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214 二次小説『アオのハコ』㊷ 第十一話「ダサいぞ!!」、その4

 鹿野千夏です。今回は何の予告も前振りもなく蝶野雛さんの語りで始まり、しかもそのまま三話までいったことに驚かれたと思います。今回は蝶野さんの話しなので当然蝶野さんに話しを振ったのですがどう語ろうかと、とりあえず一話分を書いてくれたのですが、何の予告もなしにいった方がいいと、その方がインパクトあるし蝶野さんは自分の名前を入れるので勘違いされる恐れもないから、私の判断でこのような構成になったのです。
 でも大喜くんの大学練習への参加はこのようにはいきません。誰に大喜くんのことを語ってもらおうと考え、針生先輩にやってもらおうかと思ったのですがこの点については大喜くんについて思い入れがありすぎると思い、候補から外させてもらいました。それに小説の世界観としてもっと広くしたいとも思いました。
 ですから佐知川高校の兵藤将太さんに今回はお願いしました。

 猪股大喜くんのことは針生とペアを組んだダブルスで直接戦った時、そしてうちの遊佐との対戦を見学した時、両方の視点で観ることが出来たからよく覚えてる。元気があって純粋で正々堂々としたプレースタイルだった。ただそれも遊佐との戦いでは封殺されてしまった感はある。
 そして俺との対戦の前、針生は猪股くんに私のプレーを見せた。それから猪股くんは私のプレースタイルを理想としてくれたようだけど、針生は俺のバドを全てにおいてカンストしてると言ってるが、それは勿論彼らから見える俺の一面だ。俺も大きな挫折をしたことがある。猪股くんの彼女の鹿野千夏さんが主導するこの小説は挫折と復活が一つのテーマだから、私もそれを国情しなければ不公平だろう。俺も格好悪い時期があった。
 俺には彼女がいた。男子校で栄明と同じくスポーツ強豪校の中高一貫、佐知川の中学に入学したが、体力づくりのためスポーツクラブにも入れさせてもらうことが出来た。そして一年後、ジュニアでちょっとは名を知られていた俺はそこで質問してくる女の子と出会い、ミサンガこそしなかったものの次第にインターハイを目標にしていく同志となっていった。
 鹿野さんと猪股くんとは違い同じ競技だけど、年齢は俺の方が一つ上でお二人さんとはちょうど逆。学校は違ってもスポーツクラブで落ち合い、お互いの試合を可能な限り応援し合った。そして鹿野さんとは違って俺は中三で全国に行き、ベスト4まで行けた。それは決して満足な結果ではなかったけど高校に行けばいくらでも挽回できると思い、彼女にもそう自信を言っていた。
 だが鹿野さんや猪股くん、針生の栄明と同じく中三の部活引退後から高校に出入りできる佐知川、高校のテニスで俺は振り回された。そう、俺がジュニアで頭角を現して彼女にもその技術と体力づくりを教えたのはテニスであり、全国四位なら高校でも十分通用すると思ってた。しかし俺の身体は高校でテニスをするには大きすぎ、左右前後に振り回され、特にシングルスでは軽く動くことを学んでいなかったため無駄に体力を使う足の動きをし、軽い体重の一年先輩にも2対1で負かされるのが常だった。
 そして最悪の時が来た。中三同士のゲームで気負った俺は無理をして、足を攣ってしまった。それまでも結構限界だった俺は一気に自信をなくし、彼女に泣きついた。彼女も一緒に全国に行けたが一回戦敗退していた。
 俺の高校テニスの苦戦をそれまでにも聞いてくれた彼女は思う所があったようだった。二つの選択肢を示してくれた。
「将太が大変なのはわかった。止めたい気持ちもわかる。でもインターハイの約束はどうなるの?」
 俺は言葉に詰まるしかない。
「ごめんね将太。私は将太がテニスこのまま続けて暗中模索するのも全然いい。でも私と一緒にインターハイを目指すなら他のスポーツもありかと思って」
「でも俺にはテニスしか…」
「バドミントン。私も自分の高校の見たけど面白いかもよ。でも将太、馬鹿にしちゃ駄目だよ」
 そして俺は体育館にに行き、佐知川のバドミントン部を見学した。
 それからの話しはまたにしよう。今はインターハイ前、翌年に俺の進学が決まった大学に針生と猪股くんを招いた時の話しだ。針生には話していたが猪股くんに言っていなかったらしい。俺がいたのを結構驚いていた。でもその驚きは後日訊いたところ、嬉しい驚きだったらしい。
