大学の有機化学:極性共有結合

こんにちは.
今回は極性共有結合に関する内容になります.
今回の内容も前回同様,高校で学習する内容も含まれています.
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さて,今回は極性共有結合の内容になります.


化学結合

主な化学結合は共有結合とイオン結合と金属結合とがあります.高校までの化学では,

非金属元素と非金属元素の結合は共有結合,非金属元素と金属元素の結合はイオン結合,金属元素と金属元素の結合は金属結合

とそれぞれ分類できます.有機化学では,主に共有結合とイオン結合の2つを扱うので,これらについて考えることにします.

共有結合

2つの原子がそれぞれ電子を同じ数ずつ出して,2つの原子間で電子対を共有することで形成される結合を共有結合と言います.

イオン結合

2つの原子間で共有されている電子対が電気陰性度の違いにより,片方の原子に電子対が偏り,その結果生じたイオンの間に働く静電気力(クーロン力)によって形成される結合をイオン結合と言います.

最初に化学結合は共有結合とイオン結合(と金属結合)があると書きましたが,完全に共有結合または完全にイオン結合というわけではなく,実際は共有結合性何割イオン結合性何割といったような中間の形をとります.そこで,共有結合とイオン結合の間程度の結合を極性共有結合と言います.

電気陰性度

各原子において,電子を引き付ける力の度合いのことを電気陰性度と言います.
電気陰性度は周期表の右上にいくほど大きく,左下にいくほど小さくなる傾向があります.最大はフッ素で最少はセシウムです.希(貴)ガスは定義されません.電気陰性度の大きい原子(周期表右側)は電子が好きな原子で,小さい原子(周期表左側)は電子があまり好きではない原子,くらいに覚えておくとよいと思います.
有機化学ではおまけ程度の話ですが,電気陰性度の定義にはPaulingの定義,Mullikenの定義,Allred-Rochowの定義などがあります.それぞれ数値は少しずつ異なりますが順番は同じです.

電子対を共有する2つの原子間の電気陰性度の差によって,結合の種類を定義することができます.
電気陰性度の差が,

0.5以下の場合,共有結合,0.5 ~ 2.0程度の場合,極性共有結合,2.0以上の場合,イオン結合

とそれぞれ決めることができます.しかし,これは目安なので厳密なものではありません.

極性共有結合

極性共有結合を形成する分子の例として2つの分子を考えます.
1つ目はCH₃ClのC-Cl間の結合についてです.
炭素原子の電気陰性度は約2.5,塩素原子は約3.0です.電気陰性度の差は約0.5で塩素原子の方が大きいのでC-Cl間の電子はやや塩素原子側に寄ることになります.その結果,塩素原子は電荷が少しマイナス,これをδ-と表記します.一方,炭素原子は電荷が少しプラス,これをδ+と表記します.
2つ目はCH₃MgBrのC-Mg間の結合についてです.
炭素原子の電気陰性度は約2.5,マグネシウム原子は約1.2です.電気陰性度の差は約1.3で炭素原子の方が大きいのでC-Mg間の電子は炭素側に寄ることになります.これもCH₃Cl同様に考えると炭素原子がδ-,マグネシウム原子がδ+になります.

双極子モーメント

ここまで,原子間の電気陰性度の差による極性について考えてきましたが,分子全体の極性の大きさの度合いを表す指標として双極子モーメントと呼ばれるものがあります.分子中の正電荷の重心と負電荷の重心のずれの大きさとも解釈できます.双極子モーメントは以下の式で定義されます.

μ = Q × r

ここで,Qは電荷の大きさ,rは電荷間の距離をそれぞれ表します.単位はD(デバイ)で表されます(1 D = 3.336×10⁻³⁰ C m).
電荷間の距離については正電荷の重心と負電荷の重心の距離として計算します.
例として塩化ナトリウムNaClについて計算してみることにします.
NaClはナトリウムイオンNa⁺と塩化物イオンCl⁻から構成されており,これらをそれぞれ+1,-1の電荷をもつ点電荷と考えます.点電荷間の距離は2.36Å
(Å = 10⁻¹⁰ m)なのでその双極子モーメントは11.3 Dと計算されます(計算式は図を参照してください).NaClの双極子モーメントの実測値は9.0 Dで,計算値は実測値より大きくなっています.これは実際のNaClは完全にイオン結合ではないことを表しています.

形式電荷

形式電荷はその名の通り,分子中の原子が形式的に持っている電荷の事を言います.各原子が元々持っている価電子数に対して,化合物中のその原子が持っている価電子数が増えたか減ったかで計算します.
例として2つの分子を考えてみることにします.
1つ目はオゾン分子O₃です.構造は図の通りです.
結合間の電子対は2つの原子で分け合うこととします.これを踏まえて考えると左の酸素原子の所有する価電子数は,
非共有電子対2対(電子4つ),真ん中の酸素との二重結合電子4つのうちの半分(電子2つ)で合計6つになります.
元々酸素原子は6つの価電子を持つので,電子数の差し引きは0です.よって,形式電荷は0になります.
真ん中の酸素原子の所有する価電子数は,
非共有電子対1対(電子2つ),左の酸素との二重結合電子4つのうちの半分(電子2つ),右の酸素との単結合電子2つのうちの半分で合計5つになります.
元々酸素原子は6つの価電子を持つので,1つ電子が減ったことになります.電子(負電荷)が1つ減ったことになるので,形式電荷は+1になります(符号に注意).
右の酸素原子の所有する価電子数は,
非共有電子対3対(電子6つ),真ん中の酸素との単結合電子2つのうちの半分(電子1つ)で合計7つになります.
元々酸素原子は6つの価電子を持つので,1つ電子が増えたことになります.電子(負電荷)が1つ増えたことになるので,形式電荷は-1になります(符号に注意).
それぞれの形式電荷を考慮してオゾン分子は図のように描きます.

2つ目の分子は(CH₃)₃NOです.構造は図のようになります.
炭素原子の形式電荷はすべて0です.ここでは窒素原子と酸素原子について考えることにします.
窒素原子について,
4つの単結合を形成しているので所有する価電子数は4つになります.
元々窒素原子は5つの価電子を持つので,形式電荷は+1になります.
酸素原子について,
1つの単結合と非共有電子対3対なので,所有する価電子数は7つになります.
元々酸素原子は7つの価電子を持つので,形式電荷は-1になります.
形式電荷を考慮すると,(CH₃)₃NOは図のように描くことができます.

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