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異世界湖・ファンタジー④ 長編小説@さつまいもの化身

「嘘・・」
気づけば本は私の手を離れ、地面に落ちていた。
皮肉なことに、文字が見える向きに、しかも私のことが書かれたページを開いて、地面に落ちていた。
「どうした、コーラル。」
「だい、じょうぶ。なんでもないから。」
私はスピネルに心配され、慌てて本を拾う。
次のページには、私の取り扱い方法について書いてあった。何より制作者つまり「マスター」の命令を一番に行動すること。製造から一年間で覚えたことは一生忘れないこと、感情は失敗作にのみ宿ってしまうものだということ、成功品は「マスター」に生涯つくし、マスターが死んだ後もマスターを忘れることはないこと。仕事を与えればそれが終了するまでどんなことでも、いみのない例えば、湖の管理などのことでも、やり続けること。
「私は・・・失敗作。」
震える手で、何度も、何度も文章を確認した。何度も、何度も、何度も。
私は・・・一体。
「コーラル?」
今まで同様しすぎたのか気づかなかったが、背後に心配そうな顔をしたスピネルがいた。
「大丈夫か?すごく・・・顔色が悪いぞ。」
手が震えてる。顔も、スピネルを見ればわかる、相当悪いのだろう。でも。
「大丈夫だ。心配しないで。奥にも部屋があるようだし、行ってみよう。」
心配をかけるわけにはいかない。奥を指差し、私は笑った。
「・・・・・・ああ。」
あまりうまく笑えていなかったのか、みんなの笑顔も、ぎこちなかった。
暗闇の先は長い廊下で、時々部屋があった。洋服、宝石、本、薬品。いろいろなものがそれぞれの部屋にしまわれている。みんなが探索する中、私は一人、考えていた。あの本に書かれていたことは、本当だったのだろうか。
「そろそろ夕暮れだな・・一度戻って、今夜は寝よう。ここにはどんな危険があるかもわからないし。」
丸い、手首につけてある石のようなものを見たクロムは、そう呟いた。
「俺も、こんなところで寝て体を汚すのは嫌だな。」
ベリルも、髪をさら、と触って言った。
「それじゃあ、そろそろ戻ろうか。」
なにかの本を読んでいたスピネルや、宝石を抱えていたガーネットも、引き返すことを選んだ。私としては、寝なくてもいいから、あの本が正しくないという証拠を見つけたかった。それでも、心配をかけるのはいけない、そう思っていたから、「そうだね、もどろう。」そう言って引き換えした。
クロムを先頭に、みんなで階段を登る。
「落ちるなよ~。落ちたら俺がみんなの下敷きだ!」
陽気な声で、後ろからスピネルが声を掛ける。
洞窟で各々が寝床を用意して、夕食を済ませて寝静まった。
私は静かに自分の寝床から出た。
ごめん。でも、私は知りたい。これも、カンジョウなのかな。
そう心のなかで呟いて洞窟を出ようとしたとき。
「どこに行くんだ、コーラル。」
洞窟の奥から、スピネルの声が聞こえた。
「・・・・・・少し、夜風にあたろうと思って」
「違うだろ。」
私に被せるようにスピネルが放った、少し尖った、それでもこちらを心配してくれているとわかる声。
「コーラル、君は、この本を読んだんだろう?」
スピネルがこちらへ来て見せた本は、紛れもなく私が読んだ否、読んでしまった本だった。
「なんで持ってる・・・そうか。」
スピネルは帰るとき、一番うしろにいた。それなら、密かに本を取るくらい、できるはずだ。
「納得したよ。君の顔色がずっと悪かった理由も、なにか考えていた理由も、今、一人であそこへ行こうとしている理由も。」
「そう。」
私の心は今、何かがふつふつと湧いている気がした。
「それがわかって、あなたには何ができるの?」
予想もしていなかったのだろう、スピネルの顔は、少し歪んでいる。
「わかったところで、あなたには何もできないでしょ?私の存在意義を教えることも、あの本が嘘だって証明することも、私を絶望のどん底からすくいだすことも、あなたにはできない!」
今までやってきたことは、無駄だった。それが何より、私を苦しめた。
「ねぇ、これでもまだあなたは、私に他人事のように『大丈夫?』って聞ける?」
何かが湧くのと同時に、何かがこぼれていくような感覚に襲われる。頬になにか、伝っていた。
「・・・・・・何度でも、言うよ。」
少しして、スピネルがまっすぐ、こちらを見つめて言った。
「君が本当に笑って、『もう大丈夫。』そうやって言えるようになるまで、俺は何度だって言い続ける。」
スピネルの目は、月に照らされて青く煌めいていた。
「だから抱え込まずに、私達にも話して。」
いつの間にか、ガーネットやクロム、ベリルがテントから出て、こちらを見つめていた。
「いいか。考えすぎも、抱え込みすぎも良くない。俺のように、自分に自身を持って、楽しく生きようぜ。」
ベリルが、私をまっすぐ見ていった。
「ベリル・・・普通、そういう決め台詞はリーダーの俺が言うんだぞ。」
少しして、スピネルがおかしそうに言った。
「良いじゃないか。俺が言ったほうが、かっこいい。」
「ベリル、意地悪しない。スピネルはコーラルにかっこいいとk」
「あーもう、ふたりともうるさい!」
ガーネットがいうのを遮って、スピラルが私に手を差し伸べた。
「俺は、コーラルの口から話してほしい。何があったのか。もちろん、俺達は全力で助ける。」
「うん。」
夜風でいつの間にか、ほほを伝ったものは乾いていた。
私は、これまであったことをすべて話した。


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