 そして練習。ガタイが大きい俺は慣れたものだが猪股くんは息が上がり、針生は必死になって付いて行ってる。でも驚いたのは猪股くんは足だけは動いていること。そういえば県大会でも遊佐とのシングルスでは足が動いてなかったが、俺と対戦したダブルスでは途中から針生の動きに引っ張られる形で動きが機敏になっていった。正直言う。俺は一瞬、針生よりも猪股くんが怖かった。ここで化けるのかと。
 実際はそんなことなかったのだが、俺がゼリー飲料を啜っているのを物欲しそうに見ていたから声をかけてみた。
「いる?」
「いや! 結構です!!」
「君さ。余裕なくなると力む癖あるよね」
「えっ」
 二年は公式戦で対戦することはない。俺の彼女に教えた時のように、どうも俺はアスリートとしての猪股くんに惚れたらしい。俺のノウハウを少し教えてみることにした。
「打つ直前に右肘引いちゃってるよ。もっと力抜いてインパクトの時だけ」
 そう言って俺は猪股くんに見せてみる。
「そうそう手首柔らかく。力強さより角度意識して」
 猪股くんのフォームは俺から見ても美しいと思えた。これなら期待できそうだ。
「羽根あげてもらえますか」
 猪股くんはネット向こうから来たショットを力強く打ち返した。そのスマッシュは不意だったら俺でも辛うじて返せる迫力だつた。
「ナイスショット」
 声は平静だったが自分で教えながら驚いていた。だから激励してやった。
「今のが打てたら遊佐からもっと点取れたとかもね」
 返答がなかった。むしろ祖の目つきはもっと何か言って欲しそうだった。
「ダブルスの時は結構いいショットもあったのに。シングルスは動きも堅いし、振り回されて守りばっかりで。残念だったなって」
 猪股くんは自分の武器をあまり自覚できていないようだった。
「俺はこのままだと来年のインターハイ二枠、針生と遊佐に決まりだと思うけど」
 俺からの挑発だ。
「どう思う?」
「俺もそう思います」
 素直に認めるのが猪股くんか。
「それらその方がわかりやすいです。針生先輩にはいつも練習相手してもらって目標の存在ですし。遊佐くんとはこの前悔しい思いをしてリベンジしたいと思っていたので」
 俺はこのままだとと言った。それを受けての猪股くんの言葉だった。
「どこを目指せばいいのか明確な方がわかりやすくていいです。今は二人に全然敵わないけど」
 つまり目標は遥か彼方と認識した上でそれでもなお努力する。向上心の塊、化け物と俺は猪股大喜を見定めた。
「追う方が頑張れるタイプなので」
 それでいきなりスマッシュ打つのが大喜くんだった。それでもかなり難しいと思うけど、俺はその時そう思った。追われている奴らは、もちろん針生から勝ち逃げした俺を含め、努力の仕方を知ってるから先にいる訳で。
 でも俺がバドに転向する前後に聞き出した遠藤ミチロウ率いるザ・スターリン。その中の歌詞、吐き気がするほどロマンチックだぜ、をモットーに俺はバドの世界に飛び込んだわけなんだが、驚いたのはこんな尖った音楽、パンクロックが当時確かに日本を席巻したことだ。そんな時代があったんだと、もちろんそれはメジャーシーンがあっての自主制作/インディーズからの挑戦という構図だったらしい。それは大穴が勝ちをさらう展開、俺はそれを猪股大喜という栄明の新顔に期待したんだと思う。

 その夜は待ちに待った花火大会。大喜からのメッセージは匡が来られないというものだった。すると大喜と二人きり。匡が気を利かせてくれたという事情は露知らず、おデートになったことに私は焦った。でもここで怯むのは蝶野雛じゃない。「私は/いいよー」。とメッセージとしては軽く答えておいた。電話による音声のやり取りでなかったこと、この時ばかりは私にとって幸いだった。
 でもまたしても、三年前の再現。気持ちが逸ってミスが出て、自分が納得できない状況になってしまう。落ちつけ落ちつけ。まずCDを止めてもらい深呼吸する。そしてゆっくり手足を動かし、その曲げ伸ばしを確認する。手の表情、足の位置にも気をつける。よしよし、自分の身体。そして改めてCDをかけてもらい、インターハイのための演技を確認することが出来た。
 そして学校で自分で着付けして、花火大会に行く。目指すはりんご飴の夜店。狙いは当たり、大喜がちょうど買った直後のようだった。
「それ私にくれるの?」
「ちゃんとお代はもらうからな――」
 どうだ大喜、これが蝶野様の浴衣姿だ。
「なによ」
「あ、あ…と。300円な」
「わかった」


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