「今は、いません」男子発言ノート34

「今は」
―このたった3文字の"魔法"の、いや"魔"の言葉をご存知だろうか？

仕事で何度かご一緒しているスマートな三十路男子と、打ち合わせもそこそこに世間話をしていて。

あんまり個人的なことには踏み込まないのがお互いスマートよねと思いつつ、「忙しいけど夏謳歌してますよ、海行ったりして」と言う彼に「恋人とかと？」とつい訊いてしまった。スルーしてくれてもよかった。仕事上のお付き合いの仲だし、ヘンに距離詰める気もないので「いえいえ、はは」とかで濁してくれるんでも全然よかった。それが、

「今は、いません」

へ？

「あっ。へぇ〜〜〜。それはそれは」
とかしか返せない空気をまとい、少し神妙な面持ちで答えた彼。

……なにこれ？

“今は”っての要る？ ねぇ、要る？？？
なんで、ただ「いません」ではなく「今は、いません」なのか、途端に気になり始めて世間話も気もそぞろに。

なぜ？

まぁ、“今は”ってことは“前は”いたってことなんだろうから、〈こう見えてもボク恋愛する人種ですよアピール〉？
確かに、メチャクチャ仕事忙しそうだし草食系に見えなくもないスマートさから、恋愛なんかは縁遠いタイプに思えなくもない。だけど恋愛してますよ、っていう〈恋愛現役宣言〉？

なるほどわかった、わかったよ。
だけど、さっきの神妙な面持ちは何だったの？ そこ気になる。

なんかこっちは訊いちゃいけない過去に触れちゃったのかな？
元恋人との恋、ツラい終わり方でもしたのかな？
って勘ぐっちゃうじゃんね。「あんなに幸せだったけど……今は、いません。ツラっ!!」なのかなって前後の文脈読もうとしちゃう。でも、なんかそれ以上は訊けなかった。

「“今は”って何スか。“今は”って〜！笑」とさらにツッコむほどの時間も余裕も、彼への関心や興味も、持っていなかった。そのハズだった。それなのに……

気になってしょうがないのね、その後一昼夜！！！

だって、もしかしたら。もしかしたら、こうなんじゃないか？ って思っちゃったわけ。

あれって……〈フリー宣言〉？？？ って。〈私へのフリー宣言〉？ って。

どどど、どうする！？ そうだったら！！ 「ボク“今は”カノジョいないんで、チャンスですよ」って。そういうことだったら、どうする！？ って。

困るーー。えーーどーしよー！
カレシってこんなあっさり出来るもの？
でも恋愛も結婚も来たるべき時にスッと出来たりするって、誰か言ってたりするよね？ 成功者たちの誰かが！（誰？）

いいんですか？ 私この船ノッちゃってもいいんですか？ ついにカレシできちゃいます？ 「カレシ？ もう何年もいません。もしかしたら21世紀になってまだ一人も……」なんて気を使わせるしかない返答せずにいられない現状、脱却できちゃいます？？？

……なんて。浮かれてどぎまぎしつつ、数日後にまた仕事で彼に会ったんですよね。それで再び訪れた談話タイムに訊いてみたわけです。「この前の“今は”いませんって、なんで？」といった趣旨のことを。そしたら、

「“今は”って付けたら、それ以上訊かれないからです」

えっ、えんっっっ！？

二度見ならぬ二度訊きしたよね。

「“いません”だけだと、何で？ とかさらに訊かれるじゃないですか」

えっ、でも“今は”も「じゃぁ前っていつぐらい？」とか訊かれるでしょう？

「そしたら、“ちょっと前”って言えば終わるんで」

うっ。えっと……

とりあえず私、めっちゃブロックされてた！！！涙

だよね……なんのアピールでも宣言でもなかったんだよね。私が勝手にぶしつけなこと訊いた上に（ごめんなさい!!）、“今は”に食いつきすぎたんだよね。いつものだー。

それでも一つ、収穫有り哉。
“今は”を付けると、相手は気になって気になって気になって結果、好きになる。……違う？

よし、これからは積極的につけてこ「今は」！

「今は、おなか空いてません」
「今は、おなかいっぱいです」
「今は、デザートは食べられます別腹なので」

……こんなんで、異性を気にさせられることが出来るだろうか？
「今は、違う」かもしれない。
けれど、いつの日にか……と信じよう、今は。

✐大島智衣Twitter
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