不動産投資は購入価格で成否が決まる(後編)
売主は東北地方に住む開業医でした。
そのマンションは全国展開している物件ではなく、大阪を中心に100棟以上を建設している地域密着型ディベロッパーの物件なので、なぜ東北の人が?と思いましたが、仲介業者よると同じシリーズの区分3室を次々に新築購入していたとのこと。いや、おそらく購入させられたのでしょう。投資用マンションではよくある話です。
運用を始めて十数年経ち3室とも全て売却することにしたそうで、この物件が最後に残った1室だったようです。
さすがに仲介業者の口からは出てきませんでしたが、「全然儲からないのでこれ以上傷が深くなる前に処分することにした」という売主の悲痛な声が聞こえてきそうでした。
運用が上手くいっていたかどうかは、後に入手した登記簿の抵当権欄で一目瞭然でした。
今回売りに出した価格の倍近いローンを組んでいたということは、頭金を入れれば新築分譲価格はそれ以上です。
価格も、駅近の1LDKとはいえ同時期に大阪市内で販売されていたファミリー向け3LDKの新築分譲価格とほとんど変わらず割高感がありました。
私の試算で出てきた最終手残り(経費などを全て引いた最終的な儲け=キャッシュフロー)でざっと計算したところ、15年間空室期間も修繕も一切なかったと仮定しても、今回の売り出し価格では手残りの15年分以上に物件価格が下落したことになります。しかもこの試算にはローンの金利は含んでいません。
当時の金利3.7%で計算すると、15年間に払った利息は・・・なんと売り出し価格以上になりました。もう目も当てられません。
こんな状態の部屋を3室も保有されていたのならお気の毒としか言いようがありませんが、上記の試算を裏付けるかのように、購入申し込みから引き渡し迄に2か月もかかりました。
売却してもローン残債が残るため抵当権が抹消できず、それを抹消するために銀行から新たな融資を引く手続きを行っていたためです。
家賃が相場よりも1~1.5万円低い理由の説明はありませんでした。
仲介業者も不思議がっていましたが、サブリース契約はしていませんでしたのでそれが理由ではありません。
ただ、このディベロッパーは新築で購入した顧客に限り、有償で賃貸管理を行っているようでした。遠方に住む家主などは契約せざるを得なかったのではないでしょうか。
ずっと後になって知ったのですが、このディベロッパーの賃貸管理部門が行う入居者募集方法が一般の賃貸仲介業者にはすこぶる評判が悪いのです。
高飛車で審査が厳しいので審査に落とされるケースがままあり、さらに仲介業者への広告料を出し渋るため仲介業者のモチベーションが上がらないというのです。
そのため、「このマンションに入りたい!」と物件限定で来店してきた客以外は積極的に案内しないのだそうです。
この物件の引き渡し時に現入居者との契約書も引き継いだのですが、契約日は春の繁忙期を過ぎた5月末でした。
あぁ、なるほど!そうか。賃貸管理担当者は入居者をつけるため、相場よりもかなり安くして入居させたんだな、と合点がいきました。
ちなみに投資用物件をオーナーチェンジで売却する際、現在の家賃がいくらなのかは価格を設定する上で非常に重要です。投資家はその金額から利回りを計算するからです。
それゆえ、少しでも高く売るためには家賃を上げておくか、空室になってから売却します。空室の状態であれば自らの住居として一般の購入希望者の検討対象となり、利回りは関係なくなるからです。
今回の記事でご理解いただけたと思いますが、物件購入前の細かな収支シミュレーションは必須です。いくらで買っていくらで貸せるかでその後の手残り=キャッシュフローはほぼ確定します。
くれぐれも前の所有者のようなことにならないよう、慎重に物件選びを行ってくださいね。
最後に近況報告ですが、当時の入居者は5年経った今も入居中です。入居2年の時点でオーナーチェンジしたので今年で8年目に突入します。
法人契約なので家賃の滞納も無縁です。
家賃が相場より安かったのは残念ですが、この5年間家賃値下げ要請を受けていないので、徐々に相場に近づいてきました。
なにより、この5年間空室期間も原状復帰工事も無かったのは大きいです。
退去されることがあれば、その時は部屋の付加価値を上げて家賃値上げを目論んでいます。
現時点ではいい買い物をしたと思っています。
それでは。
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