2024.4.26

金曜の夜にひとりぼっちでいることより、金曜の夜が終わってしまうことの方が嫌だった。なにもかもを順調にこなして久々に1日が余っていたから明日になるまでの間も充実したものにしなければいけない、そんな強迫観念に囚われて知らない街へ行ってこようと思った。


電車に乗った。汗と酒とゲロの匂いがした。金曜の夜の匂い、というのがふさわしかった。以前どこかで嗅いだことがある。あれはたしか、歌舞伎町のまねきねこで夜勤をしていた時。お客さんが帰ったあと掃除しに行った部屋に満ちていた、あらゆる欲を煮詰めた時に出る蒸し暑い蒸気の粒子の集まり。

この電車にはあのカラオケルームをいったいいくつ詰め込めるんだろう。

福生。「ふっさ」と読む。

初めて来た福生はまた別の夜の匂いがした。クソ不味い飴のような匂い。海外に憧れたラッパーもどきの日本人と日本をまったく意識していない外国人。その対比を滑稽に思いながらも、すれ違う度に舐めてかかったらぶっとばすと心に念じていた。この街の治安の悪さに萎縮してたまるか、柔な自分でいたくなかった。チンピラと老害とセクハラしてそうな上司が居酒屋の前にたむろしている。汗と酒とゲロが擬人化しような組み合わせだ。信号待ちの車は窓からタバコの煙を吐きながら、あやまんJAPANくずれの曲を流している。北に進むと外国人とすれ違う回数が多くなった。東京とは思えないほど暗い夜道が続いている。踏み切りが鳴り、通りすぎる車からヒップホップがこぼれ落ちた。セブンイレブンにはシガリロが売っていた。この街にはアメリカ空軍基地がある。そこが目的地、だった。

横田基地の前を防衛ラインのように走る国道16号線沿いにはヤシの木と英語看板が当たり前のように並んでいた。

この時間となると人通りもほとんどなく海外旅行に来た気分だ。そんな16号線は俺に自由を感じさせた。自分の金と時間を使い自分で選んでこの横田基地を見に来た。誰に依存するでもなく、自分の欲を満たすためだけに動いた。つまり俺はそのとき独立していた。これが自由というものだった。この感覚を忘れてはいけないと思った。この感覚を生涯味わっていたいと思った。


相変わらずまんじゅうみたいな顔をしてやがるな。せいぜい丸く収まるなよザコが。




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大里
銭ズラ