ゴールデン侍 / 短編小説その5
「どーちだ!?」
彼女は両手を握って、僕の目の前に差し出す。
「なにが?」
「どーちだ!?」
僕の質問がなかったかのように、満面の笑みで30秒前のセリフをもう一度言う。
きっと、さっき飲んだゴールデン侍の蓋を握ってるのだろう。
ゴールデン侍は、石川県のクラフトビール。
フルーティーで甘い華やかな香りで、名前とは違て女性に人気のありそうな味だ。
ほろ酔いになった彼女、ご機嫌になったのだろう。
このクイズは当たったところで、賞金100万円がでるわけでもない。
こんなクイズで100万円もらえるなら、僕は今すぐ芸能人になってクイズ王にでもなってやろうか。
「ねえ、ねえ、どーちだ!?」
人は不意に、究極と言わんばかりの二者択一クイズを出してくる。
そこに意味はあるのか、ないのかでいえば世の中の二者択一クイズの九割九分は意味がないだろう。
意味を問えば、あらゆるものに意味があるし、ないといえばない。
僕は目の前の彼女の二者択一の理をとかなければならない。
「あ、右ほほにご飯粒ついてるよ!」
「やだー、うそー!!」
何もついてない右ほほをかく彼女の右手から、
ゴールデン侍の蓋がカランとテーブルに転がっていく。