おいしい流域 第4回 -わさび:調布深大寺 わさびを育むたくさんの小さな源流- 【開催レポート】
山から海までのつながりを食を通じて体験する「おいしい流域」イベントの第4回目を、東京都調布深大寺にて9月28日(土)に開催しました。
これまで3回の講義を通して、水の循環システムの仕組み、山が水に与える影響、川魚の生態系や木の山に対する影響、多摩川流域の住宅化・工業化に伴う生態系の変化を学びました。第4回となる今回は、湧き水が豊富な神代農園でわさび栽培を見学し、わさびが育つことができる地域の環境や食文化について学びを深めます。
この記事では、「おいしい流域」第4回目の様子をお届けします!
講師
今回の講師は、文脈デザイン研究者の玉利さん。「東京で源流の水で生活することはできるのか!?」をライフワークとして、各地の湧水をめぐっておられます。
深大寺に集合・豊かな水環境に触れる
集合場所は、東京都調布市にある深大寺の入り口。湧水が出ている箇所と、清らかな水が流れる水路が目に留まります。
参加者全員の自己紹介を終え、さっそく湧き水に触れてみると「冷たい!」との声が上がりました。
それから講義の会場である神代農園へ。深大寺から神代農園まで15分ほどの道のりでも、湧き出る水が滝になったスポットや、岩場の隙間から生えているふきを見ました。玉利さん曰く、ふきが生えているのは水が出ている証拠なんだそうです。
深大寺エリアは、多摩川中流域に位置しており都心から1時間ほどの距離ですが、こんなにも私たちの暮らしの近くに湧き水があることが意外にも新しい発見でした。
玉利さんレクチャー「わさびの生育に欠かせない湧水と、湧き出す環境・仕組みとは何か」
神代農場を見学する前に、わさびの食文化と、その生育環境としての多摩川流域について理解することを目的に講義を行いました。講師の玉利さんより、①わさびとは②湧き出す環境・仕組みの主に2点をお話しいただきました。
わさびは日本原産の野菜。寄生虫を防ぐ効果のある薬味であることから、日本の"生食文化"になくてはならないものとして重宝されてきました。わさびの生育には、2~18℃の水が常に流れ続ける環境が必要で、水が湧き出す環境で育つことができます。つまりわさびのある場所は湧き水が豊富であるとも言えます。
わさびを求めてやってきたここ神代農場は、深大寺で湧水を活用した農業を行っています。
”流域”の視点で神代農場の位置を説明すると、「多摩川支流 野川の上流域の谷戸」。本プロジェクトの本流である多摩川から、「流域(野川をはじめとする支流を含むエリア)」、さらに「谷戸(丘陵地が侵食されて形成された谷城の地形)」「崖線(河川が削ってできた崖)」の解説によって、なぜ神代農場のあるこの場所はわさびが育つ、つまり湧水が豊富な土地であるのかを教えていただきました。
その一方で、参加者の多くが住んでいる下流の地域では、木が減ったりアスファルト化されていることによって土中の水の吸水量が減っています。土に貯水できないので大雨時の洪水のリスクが高まる→崖を削ったりコンクリートで固めたりする→綺麗な水があって豊かな生態系がある場所が減っていく→子どもたちの親水性が保てなくなっている→よく知らないから河川に開発的な手を加えてしまうという悪循環を生んでいると玉利さんは話します。
また、わさびの講義を上流域ではなく中流域の深大寺で取り上げたのは、普段私たちが生活している住宅地の近くにも源流があることを意識してほしいからと教えていただきました。
子どもたちにとっては少し難しいお話となったかもしれませんが、本イベントのように、身近な流域に触れ、山から海までのつながりと、私たちの暮らしと密接に関わる水のことを大人も子どもも学ぶ機会の重要性を再認識できたように思います。
神代農園見学・わさびの試食
講義のあとは、実際にわさびが育つ場所の見学へ。神代農場の管理人・宍戸さんに農場を案内していただきました。
神代農場は、約25,000㎡の広大な敷地で、湧水を活用してわさび・お米の栽培、しいたけ栽培、ニジマスの養殖、腐葉土の管理を行っています。武蔵野の里山の景観を残し、湧水が湧き出るこの場所はかつての原風景です。
草木が生い茂る階段から降りていくと、湧水が流れる池のような場所が現れます。沼の上に作られた20cmほどの橋を渡ったりしながら、いくつもの湧水スポットやそこに自生するさまざまな植物を発見することができました。
今回の主役「わさび」。17℃くらいの湧水が流れる土地にわさびがずらっと並んで育っていました。よく見るとわさびの茎を支えるように根元を石で挟んでおり、そこから土へ根をはっています。わさびを収穫するところも見せていただきました。土が柔らかいため、スッと一瞬で抜けました。
そして、その場でわさびをすりおろして試食させていただきました。用意していただいたおろし金は鮫皮と金属の2種類。豊かな湧水で育ったわさびは、つんとした辛味はまったくありませんでした。鮫皮でおろしたほうは爽やかな香りがあり、金属のほうはよりピリッとした刺激を強く感じました。
子どもたちも、わさびの育つ環境を体感したことで、興味を持ってわさびにチャレンジ。わさびを舐めて辛そうな表情をしていましたが、鮫皮のほうが辛くない!と味の違いを発見していました。
また、事前に宍戸さんがサワガニを見つけて、子どもたちに見せてくださいました。綺麗な水を好むイメージのあるサワガニですが、土をほぐして柔らかくしてくれる役割を担ってくれるためわさびの生育にもとても役に立っているのだそうです。
お蕎麦屋さんで食事
講義を終えて、矢田部茶屋さんに移動しました。
矢田部茶屋は深大寺のすぐそばにあるお蕎麦屋さんです。
深大寺そばのはじまりについては諸説ありますが、その歴史は江戸時代に遡ります。蕎麦を栽培するため・蕎麦を打つため・蕎麦を茹でるため・・。蕎麦は水が非常に重要な食べ物です。湧水が豊富な深大寺エリアだからこそ、おいしい蕎麦が人気となり現在のように多くのお蕎麦屋さんが軒を連ねているのでしょう。
矢田部茶屋では、特別に神代農場の見学でいただいたわさびを持参させていただきました。わさびとともに深大寺そばを食しながら、豊かな水が育んだ日本の食文化に思いを馳せました。
最後に
今回の講義では、湧き水が豊富な神代農園でわさび栽培を見学し、わさびが育つことができる地域の環境としての湧水の仕組みを学びました。
次回は貴重なタンパク源として多摩川流域で獲られていたナマズから、当時の食文化と暮らしについて学びを深めていきたいと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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