研修病院の選び方の前提

※重要な部分は無料です

はじめに

Twitterのスペースで話したことの復習になります。

医師が臨床研修病院を選ぶためのブログやnoteとかは巷にたくさんありますが、概ね「高給ハイポ(暇)病院の探し方」という内容で書いてある物が多い印象です。

もちろん「絶対高給ハイポ病院に行きたい」と自分の中で完全に決めている場合はそういうのを読めばいいと思うんですが、まだそこまでしっかり決まってない場合にどういうふうに考えるか、という事について書かれた情報はあまりない気がしたので自分なりの考えを書きました。

前提として自分が初期研修したのはかなり昔であり、今では色々な細かい事情が変わってきてるとは思います。ただ、基礎となる考え方が根底からひっくり返るようなことはないはずです。

病院を選ぶ前に

まず臨床研修のそもそもの目的ですが

(2) 必修化の背景
・地域医療との接点が少なく、専門の診療科に偏った研修が行われ、「病気を診るが、人は診ない」と評されていた。
・ 多くの研修医について、処遇が不十分で、アルバイトをせざるを得ず、研修に専念できない状況であった。
・ 出身大学やその関連病院での研修が中心で、研修内容や研修成果の評価が十分に行われてこなかった。
(3) 研修の必修化
 医師の臨床研修の必修化に当たっては、
・ 医師としての人格を涵養し、
・ プライマリ・ケアの基本的な診療能力を修得するとともに、
・ アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備すること
を基本的な考え方として、制度を構築してきた。

引用元:https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/rinsyo/hensen/

人格云々は研修でどうこうなるもんじゃないだろと思うのでおいといて、まず自分の専門科だけじゃなく広い見識を持ってほしいということが重要な目的で、他に研修医の身分と収入の安定化もあるという感じです。

臨床研修制度が導入されるまで、もともと研修医は医師免許をとるとすぐその科の仕事のみを始め他科の知識は少なく、大学病院からは月に2〜3万しかもらえないので早速外当直などのバイトで生活費を賄う、という状態が長らく続いていたので、その両方を解決する手段として導入されたと考えて差し支えありません。

これは逆に言うと臨床研修を終わらせないとアルバイトが出来なくなったという事を指します。また、アルバイトだけでなく臨床研修病院以外での診療行為ができません。いわば、医師免許のアクティベーションのために臨床研修が必要な状態で、これは「医師免許が必要な仕事は一生しません」という場合以外は臨床研修は避けて通れないという事を意味します。
資格としての「臨床研修修了」については拙noteに書いたのでそちらもご覧ください。

自分はどういうふうになりたいのか?

避けて通れない物を前にしたとき、大きく方向性は2つあります

①最小限の労力で終わらせる
②どうせなら今後に役立つようにする

皆さんはどちらでしょうか?

ここで①②どちらと即答できる人はけっこう自分の中で「定まっている」と思うので、極論このあとの部分を読む必要は少ないかもしれません。
これはどっちの方が偉いとか正解とかはありません。また、完全に2つに分かれるわけではなくその真ん中とか、真ん中より少し①寄りとか、そういうのも全然あると思いますが、そのためにみんな悩むことになります。

日本はどの大学を出ようがどの病院で研修しようが医師免許としての効力は変わらないので、「この病院で研修しちゃったからこの道には進めない」ということはたぶんありません。

とはいえ、上記ツイートで例えたように、その後やりたいことにフィットしない研修を経てしまうと何らかの苦労はすると思います。

例えば、内科でバリバリに活躍したいという場合に、ほぼ放置されて超絶ひま極まる研修生活を2年していたとしたら、経験の差ということでさすがに後期の同期と同じようにはできないだろうし、3年目はその差を埋めるためにそれなり苦労するのは想像に難くないでしょう。

つまり研修病院選びにあたっては、自分の3年目以降の大まかなライフスタイルをある程度イメージした上で決めることが大事だと思います。

これは科を決めておかなきゃいけないとかではなく、大まかに「今後自分がどういう働き方をしたいか」「医局に入るかどうか」「即ドロップするかしないか」などの方向性を定めておくことで自然と自分に必要なのはどのくらいの雰囲気の研修なのかがぼんやりとイメージできるようになると思います。

もちろん志望科含めて研修してから考えが変わることもあると思いますがそれ自体は労力を払うことでリカバーできるので致命的ではありません。
これは体験してないので想像ですが、クソ忙しい研修からクソ暇な3年目になるのはそんなに労力かからなそうなのに対し、クソ暇な研修からクソハイパーな3年目を迎えるのは非常に大変、つまり人は楽になる方向に行くのは簡単で逆は非常につらいと思うので、そこも踏まえておく必要があります。

ということで医師になってから考えがブレてくる可能性も考えて、もし3年目は早速AGAや脱毛のカウンセリングしか絶対やらん!と決めているような場合であっても、自分が今想定しているよりも少しは勉強になったり経験がつめそうな所、つまり想定よりも"ちょっと上"あたりの病院で研修することで、医者になってから新たに出てきた自身の進路の可能性を塞がずにすむのではないかと思います。
人間、かなり考えはブレます。特に働き出したばかりの20代なんてブレブレですし、家族が増えたとかそういうライフイベントも起こります。半年後には今考えていることの真逆の考えになってるかもしれませんので、決め打ちすると後悔することもあります。

で、自分はこの「3年目以降どうなりたいか」を考える作業が一番大事だと思っていて、見学だの面接なんだのという目立つ部分は極論どうでもよくて、ここを考えることに何ヶ月以上かけても構わないと感じてます。

