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#5 「この顔どの顔?」をスムーズに楽しめる工夫-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載

本連載は、Nintendo Switch向けソフト「レッツプレイ!オインクゲームズ」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2022/4/1から4/29まで、全5回にわたって毎週金曜日公開で連載していきます。冊子版はゲームマーケット2022春のオインクゲームズブース、およびオインクゲームズ公式オンラインショップで発売予定です。今後も追加タイトルについての記事を更新していく予定ですので、気になる方はぜひマガジン登録を!

本記事は、#4 デジタルならではの「エセ芸術家」-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 からの続きです。

インタビュー  その2 (エセ芸術家ニューヨークへ行く、この顔どの顔?)

お題のタグづけと「いつでも」回答方式の誕生

 -「この顔どの顔?」は、オリジナル版との違いはありますか?

 (浦)「この顔どの顔?」は、ゲームの仕様を決めるところが大変でしたね。オリジナル版からの変更点として、お題がランダムなカードになっているのと、「いつでも」という回答方式が入って、それがデフォルトになりました。

(新)一番最初に、お題がランダムでも成り立つかどうかを、リアルでテストプレイしました。

 (佐)オリジナル版では、他のプレイヤーが作られた顔を確認した後で、近そうなお題を選ぶので、人間の脳を利用してお題を用意していたんですよね。デジタル版でもある程度近い選択肢が出ないといけないので、土江さんに迷いやすい選択肢が出るように調整してもらいました。

 (土)意外とランダムでも、ゲームにはなったのですが、あまりにも簡単なケースも出てきてしまいました。そこで、お題カードに感情タグをつけて、それをもとに出題するようにしました。それぞれのセリフに対して、どういう感情かを紐付けていって、同じような感情のセリフを何個かピックアップして、迷いやすい選択肢として表示しています。例えば「その時雷に打たれたような衝撃が走った」は「驚き」の感情で、「負けた」は「悲しみ」の感情、といった感じです。そういった感情のタグを、すべてのお題に対してつけて、同じようなタグで候補を検索して、似ている選択肢が出るようにしました。

 (新)結果的に、みんなめちゃくちゃ間違えるようになりましたね。

8つの感情の分類と、タグづけの例。

(佐)「いつでも」という回答方式に関しては、このゲーム、ダウンタイムが長めのゲームなんですよね。誰か1人が作っているのをみんなが眺めているという時間が長い。「エセ芸術家」も長めですが、一筆ずつなので早いんですよ。でもこれは、自分が作るフェーズが回ってくるまでがだいぶ長い。いかに待ち時間を感じさせないかということを考えて、手番の人が顔を作っている間に回答者はいつでも答えられるようにすれば、見ているほうも気が抜けないし、空き時間にならないのではないかと。そうすると、早く答えるか、もう少し見てから答えるかという、ジレンマも生まれるんですよね。このルールがないと、他の人が作ってる間にスマホ見ててもゲームが成立してしまうので・・・。このルールを採用することで、焦って間違えやすくもなったりして、それもよい点だと思いました。

 (新)最後の最後でそれを置くのか、みたいなドラマが生まれるようになりましたね。

 (佐)口のパーツを配置するときなどに、顔の上に持ってきてから回したりするから、回答しちゃってから「そっち?」となったりしますよね。

-オリジナル版から、ほかにルールで変更したところは他にありますか?

(佐)得点方式が変わっています。正解した時の得点を、「間違えた人の人数+1」にしました。このゲーム、できた顔に対して、つい文句を言いたくなってしまうゲームだと思うんです。知ってる人同士で遊んでいれば気にならないんですが、野良で知らない人とやっていたらイライラしてしまうんじゃないかと感じていて。間違えた人の数がそのぶん点数になるようにすれば、できた顔がわかりづらいものだったとしても、うまく汲み取れば大量得点のチャンスになる。その時はチャンスなんだと考えてもらうようにしたかったんですよね。顔を作るの得意じゃないという人が楽しめないゲームになってしまうと嫌なので、このルールを入れてもらいました。結果的には、逆転要素になったのもよかった。決まった点数だけ入っていくと、逆転がしづらかったんですよね。終盤では逆転狙いで逆張りするようなことも可能になりました。

