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心青ちゃん
心青ちゃんをスキになったのは、中学生のとき。
わたしの夢に彼女が出てきてくれて、何故だか首元にキスをして去って行ったのだった。
性的な意味に捉えなかったし、興奮もしなかったけれど、多感な年頃だったわたしにはかなり衝撃的で心青ちゃんを意識するようになるには十分な理由となる、夢だった。
運にも恵まれて見事に同じクラスとなったわたしは心青ちゃんの、その『しっかりさん』とも呼ぶべき芯の強そうな、でも可愛い容姿にも心奪われた。
だからかわたしの幼なじみの女の子と、心青ちゃんのスキな男子が一緒だと、幼なじみから聞いたときには、少なからずショックを受けた。
心青ちゃんを神格化(というのもおかしいが)していたわたしには、心青ちゃんが酷く俗な存在に思えたのだった。
男子なんかスキになるなんて! 心青ちゃんには軽い怒りさえ覚えた。
そういうわたしにも、ほかに片思い中の男子がいたのに。心青ちゃんには迷惑な話だったと思う。
わたしは心青ちゃんに、何でも良いから接触を試みた。
心青ちゃんが国語のテストで『米を研ぐ』の『研ぐ』が書けなかったと言えば一緒に落ち込み、
心青ちゃんから社会の授業中、「mapleちゃん、存ざいのざい、ってどう書くんだっけ?」という手紙が届けば、喜んで(でも平静を装い)、「在」と応えた。『しっかりさん』の心青ちゃんを、わたしが少しでも助けられることが嬉しかった。
「心青ちゃん、可愛いね」言えば、
「mapleちゃんはキレイだね」
ふたりの世界なので、構わず、褒め合った(いま思うと恥ずかしい)。
「担任がさー」ふたりで愚痴を聞き合った。
心青ちゃんが大学生になり、わたしが引きこもりになった頃。
カセットテープにわたしのfavorite songsを録音して送った。
お礼の手紙が届く。
「先日、ビッグサンダーマウンテンに乗ったときくらい、うれしいです!」
心青ちゃんにはわたしのすべてを、余すことなく知って欲しい。そして恥ずかしいから直ぐに忘れて欲しい。
そんな不思議な気持ちだった…。
わたしが精神科を退院した頃、心青ちゃんは結婚した、らしい。
らしい、というのは心青ちゃんから直接の結婚報告はなかったから。
それで良いと思った。
わたしは心青ちゃんをスキだけど、心青ちゃんの夫になった人には、1mmも興味がなかった。
心青ちゃん。お元気ですか。
【追記 心青(みお)ちゃん、は仮名なのでしたー】