大学の有機化学:軌道
こんにちは.
おふねさんと申します.
オンラインを中心に勉強を教えるお仕事をしています.
主に化学を教えることが多いです(化学科出身です).
化学のまとめノートを作ってみました.
今回は有機化学の軌道に関する内容です.
Instagramにも同じ画像を挙げています.
リンクはこちらから.
noteではまとめノートに簡単な解説を入れて記事にしようと思っています.
解説を入れているので有料記事にしています.
詳しく中身まで知りたい方はこちらをご覧いただければと思います.
さて,今回は軌道のお話です.
軌道
原子は原子核とその周りに電子が取り囲むように構成されています.
その電子の原子核周辺での運動の様子は波動方程式を用いて記述されます.
その波動方程式の解は波動関数または軌道と呼ばれ,これが今回の内容になります.波動関数の数学的な内容については量子化学で学習するので,今回は省略します.
軌道にはs軌道,p軌道,d軌道などがあり,有機化学では主にs軌道とp軌道について考えることが多いのでs軌道とp軌道について取り上げることにします.
s軌道
s軌道は球形の形をしています.1つの軌道に電子は2個まで収容できるので,s軌道には合計で2個まで電子が収容されます.
p軌道
p軌道はダンベルのような形をしています.全部で3つあり,1つの軌道に対して電子は2個まで収容できることからp軌道には合計で6個まで電子が収容されます.軌道は波動関数であり,これらは正負の位相を持っています(波に山の位相と谷の位相があるのと同じ).図では赤で書いたダンベルの半分を正の位相,青で書いたダンベルの半分を負の位相としています.正の部分と負の部分の境界部分のことを節といい,ここは電子密度が0の領域になります.
原子価結合法
分子の記述の方法の1つとして原子価結合法と呼ばれるものがあります.
例として水素分子を挙げます.
水素原子は1s軌道に1つの電子が収容されています.
1つの電子が入った1s軌道(球)同士が近づいて重なり,少し潰れた楕円形の卵のような形になります.この時,2つの水素原子間で2つの電子を共有するため,この結合は共有結合を呼ばれます.
加えて,この水素原子同士を貫く軸を考えます.これを結合軸と呼ぶことにします.
結合軸をくるっと回転させたとき(団子のイメージ),これらの軌道の符号は変化しないことが分かります(そもそもs軌道は1つの符号しかないので当たり前と言えば当たり前ですが).このように結合軸を回転させたときに軌道の符号が変わらない結合の事をσ結合と言います.
sp₃混成軌道
最初にメタンCH₄の構造について考えることにします. 炭素原子の電子配置は(1s)²(2s)²(2px)¹(2py)¹(2pz)⁰になります.右肩の数字は収容されている電子数を表します.メタン分子の場合,4つの水素原子から1つずつ,4つの電子を受け取って結合を形成します.このように考える場合,2px軌道と2py軌道が電子を1つ受け取る結合と2pz軌道が2つ電子を受け取る結合と2種類の結合が形成することになります.しかし,実際には4つのC-H結合は等価です.この事実を説明するために軌道の混成という考え方を導入します.
1つのs軌道と3つのp軌道を混成して,4つのsp₃混成軌道を形成します.s軌道とp軌道の上半分(図の赤の部分)は軌道の符号が同じなので重なりがよく,一方でs軌道とp軌道の下半分(図の青の部分)は軌道の符号が反対なので互いに打ち消しあいます.そのため,sp₃混成軌道はダンベルの片方が大きくなった非対称な形になります.ダンベルの大きい部分が結合に関与する部分で他の軌道と区別するために,混成軌道は緑で表すことにします.
sp₃混成軌道の炭素原子は,炭素原子から4方向に軌道が伸びるわけですが,これらの方向つまり軌道の頂点が最も離れる方向が安定な構造になります.4つの軌道の頂点が最も離れるのは四面体の頂点方向なのでsp₃混成炭素から形成されるメタン分子は四面体構造になります.H-C-Hの結合角は四面体角である109.5°になります.
sp₂混成軌道
s軌道とp軌道2つから,3つのsp₂混成軌道が形成されます.p軌道は全部で3つあるので,1つのp軌道が余ることになります.
3つのsp₂混成軌道の頂点が最も離れるのは正三角形の頂点方向です.そのため,sp₂炭素をもつエチレンは図のように平面構造になります.H-C-Hの結合角は120°になります.エチレンの場合,2つのsp₂炭素原子同士のσ結合に加え,C-Cの結合軸に垂直な向きに余ったp軌道が存在します.この2つのp軌道の重なりからπ結合が形成されます.そのため,エチレンのC=C二重結合はσ結合1つとπ結合1つから形成されていることになります.
2つのp軌道の重なりについて,C-C結合軸を回転させると軌道の符号の向きが変わります(図の軌道の赤の部分が青の位置に,青の部分が赤の位置に移動します).このように,結合軸を回転させたときに軌道の符号が変わる結合をπ結合と言います.
sp混成軌道
sp混成軌道についても,ここまでに考えてきたsp₃混成軌道,sp₂混成軌道と同様に考えることができます.
s軌道とp軌道1つから,2つのsp混成軌道が形成されます.このとき,2つのp軌道が余ることになります.
2つのsp混成軌道が最も離れるのは直線で逆向きです.そのため,sp混成軌道をもつアセチレンは図のような直線形の構造になります.H-C-Hの結合角は180°になります.アセチレンの場合,2つのsp炭素原子同士のσ結合(これを結合軸(z軸)とします)に加えて,これに垂直な方向に2つのp軌道が存在します(x軸とy軸方向).これらのp軌道の重なりから2つのπ結合が形成されます.そのため,アセチレンのC≡C三重結合はσ結合1つとπ結合2つから形成されていることになります.
窒素,酸素,リン,硫黄の混成軌道
炭素原子以外も同じように混成軌道を形成しています.
例えば,アンモニア分子中の窒素原子,水中の酸素原子はともにsp₃混成軌道を形成しています.ともにsp₃原子なので軌道は四面体頂点方向に伸びています.アンモニアでは水素が3つ,水では水素が2つそれぞれsp₃軌道と結合を形成します.結合を形成せず余ったsp₃混成軌道には窒素原子や酸素原子が持っている電子対が収容されます.そのため,アンモニアは三角錐,水は折れ線の構造をそれぞれとることになります.