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185 二次小説『アオのハコ』㉚ 第八話「一本っ!」、その4

 ここで私は私たちのインターハイへの物語を小説として読んでいる皆さんに対して白状しなければならない。私は大喜くんの一年生での挑戦、ダブルスでもシングルスでも敗退、インターハイへの道は遠いことを覚悟してた。そうなることを確かな情報とデータによって教えてもらっていた。
 本来はミサンガの同志として大喜くんの活躍に一喜一憂したかった。でも私は他人が思うほどメンタルが強くない。私もインターハイを目指す身、それがどれほど困難か昨年身に染みて分かっていた。だからその気持ちのまま自分のバスケをして大喜くんの結果を知る手もあった。でもそれだと淡い気持ちを持ってしまって、負けの報告に自分のことのように悲しんでしまうと自分で思ってしまった。
 だから私はバドの県大会の前に針生くんに、大喜くんの現時点のスキルからインターハイへの可能性、その正直な所感を問いただしたのです。最初は大喜の実力ならいい線行けると濁していた。しかしこうと決めたら譲らない私、覚悟はしてるから正直に言ってと、答えは行けるか行けないかで、私も想像はついているからと食い下がったのです。
 そしたら針生くん、
「行けない、無理だ」
 と断言したのです。覚悟はしてた。それでも私は一瞬目がくらみ、大喜くんのために目が潤んだ。だから右手で目を覆って顔を伏せ、しばし針生くんを待ってもらう。そして、
(ごめん、大喜くん)
 と音には出さず、私の心の中の大喜くんに謝った。
「もういいよ。理由を聞かせて」
 最初は針生くん、私の充血した目元を見て戸惑っていたようだった。
「本当にいいよ。顔を見ないから言って」
 私の言葉に安心した針生くんは男バドのインターハイ関連の歴史、一年生での出場人数やその後の活躍、二年生や三年生での初出場の実例などを教えてくれた。そして今の大喜の実力ではトーナメントの組み合わせでは良い所まで勝ち進むかもしれないが俺とのペアでも優勝は難しい。シングルスでは二人が行けるが決勝に行くまでのハードルが高すぎると、針生くんは私の淡い期待を打ち砕いてくれたのです。くれた、そう。それは私には皮肉でも何でもなかった。私が女バスに専念できる、悲しいけど確かな助言だった。
 そう、私はこの時、同志の大喜くんを気持ちで裏切った。だから玄関で私が問いただし、おばさんから大喜くんのダブルスでの負けを聞いたとき、冷静に受け止めることができた。針生くんがいち早く報告してやろうかと言ってくれたけど、それは遠慮しておいたのです。やはり帰った猪股家で聞きたかった。
 でも翌日の私の籠原戦、決勝と被る大喜くんのシングルスについては私から針生くんに連絡を入れると言っておいた。私が優勝した場合、おばさんは自分の息子の負けを言いづらいと察せられた。そのときは大喜くんの結果をこっそり知り、猪股家では私の祝福を(居候させてもらっている猪股家の人たちのために)素直に受けてあげようと思っていたのです。
 そして結果は私の思惑、覚悟の通りになったのです。大喜くんは暗い時間になって帰ってきた。しかし私が祝福される居間に入ることができず、また当てなく夜空になっている外に飛び出したのです。
「走り抜けた先には何もない。ひとまず家に帰るしかないのはわかってた」
 ずいぶん経ってから大喜くんは私に話してくれた。


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