地獄のステージ
〜少年おいちょがゆく〜
「ちゃんと歌うまで普通の授業はお預けです」
私の通っていた札幌の小学校は、合唱に物凄く力を入れる学校でした。
特に私達の学年はすごかったようで、後になって年下の子がそこまで合唱しなかったよ!と親切に?教えてくれました。
その気合いの入り方は、熱心というよりも、押し付けに近かったようにも感じます。
五年生になってからは毎日朝の会で合唱練習、上手くいかなければ授業をすっ飛ばし説教と合唱の繰り返し。
ひどいときには午後にまで食い込んだこともありました。
私は幸い、歌うことが嫌いではなかったので、自分のパート(なんだったかは失念…)以外にも他のパートを覚えて口ずさんだりして、それなりに楽しくやっていました。
けれども、説教だけは本当に嫌いで、無駄な時間だなー早く解放されないかなーと小学生なりに思っておりました。笑
ある日、朝から他のクラスとの合同練習が始まりました。
他のクラスと合わせるのは、だいたい週に3、4回のペースで、怒られるのは週に2、3回くらい。
その日は先生がやけにキレておりまして。
口も開けず明らかに歌ってない男の子を名指しし「ソロでお前歌ってみろ!」一喝。
歌い終わりみんなが地べたに座る中、ひとり残され立たされました。
虚しくピアノの伴奏が響く教室。結局彼は一切歌うことなく、再び先生を怒らせました。ああ、かわいそうだなあ……とぼんやり思う少年おいちょ。
あくびをごまかしつつ少し顔を上げると、ん?今先生と目があった気が…。
「話にならない。お。お前はちゃんと歌ってたよな及川。ちょっと手本みせてもらえるか!お前も○○と同じパートだったよな」
地獄だ。
やってしまった。
オンステージだ。
脳内は今までにないくらいテンパり、顔が熱くなってくるのが分かります。
立ち上がり、足の震えが止まらない。みんなの視線で顔に穴があきそう。
ピアノの伴奏が始まる。もう止まらない。うん、やるしかないのだ……。
……なんとか耐えました。ワンパートのたった数分が数十分にも感じました。意外にも、先生は私を褒めてくれました。
「いいかみんな、及川みたいに口をしっかりあけて歌うんだぞ」
正直嬉しかったです。それも他のクラスの先生だったので、存在を認めてくれた感じがして、がんばったらいいことあるなあと思うことができました。
ただ、急に疲れがどっと溢れ、その後暫くは放心状態でありました。
余談ですが、口を大きく開けるからといって必ず歌がうまく歌える、聞こえるなんてことはありません。確実にその人に合う、合わないがあります。
ただ、合唱における「熱意」や「見栄え」或いは「迫力」として、口の開け方が重要であることに間違いはありません。
それに気づいたのは、それから随分と後の話になります。
今の私は残念ながら顎が外れやすいため、当時の歌い方を今するときっと悲惨なことになるでしょう。あくびもろくに大きくできません。
ほんと、かなり辛いですよ。
話を戻すと、当時このような修羅場?をくぐり抜けて得たものが「歌」だったとしたら、先生には感謝してもしきれません。
ここでもし私が否定されていたなら、ただでさえ捻くれ者の私は、きっと音楽なんてやっていなかったと思いますから。
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