「新シ橋の大風」−風の向きに引っ張られがちの川の流れ–『江戸名所道戯尽』
昨日は教授と先輩とお話をすることができました。
一つ言われたのは「研究をしたいときには誰か一人にフォーカスすることはこれから大事で、具体から抽象を見ることができることで新たな知見が生まれる」ということでした。
なのでそろそろ私もこれからあと2年半、誰に焦点を当てて研究をしていくかを決め込んでいかないといけないと思いました。
今のところ、やはり風景画に注目していきたいのですが、広重でやっていきたいことは擦られまくっているので穴を見つけることに自信はありません。
そうとなると資料数は限られているので広景及び昇斎一景をみてくことは面白いんじゃないかなと思っています。
広景に限るとあまりにも資料数は少ないけれど、昇斎一景も交えると資料はあるので検討に値しますね。。。。
色々考えることが多いし、友達と1ヶ月近く気兼ねない会話ができていないストレスがすごいのでそろそろ吉本見に行こうかな、、。笑
そんなお笑いが恋しい今日も広景。今回は『江戸名所道戯尽』の「七 新シ橋の大風」です。
◼️ファーストインプレッション
これを見て一番に思ったのは「絶対に『北斎漫画』を参考にした風だな。」です。
舞い上がる砂埃の感じ、紙もばらばらになって、あの大事な書類は川に流されてしまう未来が見えていますね。
極め付けはお重を持っている小柄な人は風呂敷を被ってしまている。これは北斎漫画のイメージそのままですね。
確か記憶上で紫にの着物に緑の布地が見えている女性も北斎漫画の風のシーンで描かれていた気がします。
ここに描かれる人々はかなり北斎漫画からトレースされているみたいですね。
この絵で巧妙だなと思うのは、風は手前側から川の奥に向かって風が吹いていることがよくわかることです。
それはみれば当たり前にわかる話なのですが、手前から奥に流れることで奥の木々の葉の靡方や川の流れがより早く感じやすくなったり、何より透視図法が顕著に表現されているということ。
画面構成からしてめちゃくちゃ巧妙なのにそれに加えて風の表現でよりその流れが強く感じるのが面白いところですね。絶対この絵はもっと評価されていいのになと思います。
◼️新シ橋
この題名の新シ橋とは、現在の新橋のことを言っているのではないらしいです。
神田川の美倉橋のことを差しているらしい。
ここ。新橋はこの画面の南西の方面にあります。
読み方としては「あたらしはし」です。
そう呼ばれるようになったのは1670年ごろ。
◼️風×浮世絵
まず今回の絵の元となる『北斎漫画』を見ていきましょう。
十二編にあるイメージです。
右の三人は完全に広景はパクっています。
飛んでいってしまう物の描写もそのまま。
ここでは楓のような葉っぱが舞い散っている様子が描かれますが、さすがに広景は柳の道にそれは描きませんでしたね。
他に風を描く絵はあるのでしょうか。
以前もみましたが北斎の『富嶽三十六景』の「駿州江尻」です。
これは本家本元が描く風なので割と『北斎漫画』に筆を加えた表現でしょう。
紙を持っている人は布をかぶって多分自分の身に起きていることがわかった瞬間絶望でしょうね。
風の流れがわかることは非常に大事ですね。奥行きや遠近感がどう映っているのかが絵師の腕によって試されますね。
この絵では左から右に流れる風が、草原の草の向き・紙の流れ、木の幹のしなり方や葉の靡く向きでわかりますね。
それだけでなく人の着る服の靡かれる向きも加味していますね。
歌川広重の『東海道五拾三次之内』「庄野 白雨」です。
こちらは一見雨の描写に注目されがちですが、風の描写も巧妙でした。
雨自体を直線で描くのではなく、白い線のまとまりを飴として描いています。
それに加えて風は、まず人々の持つ笠ですね。右の二人農地屈んでいる方の人は背負っている笠の端が跳ねているくらい風が吹いています。
その一方で左の三人では、背負っている籠に被せている布が右から捲れています。それに加えて先頭の人の笠があまりにも背負い込んでいるように押されている。風によって。
人々の光景に加えて、手前の草の向き、奥の木々の向きで風の向きが表現されているのですね。
風の向きに雨が吹くのは当たり前なのですが、この絵では坂と雨の角度が交差しているから錯覚しがちでした。が、しっかりと自然の真理に基づいて描写していることがわかりますね。
喜多川歌麿の『絵本四季花』です。
ここでも風はどのように流れているのかは顕著にわかりますね。
服も、体の形がわかるくらい強い風が吹いているのが表現されています。
けれども一つ気になるのは先頭の男性が持つ提灯。
これが全く靡いていないのですが、提灯ってこんなもんですか?
こんなにずっしりとしているものなのでしょうか?
次の絵と併せて検討してみます。
歌川国貞の『歳暮の深雪』です。
こちらも先ほど程度以下ではありますが、風はしっかり増えているし、それを避けるために傘を傾けてまで歩いています。
左の女性は提灯を持っていますが、あまり靡いていない様子。
手持ち提灯って結構ずっしりしているのかもしれませんね。
歌川国芳の『四季遊観納涼乃ほたる』です。
こちらも風は左から右に向いていることは見てわかりますね。
それも相まって川の流れは左から右に流れているような印象を受けます。
きっと広景の今回の作品も川の流れがどっちに流れているかは定かではないのに風の吹くほうに流れていると勘違いしてしまいますね。
今日は風の描写を見ていきました。
風の向きにつられて川の流れも頭の中で勝手に同じ向きだと思ってしまうのですね。
今日はここまで!
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