 (浦)それと、得点が同じ場合、同じ順位になりましたね。

 (佐)そんなに勝ちにこだわるゲームじゃないかなと思って、そうしました。点数が同じなのに「勝った」という喜びより、点数が同じなのに「負けた」という悲しみのほうが大きく感じるんじゃないかなと思いました。ボードゲームの文脈から考えると、タイブレイクの仕組みを作って順位をきちんと決めたくなるんですが、そこは割り切りました。もうちょっとガチめな「スタータップス」とかはちゃんと順位を決めたいんですけどね。

ちなみに、オリジナル版ではタイトルは「がんめんマン」だったのですが、「この顔どの顔?」とタイトルを変更しています。「がんめんマン」はインパクトのある、響きの良い言葉で、呼びやすくて好きなタイトルではあるんですが・・・「マン」という言葉が入っていることから、作っている顔が男性を意味しているように感じるのが気になってきてしまって。海外も「Mr.Face」なんですよね。実際このゲーム、特に誰の顔を作ってるのかというというわけではないので、性別は関係なくて、余計な情報だなと思ったんですよね。例えば、「きゃっ、先輩に挨拶されちゃった」ていうお題カードがあるんですが、性別という要素が入ることで、なにか不要な要素を感じてしまうような気がして。それで、性別を関係なくしたいなと思って、タイトルを変更しています。これはオリジナル版でも今後変えていこうと思っています。

テストプレイで洗練されたUIとスムーズな操作感

-UIデザインはどう制作されたのでしょう?

(佐)「この顔どの顔?」のUIは新藤さんにお任せでしたね。

 (新)画面の構成要素がほぼ決まっていたので、それを入れたら終わってしまいました。顔を作るところが見えて、お題も全部見えるようになっていて・・・と考えると、それだけで画面が埋まっていたので。デザインのテイストは、リアルとデジタルの中間になってる感じですね。顔を作るところはオリジナル版と同じ、パーツを生かした遊びになっている一方で、お題の回答の部分とかは、「エセ芸術家」に則って作っているので、デジタルな感じになっています。

 (佐)細かいところで言うと、顔のベースのつなぎ目はなくしていますね。つなぎ目は、入れたいと思って入っているわけではなく、箱に入れるための工夫なので、無くしてもいいかなと。
リザルト画面は集中線でアニメーションさせたりして、デジタルならではの映像的な表現ですよね。

 (新)リザルト画面はスクショポイントにもなってます。最初は、感情に合わせてリアルな背景を出すのも試したんですが、最終的に、集中線でやるのが一番しっくりくるとなりました。

 (佐)答え合わせですよね。ほんとにそう言ってる?この顔・・・みたいなのが気になると思うので、それをちゃんと答え合わせしてあげる。間違っちゃった人は、「この顔そんなこと言ってないじゃん」と不満に思ったりすると思うんですが、リザルト画面でこうやって合わせて出すと、「ああ、言ってるね」となるんですよね(笑)。この画面をシェアしてほしいというのもありますが。

「この顔どの顔?」顔を作る画面(左)とリザルト画面(右)。

-デザインで苦労した部分はありますか?

(新)「エセ芸術家」と同じで、ゲーム中にフェーズが移り変わっていくゲームなんですが、最初にテストプレイした時、フェーズが変わっても画面にあまり変化がなかったんですよね。いつの間にか切り替わっていて分かりにくかった。「エセ芸術家」の時は選択肢が出たり、見た目が変わっていたのが分かりやすさにつながっていたんですが。それで、お題が出る時、ラウンド切り替え、お題確認の時、それぞれでカードが出ていたり出ていなかったり、パーツが出ていたり出ていなかったりを変えて、違う絵になるように意識して調整しました。人って、場面の切り替えを、画面全体の印象で捉えているんだなという気づきがありましたね。

