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226 二次小説『アオのハコ』㊺ 第十二話「女の子って」、その3
小さな女の子特有のつぶらな瞳。まだ大人になり切っていない高校生の私でも気圧されてしまいそうになる。
「わかる!! ユメもね、ゆかた着ようとしたらぐちゃぐちゃになっちゃって、けっきょくお母さんに着させてもらったの!」
「難しいよね!」
ゆめちゃんは本当に浴衣、私はミサンガの同志、でも難しさを実感している点では似た者同士、仲間と私は安心することができた。でもその相棒は早々に別れなければならない。
「おーい!」
大喜くんの呼びかける声。
「ゆめ!」
それに続くゆめちゃんを名指しで呼ぶ、20代か30代か、年若い女の人の声。
「ままっ!」
ゆめちゃんはもちろんお母さんに一目散に駆け寄り、お喋りしていた私はいなかったように振る舞う。
「どこ行ってたの!」
「放送聞いてたみたいて、すぐ見つかりました」
「よかった」
別に無視されたことに私は残念がることはなかった。お母さんとゆめちゃんが一緒になれたことに純粋に喜べた。
「本当にありがとうございました。何かお礼を! ジュースとか何か…」
「お気になさらず!」
私も大喜くんも高校生。こんなことは大袈裟に言えば無償のボランティア活動とわかっていた。でも私はゆめちゃんに対し、年上の同性として言ってあげなければならない言葉があった。しゃがんでゆめちゃんと同じ目の高さになって。
「もうはぐれちゃダメだよ」
ゆめちゃんは何を思ったか、多分だけど私は一人になったゆめちゃんに自分を投影していたんだと思う。ゆめちゃんはもちろん私のそんな気持ちを分かるはずがない。でもその気持ちから表れた表情を見ることはできる。そこに多分ゆめちゃんも自分と同じ寂しいを見た、反射的に感覚的に思いついたのだと思う。小さい体のゆめちゃんはしゃがんだ私に近づいて膝に足を乗せて私の身体に抱きついてきたのです。
「ゆめ!?」
「まって!」
私も驚いた。この時点では私の気持ちがゆめちゃんにバレてるとはおもいついてもいなかった。でもゆめちゃんは私に対して何かしたいと、力になりたいと察することはできた。ほんのちょっとの会話でゆめちゃんは私の話し友だちになっていた。その私の認識は正しかった。ゆめちゃんは私の髪に自分が付けていたワッペンを付けてくれたのです。
「あげる!」
「え?」
「ゆかたはムズカシイけどね、これならカンタンなの! お姉ちゃんもオシャレさん!」
本当に小さな子供は侮れない。花火大会に来た今日の私の服装が普段着であり、特にゆめちゃんのように着飾ったものでないことを見抜かれている。「でも…」
だからプライドを傷つけられたと思って返そうかと考えたけど。
「ご迷惑でなければもらってやって下さい」
純粋に自分の子供の好意と思ってるはずのお母さんから言われれば、有り難くもらうしかなかった。それにゆめちゃんの満面の笑顔。もしかしたらこんな小さな女の子でも、少しは深いことを考えられるのかも知れない。たとえそうでもこんな笑顔に抗えるはずもない。私も満面の笑顔で応えてあげたのです。
「ありがとう!」
でもゆめちゃん親子と笑顔で別れた後、大喜くんは私を見て笑ってばっかり。
「何笑ってるの?」
「いやっ。別に…」
「失礼だなぁ。せっかくゆめちゃんがつけくれたのに」
でも私自身、夜店の通りを大喜くんと歩いてることを喜んでた。それに私を笑っている大喜くんにプンスカしていることさえ、今までとは違う親密さを察して嬉しかった。
「家に帰るまでつけないとですね。外してるところみたら、ゆめちゃん悲しみますよ」
わかってるよ!
「ちゃんとつけて帰りますよ。せつかくオシャレにしてもらったんだもん」
「じゃあ写真撮っていいですか」
「許可しません」
私の方から線を引いて以来、久しぶりに他愛ない大喜くんとのお喋りだった。そして、漸く20分が経過した。
始めは単独の一発が天高く宙に花開いた。そして連続花火、スターマイン。時には間を開けて、時には重なり合った炎の乱舞を、後から続く爆発音とともに私も大喜くんも見とれていた。一瞬で終わる花火。私はその一発に終わるのか、それとも乱舞できるのか。でも私のその不確かさの不安は現実の音と光のダイナミックさに搔き消された。
「始まったね」
「…はい」
それは私と大喜くんの別れの合図でもあった。
「早く行かないと」
大喜くんは間で返した。
「私も渚たち待ってるから」
「――そうですね。じゃあ、また家で」
大喜くんは名残惜しさを隠しきれていなかった。
「うん。家で」
私は結局は猪股家で会えるからと、安心しきって大喜くんを送りだせた。そして私は渚たちの元へ戻ったのです。
「おかえり千夏。その髪留めどうしたの?」
「色々あって」
渚たちに詳しいことを話したのは翌日のこと。
「てかなんで」
私も顔に表れたこと、渚には気づかれてしまった。
「寂しそうな顔してんの?」
今この時大喜くんは、それが表情になってしまった結果だった。