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202 テレビ『NHKスペシャル ドキュメント 能登半島地震 緊迫の72時間』
正月一日に放送してくれたことに対しては素直に感謝します。これからは元日だからと言って年の初めを単純に祝えないとメッセージしてくれたこと、NHKもその点ではジャーナリズムの矜持が残っていたと、まだNHKにもジャーナリズムの良心があるとホッとしました。
だから私も率直に批判します。よくできたお涙頂戴ものだと。過度に押しつけないことも含め、震災の悲劇のドキュメンタリーとしてよく出来てると思います。しかし悲劇だけを描き、悲劇と喜劇の残酷な一線が描かれていない。また消防や医療の現場の奮闘を描いている一方、官以外の民間の奮闘を描いていない。さらに石川県や国などの対応の不備が現場に影響したはずだが、その点でも突っ込み不足。
震災の初期対応を番組のテーマにするなら、現場の奮闘と混乱は結果であり、そうなった原因を考察/追及するのでなければ論理的にも科学的にも良質なドキュメンタリーとは言えない。しかも憶測だけど天下のNHK、やる気になれば国と石川県を徹底批判できる映像素材を所有しているはず。現場と国や石川県の当時の認識の違いだったり、今回インタビューに答えてくれた消防や医療の方たちだって、国や石川県の対応を批判してないとは到底考えられない。
また消防など行政機関があてにならないと気付けば近所の人たちの奮闘で救出したケースがいっぱいあるはずで、その物語を無視するのは官尊民卑の典型かと。あるいは石川県の「来るな」を無視して早くに現地入りした民間NPO/NGOもいたから、その奮闘も今後の災害の教訓として生かそうとするなら必要なはず。
また番組では救えなかった命が殆どだったけど、震災の範囲と直接の死者数を考えたら九死に一生を得たケースが官の活動に限っても結構あるはずで、その明暗を分けた残酷を報道するのもジャーナリズムの責務ではないのか? その点を怠ったことに日本のジャーナリズム/ジャーナリストの劣化を見る。
総じて突っ込みどころの多いドキュメンタリーであり、総合テレビではこれが限界、精一杯なことがわかった番組でした。また番組の趣旨から外れるから仕方ない面はあるけど、能登の将来や未来の展望を描かなかったことも私にとっては減点対象。むしろこの困難な状況の中、能登の人にはどんな未来が可能なのか、それはそのまま日本社会、特に地方都市の問題そのものだから、ドキュメンタリーとして考察すべき大テーマのはず。(大塩高志)