女性疾患に対して男性薬剤師ができることは?子宮内膜症の治療を学んで考える
女性の健康意識について調査した結果では、薬剤師に健康相談したことがある女性は全体の3割弱と言われていて、男性薬剤師となれば更にその割合が低下することは目に見えています。
わたしが以前勤務していた病院でも、産婦人科病棟で服薬指導を行う薬剤師は女性と決められており、男性がそこに関わることはありませんでした。
そういった状況が続くと、他疾患よりも女性疾患に対する意欲と興味が薄れてしまうというのが男性薬剤師の現実ではないでしょうか?
緊急避妊薬の調剤に関する話題がのぼり、緊急避妊薬について勉強するようになったり、アンチ・ドーピング活動の中での女性アスリートの無月経の話題などを通して、女性疾患に対しても何か男性薬剤師としても関わることができるんじゃないか?と思うようになりました。
女性疾患の中の子宮内膜症
子宮内膜症の薬による治療としては、対症療法としての鎮痛薬(NSAIDs)の使用やホルモン療法としてのGnRHアゴニスト・アンタゴニスト、LEP(低用量エストロゲンプロゲスチン)、プロゲスチン、ダナゾールといった選択肢があります。
保険薬局でもこれらの薬を服用する患者さんと対面する機会は多々ありますが、性別の壁もあり「女性でもないのにこの辛さ、痛みがわかるのか?」「ナイーブな話なのであまり異性に突っ込んで欲しくない」と思われるのではないかと、一歩踏み込んだ説明、服薬フォローをするのに少し躊躇してしまいます。
積極的に質問してくれる方も居ますが、半数以上は自分のことを語りたがらない人。そういう方から情報を引き出し、それに見合った情報を提供できるのか?が鍵になってきますが一筋縄にはいきません。
保険薬局での処方の大半は鎮痛薬&LEP or プロゲスチン
病気について知ることや、治療法について知ることも大切ですが、薬剤師の仕事としてはやはり、
✅きちんと薬を服用してもらうこと(継続性)
✅服用する薬に対する正しい知識を身につけてもらうこと(効果&副作用)
です。
きちんと薬を服用してもらうこと(継続性)
服用開始後、ホルモンのリズムが安定するまで2~3ヶ月かかると言われており、その間不正出血が逆に多くなったり、頭痛や悪心が起こりやすい時期が続きます。
それを事前に説明しておくことで、症状悪化に伴う服薬中断を防ぐことが可能となります。
また服薬忘れに対する対応もきちんと説明する必要があります。
服用する薬に対する正しい知識を身につけてもらうこと(効果&副作用含め)
LEPは「周期投与(1ヶ月に1回の休薬期間を設ける)」や「連続投与(休薬期間を置かない)」など服用方法が複雑なので、患者さんが十分理解できていない場合も少なくないと思います。
時に説明も不十分で、服用開始日についての説明さえも聞いていなかったり、LEPと一緒に処方されてくるプラノバールの服用順を聞いてなかったりする場合もあります。
・服用開始日については、どの薬剤も初回は「妊娠をしていない事を確認後」となるので月経が来てから。
・生理不順の場合には、一旦月経を誘発してから(リセットしてから)になるので、プラノバール服用中止3〜5日後出血がみられた日を1日目とカウントしてLEPの服用日を考える
なぜそのような飲み方になるのかの理由(原理)も説明をする上で覚えておく必要があります。
まずはそれぞれの薬の特徴を理解し、正しく患者さんに説明できるようになるといいですが、常に薬に触れていないとどれがどれだったか記憶が曖昧になるので、このあつパパブログの一覧表を出力しておいて、確認しながら行っています。
連続投与のほうが、周期投与に比べて症状の改善効果が高く、子宮内膜症性嚢胞の縮小率も大きいと言われているため優れているように感じますが、実際には希望しない人も多いようです。
その理由としては
・体への影響があると思う
・月経は自然なものなのでコントロールしてはいけないと思う
などが挙げられるようです。
正しい知識を持って、ライフスタイルと病気の状態に応じた適切な薬剤が選択できるといいですよね。
注意すべき副作用としては患者さんへ配布するカードにもあるように「血栓症」です。内服開始から4ヶ月以内の発症リスクが最も高いと言われています。
カードには血栓症の兆候であるACHESの特徴を書いていますが、何となく取っ付きにくい言葉で書かれているのでスーッと心の中には入ってきません。(説明する側もそしておそらく受け取る側も....)
A:abdominal pain(激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye/speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)
このあたりも独自のパンフレットを作成する等の工夫が必要なのかもしれません。
血栓症も必要以上におそれないように、発症頻度は使用していない人に比べてわずかに増加するが、妊産婦における発症頻度より低いなど実例を示して説明する必要があります。
また、初回問診ではLEPのチェックシートを利用して処方をの可否を判断していると思いますが、服用年数が経つと患者さんの状態も変わってくるので、日常診療で遭遇する頻度の高いものくらいはたまにチェックしてもいいかもしれません。
・40歳以上
・肥満(BMI≧30)
・喫煙(35歳以上で1日15本以上は禁忌)
・高血圧(140/90mmHg以上)
・糖尿病
・片頭痛 など
その他、お薬の飲み合わせに関しても、代謝酵素に関連した相互作用が比較的多い薬剤となっているので、新しく薬が増えた場合にはその都度確認は必要です。
まとめ
子宮内膜症の原因がはっきりしないため
月経困難症に対しては
”我慢”をするのではなく
早めに婦人科医を受診し
NSAIDsのみならずLEPなどを積極的に使用する
これ大事ですね。
薬局では、やはり気軽に相談して欲しいですということをポスターやのぼりで表して意思表示をすることも大切かもしれません。
また、市販薬の痛み止めを買いに来た人にも、その背景をきちんと聞き取り必要に応じて受診勧奨ができると更にいいかもしれない。
【医療機関への受診を促す月経異常】
①高校生になっても初経がこない
②3ヶ月以上の無月経
③貧血を起こすくらいの過多月経
④コントロール困難な月経困難症
⑤不正性器出血
ここまでいくつか挙げてきたように、確認すること、説明することは沢山あるので勇気と自信を持って女性患者さんと接し、ひとつずつできることを増やしていき、少しでも女性疾患に関わりを持てるようになっていければいいなと思っています。