に携帯が壊れていたらしい。
(なんだ、本当に仕事のボスだったのか)

エンドオブブーカップの現実

そのまま住宅街を丘の方に向かって歩いていくと、犬が檻に入れられ、ヤギや馬が飼われている小さな牧場のような場所に出てきた。
そこには観光客らしき男女もいた。
どうやら誰でも来れるオープンファームのようだ。

ただMotoはファームの人たちに挨拶をし、『俺の家はもうすぐだ』そう言い、さらに奥の方へ歩いていった。
ここはケープタウンだけど、何もかも別の場所だった。どこか日本の田舎にも似た雰囲気を感じる。
そのまま彼に着いて行った。

市内から一本道を入っていくとこの景色が広がる。

Motoには喧嘩中の奥さんがいる。
彼は独り身では無く家庭を持っているのだ。 

Motoに牧場の奥に案内され着いていくと、無機質なコンクリートで作られた蔵が見えてきた。
蔵は3〜4つほど並び、道沿いに柵が建てられている。
すると彼は歩みを止め僕に言った。
『これが俺の家だ!あっちが嫁が住んでて俺の家はその向かいだ』
ほ、ほぅ?
僕には最初理解ができなかった。それは家には見えず、ただの大きな倉庫だ。
ただ彼は家の方へ入っていく。
その家は木で出来たドアこそあれど、それ以外の家らしい物はなかった。例えば表札だったり窓も。

『中にライオンがいるからな、気を付けろよ』

えぇ!?それは怖すぎる。
ただ冗談には聞こえない。それぐらいリアルだ。

恐る恐る建物の方へ近づく。遠くから覗くと中は真っ暗だった。Motoは家の奥に入っていて顔が見えない。
『おいー、本当に大丈夫だ。何も危ないことはないから!』

仮にここが本当にMotoの家だとするなら、警戒しすぎるのも申し訳ない。僕は一旦入り口まで行ってみた。

『入ってこないのか?』Motoは少し遠慮気味に聞いてきた。

とてもじゃないけど安心はできない。後ろから誰か来て閉じ込められたらもう終わりだ。
ただしここが彼の家で、彼が危ない奴でもないなら、遠い国から来た僕をもてなしたいだけかも知れない。

僕は思い切って一歩踏み出すことにした。

薄暗い家の中、そこにはソファやテーブル、作りかけのジャンベ、子供用のおもちゃなど無造作に置かれている。

な、なんだここは…
奥は暗くて見えないが色んなものが置かれている。

こ、ここがMotoの家なの?
僕には聞くしかなかった。
『そうだ。ここが俺の家だ。電気も通ってない。そして家賃も無いから無料の家だ』

不法占拠なのかどうかは分からない。ただ電気が通ってないことは事実だ。
僕はそれ以上聞くのは野暮だと思い一旦家の外に出た。

『どうだった?大丈夫だっただろ?』
そう聞かれ他の建物について聞き返した。

『実はこれは昔戦争があった時の武器倉庫なんだ。ほら見ろあそこに年号が書いてるだろ?』

他の建物に目をやるとそこには軍のマークのような物の下に[VR 1893]と書かれている。
確かにここは武器の倉庫に見えた。
しかしここに住んでいると言うのはどう言う状況だ。
僕は何も言えずただMotoに話を合わせた。

昔に使われていたであろう武器倉庫。
時代を感じる建物だ。

ここはヒッピーの国!?

景色のいい所へ案内してもらう約束を思い出し、それはもうすぐだと道なりに歩いて行った。

そこの景色は本当に良かった。
ケープタウン市内を一望でき、テーブルマウンテンとライオンズヘッドと呼ばれる山を両方一度に羨望出来る。
しかも人もいない秘密のスポットである。
僕とMotoはすっかり打ち解け、お互いの写真を撮りあった。
(Motoはほんとに良いやつだ。日本人の俺にここまで案内してくれるなんて)

さらに奥へ進むと少し左にカーブになりさっきよりも高台になった。
『ここの住人たちのスーパーだ』
そう言い見せられたのは、先ほどの倉庫よりもう少し横長に広い建物だった。

