223 二次小説『アオのハコ』㊸ 第十二話「女の子って」、その1
午後の練習が終わってこの花火大会のため、私たち女バス仲間は何も食べずに我慢してた。
「お腹すいたー」
「まずは腹ごしらえね。千夏何食べる」
「じゃがバター」
渚の問いかけに私は即答してた。しかしそんな私のワクワク感を大なしにしたのは他でもない、大喜くんその人だった。
「お、おーと! ねぇねぇあれっ!」
浴衣姿の蝶野さんと歩いているところを尾行している形になっていたのです。
「二人でテートかなぁ」
「いいなぁ浴衣ー!」
髪も学校で見かける普段とはアレンジしてる。しかもバスケで鍛えた私の観察眼、後ろ髪にほつれがあるのを見逃さない。
「青春って感じだね!」
今から振り返れば傲慢にも、私は大喜くんに裏切られたと思った。冷静に考えれば自分から線を引いてから、こんなことになることは想定できたはずなのに。しかも後々わかったことだけど、大喜くんは蝶野さんの気持ちに鈍感だったことを除けば、大喜くんに責任を押し付ける類ではなかった。
でも自分でも言い過ぎとわかったから、翌朝すぐに取り繕った。洗面所で鉢合わせしたとき、今まで通り笑顔を向けることが出来た。
「今日部活? 制服珍しいね」
「あ、はい。でも午後からは皆で図書館行って夏休みの宿題やろうかと」「なるほど! いいね! 私も真似しようかな」
私はすっかり忘れてた。皆とは同じクラスであり、それに誰が含まれるかを。だから私か前日の大喜くんへの罪悪感からもその時気持ちよく大喜くんを見送ることが出来たのはどうしようもない皮肉だった。
そしてその夜、バスケで遅くなった私は一人で夕食をごちそうになり、大喜くんは隣の部屋で宿題をやっていた。といっても私と由紀子さんがいる居間と大喜くんが座卓を出している部屋のふすまは開かれたまま。由紀子さんの配慮だったと思う。
「どう? 調子の方は」
「やれることは」
私の言葉は少し小さかったかも知れない。もちろん不安はあった。でも日々の練習は充実していたから、こんな時に言う常套句として結果は後から付いてくると、今の練習とトレーニングで培ってきた体力と技術と戦術を実践できれば全国制覇も夢でないと本気でその時思っていた。
「何か必要なものがあったなら言ってね。何泊かするんでしょ?」
「ありがとうございます」
その気遣いだけで私は嬉しかった。そして週末の花火大会、由紀子さんも気づいてしまった。
「浴衣出そうか? 古いけど可愛いのが…」
由紀子さんのお古。それに気づいた私は遠慮するしかなかった。
「いえ! 大丈夫です! 友達と部活帰りにそのまま行こうと思ってたので!」
でもそれはTシャツにハーフパンツというおよそお洒落と縁遠い服装を意味した。でもそれは私ばかりでなく、一緒に行く約束をした栄明の女子バスケ仲間に共通の格好。部活に夢中の女子は着る服に無頓着になる、いい悪いはともかく私たちがその典型だった。
「大喜はどうするの?」
「俺も皆で行くよ」
大喜くんは確かにそう言ったのです。それを聞いた上での蝶野さんと一緒に歩く大喜くん。つまり私は大喜くんに勝手に線を引いてから、大喜くんを信じきれなくなっていた。その自分の嫉妬心に気づき、改めて私は大喜くんに対しての。
しかしこの花火大会の夜、私と大喜くんとの出来事はそれだけではなかった。女の子の迷子に私が声をかけ、それに大喜くんが気づき、いやでも大喜くんとの関係を内省してしまうことになったのです。