157『アオのハコ』と『タッチ』
「二次小説『アオのハコ』」を読まれていたら気づかれたでしょうが、地の文で『タッチ』に言及してるのはもちろん理由があってで。『アオのハコ』では連載誌であるはずのジャンプを持ち出し、『タッチ』では同時期に連載していた作者自身のマンガに言及する箇所があるのですが、私が恋愛にスポーツを絡ませた新旧二つのマンガを並べて論じたいのは、新しい方は旧い方を徹底研究した成果と窺えるからです。
実は『タッチ』の影響としては『ヤマノススメ』で論じたことがありました。主人公「雪村あおい」のパーティー仲間「倉上ひなた」のネーミングを元に論じたものですが、結果的には参考にしたのは上杉達也―浅倉南の関係だけと思い至ったのです。他の人物設定は山マンガをやる上での作者しろの考え方の反映、オリジナリティです。
しかし『アオのハコ』、どうも「ジャンプのタッチを目指す」という企画意図が見えてくる。今はAMEBAブログに移転してるけど、YAHOOブログでさんざん論じて、多分個人ブログでは『タッチ』関連の記事が一番多いのが私のブログと思ってて。
まず下の名前から。たいき、ちなつ、ひな。たつやとみなみから考えると、たいきとたつやでは「た」、ちなつとみなみでは「な」が同じ位置にある。ひなには、みなみの「みな」が隠れてる。
そして人物設定。鹿野千夏と蝶野雛が浅倉南を分離したキャラクターと断定できる。千夏は人気者を、雛は新体操という側面を受け継いでいる。
猪股大喜の目標のインターハイは、上杉達也にとっての甲子園とは若干違う。甲子園は和也の、南の、達也の目標だったが、実際に挑戦するのは選手である和也で達也。しかしインターハイは競技は違っても会場は同じ県であり、共通の目標になり得る。そこが『アオのハコ』と『タッチ』の違いの一つ目。
ただし浅倉家と上杉家の間に立てられた「子どもたちの部屋」、インハイの部活場所である体育館と相似点があり過ぎる。同じ時間に部活するから気になるし気にかけ易いし、だから人間関係が生まれやすい。そして三角屋根の点も、達也、南、和也の子供部屋を参考にしたと言っているように見えるのです。体育館には他に丸屋根のデザインもあるから。
そして二次小説の方でも書いたけど大喜へのきびしいしごき。それは柏葉英二郎の上杉達也への、嫉妬と怨嗟と羨望からくる復讐劇を換骨奪胎したものと伺える。また笠原匡は私には原田正平と作中の役がそっくり。
もちろん両者には違いもあって、まずはキャラデザについて。主人公格の目を大きくするというキャラデザの仕方は似てるけど、あだちマンガでは顔のデザインが簡素だから、標準とコメディやギャグの変化がシームレスになってる。一方で『アオのハコ』では千夏ちゃん、大喜くん、雛ちゃんのデザインを凝ったため、ギャグやコメディでの落差が激しい。もっともマンガやアニメでも、その変化もそれほど悪くないと思いました。
キャラデザではもう一つ、対戦相手により劇画調が出てくるのですが、大喜くんとの絵柄の違いが著しく、若干ですが違和感もあって。それが先行作品の『タッチ』では、原田正平や柏葉兄弟などが該当しますが、意外に違和感がない。それはあだち充のデビューが劇画の時代であり、苦手の劇画をたっぷり吸収したあとの作品が『タッチ』だったという理屈が思いつく。だからあだち充本来の軽妙さと重厚さが同居しても違和感ないということ。
また『タッチ』は高校入学してから、授業風景は少しはあったけど学園生活にあるはずの学校行事や大きい休みの時間は描かなかった。それは甲子園というテーマを完遂するため、テーマを明確にするのに有効だったけど、特に達也は男に人気があるようだったからそんな場面も多く見たかったという欲も私にはあって。
それに対して『アオのハコ』、夏の花火大会を観に行くという話があって。まさに部活一辺倒でない普通の高校生活。第五巻でどう展開するのか楽しみです。
そして最後に共通項、二年という期限。実は上杉達也が本格的に野球をやったのは原作では高一の秋から高三の夏までだから二年弱。浅倉南のマネージャー業は高一から柏葉英二郎がやってくるまでだから二年強。そして猪股大喜くんと鹿野千夏ちゃんが栄明高校で一緒にいられる時間は学年が違うから二年。これは偶然の一致ではないと思うのでした。(大塩高志)