中には小さな子供たちと赤ちゃんをあやす母親が座っていた。
しかしスーパーと言うにはあまりに何も無い。
Motoは僕のことを紹介してくれているのか、彼女たちと話している。
どこでも見れるご近所さん同士が昼間に話し合う光景だ。
僕は少し挨拶をし、そのまま次の場所に移動することにした。
(ここに住んでるのはMotoだけじゃないんか…)

最後にMotoは『俺たちの農場を見ていくか?』
そう言い案内してくれた。
そこは小さな畑があり、Motoの友達らしき男が3人いた。
彼らと挨拶を交わした後、先ほど薄れていた警戒心がまた戻ってきた。

なんだか喋っていてMotoには無かった違和感?がある。どこかよそよそしく目は鋭い。

彼らはテーブルを囲み見た事の無い果物?をパンに乗せて食べていた。
『食べてみるか?』 
そう聞かれたが、見た目がどうも怪しく断ってしまった。

話を聞くと、彼らは普段仕事をしているがここで楽しく遊ぶのがライフスタイルらしい。
僕は口が髭で見えない男から南アフリカの言語である"Xhosa"(コサ)を教えてもらったりした。

今思うと僕が"勘繰り過ぎていただけ"だったのかもしれないが、その時は不安で先に家に帰るよと伝えた。

めちゃ良い景色でした!!!
左がテーブルマウンテン、右にはライオンズヘッド🦁Photo by Moto

Motoとのお別れ

ファームから僕の家までは徒歩では1時間ほどかかる場所だった。
ただMotoはこの辺りが危険な地域だからと、帰り道を一緒に着いてきてくれた。
MotoはBokaapにも住んでいたらしく、ここが俺の前の家だとか、このストリートで育ったなどいろいろ教えてくれた。

途中Xhosa族かZulu族の話になり、彼らは戦闘民族だから鍛えなくてもマッチョなんだと言ったのをきっかけに、Motoのボディビルshowが始まった。(南アフリカには様々な民族の言葉や家系 が今でもある)
道で上着を脱ぎ始め、色んなポーズをする。
それを僕が盛り上げて写真を撮る。
たしかにMotoの筋肉は凄かったし、彼が産まれてからトレーニングを一度もしたことが無いのにはさらに驚いた。

途中Bokaap内の大きなパーキングに立ち寄りMotoが奥さんでは無い女性にお金を渡すのについていった。
その間、そこの警備員と人たちとXhosa語練習パート2が始まったりとても楽しかった。
Motoに誰だあの女性は?そう聞くと『俺の女だ』それだけで詳しくは教えてくれなかったが、Motoはどこを歩いても皆んなから愛されていた。
どうやら彼は街の顔役なのかも知れない、そう思った。

もうすっかり暗くもなり、家まではあと二駅ほどだがバスを使うことにした。
Motoはバス停まで送ってくれて、さらにバスが来るまでは危険かも知れないからと一緒に待ってくれた。

彼は元々ドライバーの仕事もしていたらしく、ヨハネスブルグからケープタウンまでをよく運転していたらしい。
彼が言うには、普通車は大体12時間くらいかかるが、スポーツカーなど性能が良い車は9時間でいけると教えてくれた。

僕がBMWを見て、あれは9時間の車や!そう言うと『んー、今のは馬力がそんなやから10時間や!』
そこから目の前を通る車それぞれに12時間!9時間!んー、今のは8時間!などよく分からないゲームも始まった。

なんてしているうちに帰りのバスが到着した。

いよいよお別れだ、またいつか会えるかも知れない。Motoは最後まで優しく良い男だった。

家に帰り、今日一日を振り返る。

なぜMotoがここまで初対面の俺に優しくしてくれたのか。
初めに会った時に彼が喋っていたことを少し思い出した。

どの流れでそんな話になったのか覚えていないが、彼は確かにこう言った。
『黒人ってだけで人は誰も近寄ってこない。お前がもし逆だったらどう思う?この辺りはまだまだそんなのがあるんだ。』

もしかしたら僕が思ってる以上に根深いものがこの世界にはあるのかも知れない。

そしてホームレスだからと話しかけていなければ、誰よりも心優しく大きな男に僕は出会えていなかったのは間違いない。

その日のご飯はいつもより美味しかった。

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