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世界に誇れる、東京の川(後編) 〜東京裏山ワンダーランド ジンケンさんに話を聞いて〜

東京裏山ワンダーランド ジンケンさんのインタビュー記事の前編です。前編はこちら


全6回のイベント「おいしい流域」の企画を進めていく中でたくさんの問いに出会いました。その問いを深めるべく、”山、川、海のつながり”について様々な方にインタビューをしております。
※本プログラムは、日本財団 海と日本PROJECTの一環として開催されました。


人と川の理想形が、秋川にある

檜原村から秋川を下ると、扇状地と河岸段丘でできた小さな盆地のような地形に五日市の街があります。五日市にも五日市の川にまつわる文化が根付いていて、檜原村よりも地形的にもっと川が身近なエリアで、せせらぎの音が聞こえるようなところでたくさんの人が暮らしています。でも昔と違って、大人になってからも川に遊びに行くような機会が減っているみたいで。子供の頃に遊んだ馴染みのある川がすぐ近くにあるけど、身近で当たり前に感じれば感じるほど、大人になるとわざわざ川で遊んだり、時間を過ごしたりする機会がなくなってしまう。もしかしたら、地元の人にとっても時代と共に川が近くて遠いものになってしまっているのかもしれないと感じます。

川を巡る状況というものが高度経済成長を経てどんどん変化して、川を人間の生活から切り離して管理するみたいな方向に進みました。護岸で固めたり、上流にダムを作ったり、人の暮らしがどんどん川から離れていって。川を治水の対象、せいぜい利水の対象として設計するようになりました。でも世界的に見るとそれではダメだと、いまでは河川行政も含めて、河川環境をどう人間の手に取り戻すか、みたいなことがトレンドになっています。他の国ではコンクリートの堤防を剥がして自然に近い形の河川に戻したり、川辺の空間を公共空間としてもう一度人が行き交う場に作り変えたり、そういったことが盛んに起こっているようです。

田舎の方では、川をもっと護岸しないと危ないとか、もっと固めないと危ないとか、そういう意識を持っている人がまだいるかもしれません。でも世界的なトレンドで見ると、ガチガチに固めて人間の生活から川を切り離した後に、いま川の価値を再発見して、人間の生活と川をまた近づけようとしているんです。秋川流域の五日市や檜原村周辺では、比較的開発されずに河川環境が自然に近いかたちで残っていて、川と生活が一体のまま、本当に身近なところに川があるわけです。そう考えると、周回遅れだけど、実はいま世界中の川にまつわる活動家たちにとって理想に近い環境が、もしかしたら秋川流域にはそのまま残っているかもしれない、もしかしたら一周回って最先端なんじゃないかと思ったんです。

世界が憧れる理想形がこの秋川流域に残っているのだとしたら、地元の人たちにもちゃんとその価値に気づいて、再発見してもらいたいなと思うようになって「カワベリング」という活動を最近始めました。秋川の昔の暮らしはどうだったか、子供の頃にどこの河原でどんな遊びをしていたかなどを地元の人からシェアしてもらいながら、秋川の魅力について語り合う場をつくろうと。チェアリングと同じように、参加者には椅子を持ってきてもらって、河原に降りて椅子に座ってみんなで川の話をする会を不定期で開催しています。そこには地元の人も来るし、秋川がいいなと思って都心から引っ越してきた移住者の人たちもいます。

きっかけのひとつとして、国土交通省の「ミズベリング」という水辺空間を公共空間として人の暮らしにもう一度近づけるためのプロジェクトがあって、同じ思いを持った人たちが全国でいろんな活動をしていることを知ったことも大きいです。僕らが繋がりたいなと思って、ミズベリングのディレクターをなさっている岩本唯史さんをお招きして勉強会をやったり、毎年ミズベリングで7月7日の七夕の日に「水辺で乾杯」というイベントをやっていて、今年僕らが声をかけて秋川で第1回の水辺で乾杯をやったりしました。河原で短冊飾りをしたり、みんなで乾杯しておしゃべりして。これからも水辺に集まったり、水辺を意識したりみたいな機会を作っていく活動をやっていこうと思っています。

こういう活動を、東京という大都市でやれることにものすごい価値があるんです。都心につながっている多摩川水系の上流部に、ダムのない綺麗な川が残っていて、源流の湧き水を今でも飲むことができて、川と人の暮らしがこんなに近くて、子供の頃に川で遊んだ記憶を持っている人が今も住んでいて、そんな場所に電車に乗って1時間ちょっとで来れるという。こんな場所は世界的に見てもなかなかありません。こういうことを意識して、その源流の自然環境の価値を認識して守りながら、川の繋がりを感じながら生きていけるというのは、ものすごく豊かなことだなって思っています。



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