 (佐)細かい工夫で言えば、作る人と答える人の画面で、お題カードの配置を変えています。矢印とか数字とかでお題カードを教えられて不正されてしまうと、微妙なので。

(土)音楽のテイストを、「この顔どの顔?」から変えましたね。

 (佐)オーダーを出して、これまでとはちょっと雰囲気を変えてもらいました。先につくっていたゲームのような落ち着いたトーンじゃなく、もうちょっとノリのいいものに。ゆったりしたBGMも安心感があって落ち着いて遊べる感じがあると思うんですが、今回はゲーム自体をテンポよく感じさせたいというのもあり、もう少しパキパキしてノリがいい感じがいいんじゃないかと思いました。PVを作るときなどにも、勢いの良いBGMが欲しいなと思っていたのもあります。

-実装の部分で苦労した部分はありますか? 

(浦)顔の上にパーツを載せていくのは、テストプレイしながら詰めていった部分ですね。タッチ操作とコントローラー操作で別々に調整してあります。。パーツを持つ時に、コントローラー操作では、パーツにカーソルがついていくようにしてるけど、タッチ操作では逆にしてる、とか。課題だったのは、大きいパーツの上に小さいパーツを乗せることが多いので、小さいパーツは基本的に上の方が多いんじゃないか、みたいなところですね。

 (佐)パーツの重ね順が非常に重要になるので、白いパーツの上に黒いパーツを乗せたい、みたいな時に、それをどうするかが難しかったですね。

 (浦)最終的には、2個重なっていたら上のパーツを先に取る、みたいにしています。

 (佐)ほんとの意味でのアナログゲームって感じだから難しいですね。重なってる時に下のパーツ取れるのがすごいですよね。

 (新)物理演算でやったらいいんじゃないかという話も出てましたが、同期が大変なんですよね

  (浦)重なってるものは、後に乗せた方が上になるようにしていて。さらに、丸形のパーツと線っぽいパーツでも、取る時の判定が違ったりしています。

 (佐)操作の仕方も議論があったんですよね、回転どうするかとか。

 (浦)コントローラー操作ではRLで回転するけど、タッチ操作ではどのボタン割り振るか?とかですね。

 (新)コントローラー1本でも、操作しようと思うとボタンが足りなくて。パーツを持ち上げているかどうかといった状態によって割り当てを変えたりしてやりくりしています。

 (佐)ちょっとだけ回したいみたいな、微調整したいという要望に、コントローラー操作でどう答えるか、とか。

 (浦)1回ポンッて押した後に長押しするとゆっくり回し始める、みたいな操作も入っています。

 (佐)長押しして調整する人と、連打する人がいたり。

 (浦)最初は長押しだけにしてたのですが、テストした時に長押しに気づかない人がいたので、ポンッて押しても回転するようにしました。そこでボタン数が足りなくなって、完成ボタンが長押しになったんですよね。

 (新)連打してるとうっかり完成してしまうケースもあったので、それで長押しにしましたね。

 (佐)最終的にはかなり操作しやすくなりましたね。みんな操作に慣れてくると、設定されている制限時間をぜんぜん使い切らないですもんね。

 (浦)テストプレイで慣れすぎて60秒にしたんですが、デバッグの時に、この時間では作れないと言われて、30秒伸ばしましたね。

 (佐)考える時間をどう巻き取るか難しいですね。

アップデートで野良でも楽しく。ボードゲームの面白さを横展開

-バージョン2ではその他にどんな改善がされているのでしょう? 

(浦)テキストチャットの有無を指定できるようになりました。最初にテーブル作る時に、ホストの人が決められるようになっています。 

(佐)リリースしてみたら、思っていた以上に、テキストではなくエモートでのコミュニケーションが活発で。テキストチャットは、ゲームを進める上でそんなに重要じゃないんだなと思いました。エモートだけで意思疎通できるんだな、と。

 (新)エモートだけだとペアレンタルコントロールに引っかからないというのも大きいですね。

 (浦)それに合わせてエモートも選びやすく、種類も増えました。

 (新)エモート選択を2行の表示にしたんですよね。やってみたら便利で、なんで最初から2行にしなかったんだろう、と思いました。

 (佐)矢印がほしいとか、「月面探険」ガチ勢の意見で入ったものもありますね(笑)。あまりガチに指示ができるようになってしまうと、奉行問題*になっちゃうんで、ちょうど良い塩梅になるよう気をつけました。

