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211 二次小説『アオのハコ』㊵ 第十一話「ダサいぞ!!」、その2

「いいよ」
「ほんとに――」
 大喜は応えてくれた。感情が爆発しそうだった。だから勢い込んで二人だよと告げ、その場を私が去るケースもあり得た。でも、
「猪股! 電話きてたよ」
 仲良くしている新体操の同僚が悪意なく、横槍を入れた形になってしまった。
「じゃあ今度くわしくな」
「わかった」
 私はエネルギーを使い果たし、二人でを言うチャンスを逃してしまう。多分大喜は親友の誘いとしてしか捉えていない、そう察することが出来てしまった。だから残った新体操の女の子と図書館に戻ることになったけど、すぐ掲示板の花火大会の告知を見つけてしまう。
「どうする? 今年は行く?」
「あ。ごめん。他の人と行く約束しちゃった」
「おデートでしょうか」
 やっぱりバレてる。
「男女二人で花火大会はおデートでしてよ」
「ほんと違うんだよ。向こうもただ友達として…」
「楽しめるといいね」
 やっぱり彼女はいい友だち。私はとびっきりの笑顔を向けていた。
「さっき邪魔してごめんね」
「別に大喜とは――」
「はいはい」
 私の日頃の態度を見れば、大喜にホの字ということはバレバレだったみたいだった。
 そして次の日、洗面台でにやけてたから昨日の復讐、膝カックンしてやった。
「何一人でニヤついてるの」
「おわっ。雛っ! 普通に声かけろって」
「鏡越しにニヤ顔見えたからつい。大喜ってよくニヤニヤしてるよね。妄想癖あるでしょ」
 はたから見れば本当に罵詈雑言。本当に大喜は私にとって掛け替えのない、信頼できる友達だった。
「今のは大学生の練習に誘ってもらえたからそれが楽しみで」
 このバドバカめ。自分の好きなことに一生懸命。本当に掛け値なし。大喜は素敵なやつだと思えた。
「皆のインターハイも近づいているし。こういう機会は大事にしないとな」
 こうやって一歩ずつ大喜は強くなっていくんだ。それを私は眩しく、それでも微笑ましく見ることが出来た。
「その練習花火大会の日なんだけど時間的には間に合うから」
 忙しい奴。一日に二つもでっかい予定を。でも私もだけど体力が一番有り余っている高校生、何も問題ないはずだった。
「わかった。私もどうせ練習あるし」
「楽しみだな! 屋台の焼きそばって美味いんだよな」
「花より団子かい」
 そして大喜が私が恐れてた、想定された最悪の言葉を言ってしまった。
「そういえば花火大会ってほかに誰かくんの?」
「え?」
 それでも私は驚いた。足元から床が消え、足がすくわれて地の底に落ち込む感覚を味わった。
「え」
「あ、あーと。誘うのすっかり忘れてた―!」
 大喜への想いを自覚してしまっている今、大喜にだけはこの動揺を悟られたくない。少なくとも私から告白するまでは。だから取り繕って誤魔化すしかなかった。
「おい」
「大喜、匡くん誘っておいてよ。私も適当に声をかけておくから」
 そうと決まればボロが出るまえに私はこの場を退散するしかない。
「頼んだよ!」
 私は大喜の死角で蹲った。体操では数々の結果を残してきて、これからも無双を続けてやると覚悟と責任を自覚していた蝶野雛、こと恋愛に関しては高校生だった。いや、青春を新体操に捧げてきた蝶野雛、新体操のおかげで人気者だったけど、だからこそ人付き合いに長けていたわけではない。
「うまく誘えなかった」
 だから大喜に対してこんなことになった。そんな自分に対し何やってんだ、ただ恨めしかった。

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