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嫌われリヴァイアさん と こども達

人間の安全保障が欠如する原因とそのあらわれ方は、それぞれ大きく異なる2 という。


この世に生を受けた我が子を、母は無償の愛を与えて慈しむだろう。


たしかにかの母は、幼気な小さなものを愛する気持ちはとても強いように見受けられる。


彼女は、自分が産んだ幼気な1番下の兄弟を愛おしそうに胸に抱き 「癒されるう」 とウットリとした表情を見せていた。その子はいつしか言葉を発する程に大きく成長した。 
すると。 
彼女の心は、他に愛を与える対象を求めてさ迷うらしい。1番下の兄弟を抱く事は無くなった。かわりに、フワフワとした大人しい犬を両腕でかかえ 「可愛いいいい」 と頬摺りをし満足気だった。言葉を発する程に成長した子は、1番上の兄弟に抱っこをされ、しがみついていた。ヤングケアラーという言葉を想起させる。


8月28日。リヴァイアさんのこども達何人かが、別宅の一室の悪臭が気になると訴えた。世話をしてもらってないであろう犬の臭いがする。と口々に言う。


ああ。犬は成長してしまったのか‥‥‥‥? もう愛情を与えられていないのか‥‥‥‥? 彼女が愛を注ぐ対象は次から次へと移ってしまうのか‥‥
‥‥?


10月2日。犬の葬儀だという。家族全員出席だそうだ。リヴァイアさんのこども達同級生等は、犬の葬儀だよ仕事休むよ。と聞き、しばし絶句をしていた。


彼女は愛情深くはあるのだ。リヴァイアさんの別宅。与えられたけどセルフネグレクトの1番上の兄弟。与えられず欠乏の兄と弟。ちょっとだけ与えられて死亡の犬。


そこには、彼等家族にしか理解できないコミュニケーションが、確実に濃厚に存在している。


犬の葬儀が終わったらリヴァイアさんの元へ来るだろう兄と弟。もしかしたら日課の寝坊かもしれない。もしかしたら連絡つかず1日行方不明かもしれない。太陽が昇ると、こども達それぞれが桎梏とともにリヴァイアサン1 に辿り着く。そしていつものように共闘して、日々の労働をやっつけるのだろう。

1ホッブズ角田安正訳「リヴァイアサン1」光文社古典新訳文庫
2国際連合広報センターHP 人間の安全保障

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