225 二次小説『アオのハコ』㊹ 第十二話「女の子って」、その2
花火大会の夜、私たち女バス一同は大喜くんと雛ちゃんを見かけてしまってから道を逸らし、改めて場所取りをして盛大な一発、あるいは乱れ打ちの連打を堪能して20分の休憩になってすぐ、私はトイレのために立ち上がった。
さすがにそれなりに広い会場、トイレの場所も一か所ということはなく、すぐに複数の場所の一つを見つけることができた。だから5~6分で渚たちの所に戻れたはずだけど、女の子、多分小学校にも上がっていないだろう小さい女の子を見つけてしまった。
今日、男性が声をかけるのはあらぬ疑いをかけられる元だからわかる。でも女の人もお祭り騒ぎに夢中になって気づかないか、また自分たちのワクワク感に水を差されたくないからか、女の子の声がか細いこともあってなかなか気づかれない。でも私はそういう意味では育ちがいいからほっとけなく、親戚にそれくらいの子どもがいることもあって気軽に声をかけることが出来た。
「迷子? お母さんとはぐれちゃったの?」
大喜くんが私たちを見つけたのは、まさにその直後だったのです。
「あ。迷子ですか?」
「うん。これから本部に連れて行こうかと…」
「俺も行きますよ。お兄ちゃんもすっていい?」
大喜くんの性格からしてそう言ってくれることは想定できた。そして私にとっても決して迷惑ではないことも。でも私は形だけとはいえ一度断ってしまった。
「いいよ! 私一人で――」
「どうせ方向一緒なので」
多分大喜くんが一人で見つけたなら躊躇していたと思う。でも私とのやり取りから安心できるとお祭りのお客にわかってもらえたと思ったか、大喜くんは女の子の手を取ってその場を去ろうとした。
「まって!」
そう呼びとめたのは他ならぬ迷子の女の子だった。子供は鋭い。反射的に、感覚的に私たち、私と大喜くんとの関係をかぎ取ったんだと思う。たぶん女の子自身のお父さんとお母さんの関係と似たものを。だから女の子は大喜くんと繋いでいる自分の左手をそのままに、右手を私の左手のために差し出してくれたのだと思う。
「みんなで行くの!」
私は大喜くんとともにちょっとした家族ごっこを楽しむことができた。
でも人ごみの中でもそれほど時間がかからないはずの本部への道すがら、大喜くんが人とぶつかって少し時間を無駄にすることになった。でもそれはぶつかった女の人に失礼な言い方になるかも。
「すみません躓いちゃって」
「いえ。ケガとか…」
却って大喜くんを心配してくれるその女性、派手な浴衣でも着られた感のない堂々とした佇まい。私は一瞬隣の大喜くんを忘れ、度々会ってるのに思いっきり外での偶然の再会を喜び合ったのです。
「花恋!」
「ちー!」
「知り合いですか?」
ちょっとした女子会に当然大喜くんは戸惑ってる。でも私と花恋との仲がつい最近からでないとは気づいてるはず。
「幼、小ずっと同じクラスの親友で――」
そして大喜くんにとっては決定的な一言を言ってあげたのです。
「針生くんの彼女」
「え!? え―――!?」
その間に花恋は女の子とひとしきりお喋りしたけど、当然その場でただ一人の男の子に怪訝な興味を持つ。
「そういえば誰?」
「あ。俺、猪股大喜と言いまして、針生先輩にはいつもお世話に…」
最初はつっかえたものの同じくらいの女性への自己紹介としては合格点。私が見ているからか、去勢かも知れないけど堂々と名乗ることが出来ていた。
「いのまたって、あのいのまたたいき!?」
あのって、どこのいのまたたいき。私もそう一瞬思った。でも花恋の感想は続く。
「へぇへぇ! 君がかあ!」
まるで見たことはないのに噂だけは知っていたみたいな態度。出所は針生くん以外考えられない。
「針生先輩、どんな話してるんですか」
大喜くんも当然思いつく。少々迷惑顔で問いただしてた。
「え。あー…」
答えを渋る? なんで? 私との世間話でも歯に衣着せないのが花恋の魅力なのに。
「それは、すごく根性あるって」
大喜くんもその時嘘くさいと思ったという。私は花恋は、この場で言うにはまずいことが真っ先に思い浮んだと、そう察していた。それは…、私はその先の論理の展開を封印してしまった。
そして花恋は針生くんの元に行き、私たちはまた三人になった。本部にはすぐ着いたけどお母さんがまた行ってしまったすぐ後だった。
「今また探しに行っちゃって。放送で呼び出すね」
「俺、探してきます!」
大喜くんは率先して言ってくれた。これが大喜くんの魅力の一つだった。多分女の子には女性が付いた方がいいという大喜くんの気遣いでもあったと思う。だから私たちは広いテントの下で並べられているパイプ椅子にならんで座ることにしたのです。
「さっきのお姉ちゃん浴衣キレイだったね!」
「うんそうだね」
「お花いっぱいで可愛かった!」
針生くんや私と同学年。それでありながら芸能活動としてモデルをやっている。そんな花恋の浴衣姿が様になっていないわけがない。
「お姉ちゃんも着たかった? 浴衣!」
こういう時の女の子は同意を求めてる。でもこんな時でも私は噓をつきたくない。
「うーん。ちょっとだけ。でもこのシャツも可愛いでしょ!」
見た目は何てことないTシャツだけど、それでも可愛いキャラが三人並ぶお気に入りの一枚だった。
「いっちょうら?」
「難しい言葉知ってるね」
漢字は知らないはずだけど、親の仕事で知ったのかもと思いついた。だから私もその言葉に乗ってみた。
「でも一張羅はユニフォームかな?」
「ゆにふぉむ?」
ふぉの後を十分延ばせないのが可愛い。だから私はお姉さんのように噛んで含めるように言ってあげたのです。
「大好きなバスケをする時に着るんだけどね。あれを着る時が一番カツコ良くありたいんだよね」
そして自分のユニフォーム姿、それは本当は自分では見れない姿だったけど、続いて思い浮んだのは花恋に大喜くんの家にお世話になってると打ち明けた場面だつた。
「えっ!? 紘一男子と同棲!?」
「同居ね…」
花恋もやっぱり早合点した。
「大して差ないでしょ! 意識したりしないの? 男の子だなぁとか」
そう言われてしまえば。
「いい子だなぁとか」
「思うよ」
あの場で同意するしかなかった。
「けど私は不器用みたいだから浴衣が着れないんだろうね」
浴衣がメタファーになっていると、自分で言って気づいていた。