*ゲームの奉行問題:協力型のゲームで問題となる、ゲームに慣れているチームの1部のメンバーが場を仕切ってしまい、他のメンバーが楽しめなくなる問題のこと。

 (浦)それと、「テーブルを探す」画面でゲームをプレイ中のテーブルを見えるようにして、人数に空きがあればゲームプレイ中でも入れるようにしました。

 (佐)バージョン1ではプレイ中のテーブルは「プレイ中」となっていて、それに対して何もできなかったんですが。バージョン2では、「プレイ中」のテーブルでも空きがあれば入れるようになっています。途中から観戦することもできるし、次のゲームから参加することもできます。

 (浦)リリースしてみたら、思ったよりみんな野良で遊んでるので、そういった改善点が出てきたんですよね。

 (佐)こんなに野良でやってもらえると思っていなかったので、嬉しいですね。

 (浦)細かいところで言うと、ゲーム選択のスクロールがゲームアイコンになってかっこよくなりました。それから、気づきにくいところでは、テーブルを抜けた時に、BGMが頭から再生されるのではなく、途中から再生されるようになりました。

エモート選択画面(左)、テーブルを探す画面(右)

-今後の展開を教えてください。 

 (佐)まずは最初のローンチはうまくいったと思っていて、だいぶよかったと思っています。実況動画の出る数を考えても、いいローンチだったと思っていて。今後はさらに遊んでくれる人を増やしていきたいので、うまく軌道に乗れるようにどうしていくか考えています。他のプラットフォームに展開するのをどうするかとか。話題になり続けるのは難しいですよね。定番としてみんなに遊ばれ続けるようにするにはどうしたらいいのか。

「この顔どの顔?」は遊びやすいタイトルですし、この後に開発中の「藪の中」も分かりやすいので、その次はもっと難解なゲームも追加していきたいですね。「ファフニル」とか。競り、オークションのゲームですね。そういう、インタラクションが強めのゲームを入れていきたい。オークションゲームはオンラインで野良でやったら面白くなりそう。いろんな作者の作品をどう入れていくかも、検討事項です。 

-遊んでくれる人へのメッセージがあればお願いします。

 (土)「エセ芸術家」も「この顔どの顔?」も、オンラインで知らない人とも楽しく遊べるゲームだと思います。ぜひ積極的にエモートを飛ばしながら楽しく遊んでもらえればと思います。

 (新)「エセ芸術家」は既にたくさんの人に遊んでもらっていて、動画も実況もたくさんあって、楽しんでもらえてよかったなと思っています。「この顔どの顔?」は、Kickstarterで聞いた入れてほしいランキングではそんなに上位ではなかったのですが、レッツプレイ!オインクゲームズにすごくマッチしているゲームだと思います。ぜひ色んな顔を作ってシェアしてほしいなと思います。

 (浦)遊びやすくなるようにゲーム追加以外にも色々な改善を入れていっています。、みなさんのフィードバックを見ながら入れられるものはどんどん入れていこうと思っています。たまにアップデート情報を見かけたら、もう一回起動しようと思ってもらえると嬉しいです。

 (佐)今遊んでもらっている皆さん、ありがとうございます、楽しんでもらえているようでよかったです。アップデートに関しては、今すでに楽しんでいただいている方には新しい面白さを追加するものだと思いますし、今まだ持ってない人にも「遊んでみよう」と思ってもらえる作りになってると思うので、ぜひ楽しんでほしいです。リリースしてから感じているのは、「レッツプレイ!オインクゲームズ」なら、フィジカルなボードゲームと違って、横に並んでいるゲームも遊んでもらいやすいんだなということです。フィジカルなボードゲームは、新しいゲームを遊びたかったらまた買わないといけませんが、これだと横に並んでいてすぐ手が出せるので、「この顔どの顔?」をやりたくて買った人は横に並んだ他のゲームも遊んでみてほしいし、その逆も然り。ぜひボードゲームという文化の興味深さにどんどん触れてほしいなと思います。

 (インタビュー:2022年2月16日)

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