見出し画像

おいしい文章講座:食を味わうためのライティング、ライティングを味わうための食#1【開催レポート】

4月16日に、おいしい学校の講義「おいしい文章講座:食を味わうためのライティング、ライティングを味わうための食」が開講しました。

この講座では「おいしいの言語化」を通じて、自分の感じている「おいしい」を深く味わうことがテーマです。

講師は、居酒屋からフレンチまで、年間600回以上も全国を食べ歩く食の文筆家・マッキー牧元さん。

マッキーさんは、仕事で「書く」ことを通して、ひと皿の料理の素晴らしさを読みとき、料理の楽しみ方や多様なおいしさを探求している、まさにおいしい文章を書くプロフェッショナル。

この講義では、そんなマッキー牧元さんと一緒に料理を食べにいき、文章の書き方や食べる視点を全6回の講義で学んでいきます。

全6回の講義の流れと詳細

第1回となる今回は、知っているようで意外と知らない人間が「おいしい」を感じる基本的なメカニズムについて座学で学んでいきます。

筆食同源
書くを通じて、食べるがもっと好きになるーー。普段、何気なく使う「おいしい」という言葉。でも、「おいしい」と発する前に、私たちは様々なものを受けとっています。食の文筆家・マッキー牧元さんから文章の書き方を学び、「おいしいの言語化」を通じて自分の感じた「おいしい」を深く味わうことがテーマです。


第1回:おいしいってなんだろう?【座学回】

講義の冒頭で、マッキーさんから投げかけられたのは「おいしいと感じるのは“舌”なのか?」という問いかけ。

おいしさを感じているのは、五感のひとつである「味覚」だと思っていたのですが、マッキーさんは「違います」と断言! マッキーさんによると、おいしさを感じるうち、味覚が果たしている割合は、なんと10%以下なんだとか!(驚き…!)

実際に、お煎餅を例にして「私たちがどのようにおいしさを感じているか」について、マッキーさんの解説がはじまります。

上記のように味覚以外にも、視覚、嗅覚、触覚、聴覚、運動、記憶など、お煎餅ひとつをとっても、さまざまな感覚が連動することで、人は「おいしい」という感覚を作り上げるのだそうです。

「おいしい文章を書くためには、まず我々がどのようにして『おいしい』という感覚を得ているのか、そのメカニズムを知る必要がある」という説明を受けて、そのメカニズムに関する各論の解説へと入っていきます。

五感を総動員して、「おいしさ」を感じる

マッキーさんが参加者に向けて、食べるときに大事にしてほしいと語ったのが「食べて、感じたことの時系列を意識する」こと。

マッキーさんが例としてあげたのが「鰻丼」。

日本人なら誰しもが「おいしそう!」と感じる鰻。ですが、外国人や赤ちゃんが見ても、決しておいしそうとは感じず、実際においしさを経験してきた「記憶」があるからこそ、おいしさを想像できるのだそう。

つまり、目の前に料理が運ばれてきた「食べる前」の段階から、私たちは記憶や、おいしそうな見た目(視覚)、香ばしいにおい(嗅覚)などによって「味わう準備」をし、その段階からすでにおいしさを感じているらしいのです。

このように、人は舌で味わう瞬間だけでなく、食べる前・食べている瞬間・食べた後のそれぞれで、多くのおいしいと感じる情報を受け取っているため、まずは五感を総動員してそれらを感じるのがポイント。

そして、その感じたおいしさを丁寧に観察し、時系列に沿って文章を書くことで、読者は食べている人の感覚を追体験し、食欲を沸き立たせるシズル感が生まれるそうです。

講義では人間がおいしさを感じる順番と、それぞれのメカニズムについてたっぷりと解説!

「おいしさは主観」と、どう向き合うか

講義の中盤で「おいしいって、なんだろう?」という今回のテーマに話が及んだ際、マッキーさんは次のように発言。

「そもそもおいしいとは、主観でしかありません。そして、主観は経験値によって大きく左右されます」

食べ物の「おいしさ」は客観的に数値で評価できるようなものではなく、それを食べた人全員が同じように感じるものではないと言います。例として挙がったのが、寿司屋でのエピソード。

「いつも回転寿司に行っているAさんがいました。あるとき、カウンターのあるお寿司屋さんに初めて行き、感動的な美味しさを知りました。そして、お寿司が大好きなAさんは、それから1年かけて人気店や有名店などいろいろなお寿司屋さんを巡りました。さて、久しぶりに初めて感動した街のお寿司屋さんに行ってみると、最初ほど感動はしなかったのです」

おいしさは人それぞれ感じ方が違い、正解もない。同じ人でも、おいしさの感じ方は変わっていく。今の自分が感じていることを大切にしながら、経験を積み重ねていくことが重要だそうです。

余談ですが、おいしいものを全国各地で食べ歩いてきたマッキーさんは、おいしいものを知れば知るほど、かつておいしかったものがそうでなくなる瞬間を経験してきたといい、経験することで「知る喜びもあるけれど、知る悲しみもある」とおっしゃっていたのが非常に印象的でした。

その他にも、「おいしさは主観である」の主観がどのように形成されていくのかについて、「食文化」「情報」「報酬(病み付き)」という切り口から解説。自分が感じているおいしさが、身体的なものだけではなく、社会的価値や文化的価値がおいしさに紐づいているのか、気付かされる内容でした。

マッキーさんにとって「味わう」とは

おいしさを感じるメカニズムについての基礎を学んだあと、最後にマッキーさんにとって「味わう」とはなにか、お話いただきました。

「味わう」ということは、感覚を刺激し確かめるというだけでなく、味覚そのもの(taste)や、食べたり飲んだりすることでそのものの風味や感触を経験する(experience)・味見の要素が強い。

だが、味わうとはそれ以上に、これらを注意深く噛み締め、楽しみ(enjoy)、含まれている要素を十分に理解する(appreciate)という行為。つまり、味わうとは、食べ物に対する経験だけでなく、食べることによって感情を動かすことを意味する

それは好き嫌いなどの嗜好はもちろん、さらなる思考を促す行為とも言える。これは音や色の組み合わせから生じる調和、ハーモニー(harmony)とも近い。

味わうとは、食べ物の持つ、非常に繊細で複雑な風味やテクスチャーがもたらす趣を、自分の感覚を通じて自分自身の生きる糧にすることである

今回の講義で学んだことは、「おいしい」と感じる自分の感覚や記憶と向き合い、意識化(言語化)することを通じて、自分の感性を磨いていくことの大切さです。

「おいしい」や「うまい」という単純な言葉に頼らず、自分の感覚や記憶と対峙して観察し、自分なりの言葉を紡ぎ出していく。そのプロセスが「おいしい文章を書く」ための第一歩になることを、マッキーさんに教えていただきました。

最後に

次回、おいしい文章講座【第2回】では「おいしい文章を書く実践的なコツ」についてマッキーさんに教えていただきます。

以下に、マッキーさんが講義で紹介した文章を掲載します。感じたことをどのように文章にすれば良いのか。気になる方は次のレポートもどうぞお楽しみに!


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

「おいしい学校」では、さまざまな特集テーマで講義を開催中です。ぜひ、他の講義も覗いてみてください!


いいなと思ったら応援しよう!