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吾輩は猫になる 短編小説@おさつまいもの化身

目が冷めた。ベットから降りた。
椅子が、机が、ベットが、何もかもが大きくなっていた。
否。私が、小さくなっていた。
というより、猫になっていた。
鏡で自分の姿を見ると、ミケネコの子猫で、
瞳がまんまるで可愛かった。
こんな見た目の猫が捨てられていたら思わず飼ってしまいそうな感じだ。
とはいえ
「こまったにゃあ。」
私の住むアパートはぼろくそ。しかもペット禁止なのだ。
え、なんでそんなところに住んでいるかって?
しょうがない、バイト掛け持ち大学生なんだから。
贅沢してる金なんてないんだよ。
ってそうだ。バイト!!!
今日のシフトは10時から。で、今は・・
9:30
あと三十分・・・無理だ。あと三十分で猫から人に戻れとか無茶振りすぎる。
そもそも猫になった原因もわかってないんだよこっちは!
と言いたくなるも我慢して、まずは最後に人だったときを思い出す。
昨日はバイトを七時に上がって、で、みんなと飲みに行ったんだ。
あ~、あのとき飲みすぎたな。それで歩いて帰って

ガチャ
「茎崎さん?家賃払ってください。」

やば。大家さんだ。
いそいで隠れられそうな場所を探す。そうだ。物置の奥。
色々詰め込み過ぎて何があるかわからないけど、さすがにそこなら見つからないでしょ。
なんとか半開きだったドアを押し開けて物置へ隠れる。
「茎崎さん?」
大家さんが上がってくる。
「あら。留守だったかしら。」
大家さんは、物置の手前でいま来た道を帰ろうとする。
よし。これなら。
ガシャン ドン バーン ガラガラ
安心したのもつかの間、物置から盛大な音が鳴り響いた。
おそらく、物置で不安定な場所に置かれていた鍋か何かが落ちたのだろう。
「あらぁ。そこに隠れていたの?」
大家さんはにこやかで不気味な笑みを浮かべて、こちらへやってくる。
どしん、どしん、どしん
怒りがこもったような足音に、私の息は少し上がる。
ガラッ
物置のふすまを開けられて、私はみを縮める。
「・・ネコ?」
大家さんはそう呟いて、私のことをほうきで叩こうとする。
「ペットは禁止だよ!ほら出ていきな。ったく、茎崎は何をしてるんだか。」
こっわ。怒った大家さん、予想以上にこわい。私のおばあちゃんに匹敵するかも。もう、大家さんは怒らせちゃいけないな。
そんなことを思いつつ、私は扉が開いていた玄関からそとにでる。
一応日本語は喋れたが、あの状態の大家さんに「私が茎崎ミカです。」
なんて言えるわけない。
とにかく、もとに戻る方法を見つけなくちゃ。
バイトに行くまで、あと25分。バイトに行くにはおそらく10分はかかる。となると、、
「残り15分!?」
無茶だって、ほんとに。いま思い当たる原因なんて、夢オチくらいだよ。
あとあるとすれば、、飲み会。飲みすぎて、歩きで帰るとき、家まで送って、水まで飲ませてくれた男性がいる。あるとすれば、その人になにか、よからぬことをされて猫になった、とか?
「・・・いやいや。ファンタジーすぎるって。」
まぁもうこの状況がファンタジーなのではあるが。
ドン
「にゃ!?」
突如、誰かにぶつかった。日本語が出なかったのはほんとにありがたい。
「・・・見つけた。」
「え。」
しまった、声が出た。
そう思うと同時に私は男性に抱き上げられて、どこからかやってきた車にのせられた。私は声で気づいた。男性は、飲み会のとき、家まで送ってくれた人だ。
「怖がらなくていいよ。これからはずっと、僕のネコだから。」
そう言って笑った笑顔は私にとって、大家さんよりも、おばあちゃんよりも何よりも怖かった。

ばっとえんど

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