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151 二次小説『アオのハコ』⑩ 第二話「インターハイ行ってください」、その4

 めでたく春、四月。私鹿野千夏と針生健吾くんは高二に進級、猪股大喜くん、蝶野雛さん、笠原匡くんは高校(高等部)に入学した。でも運動部、特に中高一貫校ではあまり関係ない。すぐにインターハイ、甲子園予選の準備が始まる。私はエースとして女バスのレギュラーを確保してるけど、一緒にインターハイを約束したバドの大喜くんはちがう。クラスメイトの針生くんに聞いてみたら有望株として期待されているみたいだけど、実際のその道はかけられる時間は短いのに、長く険しいものだという。
 ここからは針生くんからの受け売りです。まず少なくないバド部の部員内で部内戦というつぶしあいをする。そして初めて公式戦に出れて、まず地区予選でベスト16にしぼられ、県予選でまた篩にかけられて優勝と準優勝だけがバドミントンでインターハイに出られるシステムだという。
 そして自分ではさすがにその場では言わなかったけど、針生健吾くん、実は昨年県大会三位で惜しくもインターハイを逃した栄明のバド部のエース。しかも昨年だから私と同じ一年生だった。そしてこの時さすがに報道はされなかったけど、私と針生くんの仲がちょっとした噂になったことがあったのです。今から振りかえってみれば二人とも少しでも心の余裕があればそういう仲になってたかもしれない。でもその時は私は高一でのインターハイ出場でいい意味でも悪い意味でも重圧にさらされ、針生くんはあと一歩でインターハイを逃して悔し涙を流し、そういう仲に発展するきっかけがなかったのです。
 入学初日の体育館にもどると、遠目に見るとバド部は練習でなく、部員を立たせてミーティングをやっていた。とすると新入生をふくめてのガイダンスであり、それは上に記したインターハイに関すること以外考えられなかった。
 一方でお披露目の日にしている部もある。ギャラリーは欄干に寄りかかっている新入生。特に持ち上がりでない受験組では合格してから栄明に来た子もいるはずで、スポーツ強豪校の程度をこの場で目の当たりにする栄明の新人さんもいるはずだった。
 そのギャラリーを前に、私は縦横無尽にバスケのコートを駆ける。もちろん紅白戦で怪我するわけにはいかないからみんなセーブしてプレーしてるけど、それでも高校バスケの速さと正確さと鋭さに圧倒されるはずだった。
 それに対して華麗さとしなやかさで勝負するのは新体操の蝶野雛さん。Tシャツを羽織ってだけど手足を大きく動かしながら情緒さえ感じてしまう演技に私も一時魅了される。それもそのはず全中四位。お父さんは体操の元日本代表。私や大喜くんのお母さんもバスケの選手だったけど、それとは段違い。正にサラブレッド、選ばれし者。
 そして女バスの紅白戦の休憩時間、蝶野さんをみると大喜くんと笠原くんと話してる。私は女バスの仲間と羨ましく語りながら、大喜くんともっとフランクに話したいと思ってた。
 そして帰り道、私は右にならぶ針生くんと談笑しながら歩いてた。恋人という意識は微塵もなく、でも話していて楽しいクラスメイトの一人として。実は針生くんには心に決めた人がいて、私も大喜くんが好きだと言ってある。だから針生くんは安心して、私に彼女さんのためのプレゼント選びをお願いしてきたのです。教室でのことだったけどお互いの好きな人はクラスメイトに知られていたので、私も気持ちよく応じたのです。
 そしてクラスメイトの男の子と歩く昼間のアーケード。恋人ごっこと思ったら少しときめいた。大喜くんへの申し訳ない気持ちもあったけど、直射日光が避けられた穏やかな光のなか、私は大喜くんとこんな時をすごしたいと夢想していたのです。


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