だって研修病院なんて所詮2年間だけの付き合いなんで、3年目以降の人生の方が全然長いじゃないですか。
上記の自分の例えでいうと、研修病院選びなんて高速道路でどの入口やレーン選ぶかぐらいの話に過ぎなくて、一番重要なのはどの方面に行きたいか。
目的地の方向だけでも決まってれば自然と選ぶ入口やレーンも絞られてくるので、入口やレーンの検討よりも目的地の検討に時間かけなさい、という、まぁ当然といえば当然のことですね。

この作業にあたってはインターネット上での情報収集だけではなく、イメージした働き方をしている先輩に話を聞いてみるとか、そういう多角的なアプローチが望ましいと思います。ネットでそういう方々を見つけてアプローチし、実際(オンライン含む)に話を聞いてみるのも良いんじゃないでしょうか。これができる人はそもそもかなり優秀です。
ということでこれはかなり時間がかかるものだし、むしろ年単位とかでいくら時間をかけても構わないものだと思うので、早めにじっくり考えて大まかなイメージだけでもつけておくのが大事かと思います。

優先する軸を決める

さて、思索の末、大まかな進路のイメージがついたあとどうするか。

研修病院での生活には

指導体制
忙しさ
場所
給与

というような軸がいくつかあり、それぞれの病院によりかなりバラバラです。各人オリジナルの軸もあるでしょう。

研修病院はあまたあります。全部は見られません。一番良くないのは「なんとなく」「流されて」「周りと同じで」「バランスよさそうっぽい所に」決めてしまうことで、何でもそうですがこれで選ぶと例え失敗したときでも自分の責任として受け入れることができません。

これら全部の軸において自分に完全にハマる病院があれば話は早いんですが、ほぼそんなことはなく、妥協しなければならない点が出てきます。
なので、自分の中で最優先の軸、つまりこれだけは譲れない部分はどこなのかということをはっきりさせておく必要があります。

これはどういうのなら偉いとかいう話ではないので、「屋根瓦式がいい」「とにかくブランド病院で研修したい」とか、「東京以外ありえない」とか「絶対に1000万欲しい」とかでも全然いいと思います。また「健康を崩さないように可能な限り忙しくないところ」とかでも全然いい。
とにかく一個、最優先の軸を決める。これが重要です。

そうしたら、その次に優先したい軸を考える。最優先は給与だけど次は場所だとか、最優先は場所で次は指導体制かなとか、色々あると思います。本来は3番目・4番目も決めるに越したことはないですが、そのあたりになると大抵どっちが優先とはいえない、比較的どうでもよい、という感じになってくると思います。

また、最優先と並行してNGポイントを決めておくのも良いかもしれません。○○系列は絶対ダメ、大学病院は絶対ダメ、とかね。
これは別に確固たる信念や理由がなくてもいいと思います。なんとなく絶対やだなぁと思っている所でやろうとしてもモチベーションがわかないので。

ここまで決めておけば、色々と研修病院の情報を見る中でかなり絞り込めてくるのではないでしょうか。そうしたらそれらの病院に見学なりアプローチして、見学したり先輩に話を聞いたりして細部を検証すればいいので、やることがある程度明確になりますよね。

そしたらその中で行きたい順位をつけ、採用試験を受け、マッチングの希望順位にそのまま書けばいいので話はシンプルです。もちろん実際はもう少し紆余曲折あると思いますが、骨組み自体はだいぶシンプルになる。

自分は家電を選ぶような感じで10個弱の病院についてそれぞれの軸でまとめた表をつくり、それを見て受けるか受けないか、順位をどうするかなどを決めました。

これは医療系以外の就職活動ではだいたい皆当たり前のようにやられていることだと思います。そもそも医療系以外では、自分がどの分野の業界を目指すのかを業界研究などを経て決める作業もしないといけませんから、その工程が飛ばせているし、また、倍率が高い病院があるとは言っても全体で考えれば売り手市場ですし、おおむね恵まれていると思います。

給与という軸について

それぞれの軸のどれを優先するかは各個人の価値観によるので、どんなことであっても尊重されるべきだと思います。ただ、給与を最優先の軸として置くにあたっては注意しないといけないことがあるので、少し補足します。

お金はなんぼあってもいいですし、各々いろんな事情がありますから、給与を最優先にするのはもちろんアリです。ただし、

・手取り額で考えた時に、額面での年収差ほど差がでないことがある
・各種手当てなどのカウントの仕方によりカタログスペックと異なることがある(タダ同然の寮があるとか)
・2年間の給与については3年目以降の給与と連続性がない

事に留意しておく必要があると思います。
特に大事なのは3つめ、連続性がないという話です。研修病院は基本2年間だけの付き合いであり、3年目以降に同じ病院に残ったとしてもその時は身分や採用形態が違うので、2年間の給与が増額していくわけではありません。また、3年目以降はアルバイトが収入の要になるパターンが多い。

どういうことかというと「初期研修2年の給料差が3年目以降の給料差として現れることがない」ということで、たとえば積んだ仕事の経験とか、忙しくなかったからいろいろ勉強したとか、逆に遊んだとか、地域に詳しくなった(コネができた)とかそういう事は3年目以降もずっと残りますけど、給与については「2年目に1000万もらっていたから3年目にそれくらい以上もらえる」というわけではないということですね。

年収が300万違うとしましょう。2年間で600万です。たしかにこの差は大きいですが、税や社会保険料の事を考えると差は少なくなります。そして、収入の本番は3年目以降です。3年目やその後の色々な選択次第で600万弱の差は1年かからずひっくり返ることも十分あります。
一般企業で「給与の高い会社に入ろう」という場合はだんだん昇給していって最終的な差がどんどんデカくなる前提ですが、それとは少し事情が異なることは認識していたほうがいいと思います。

もちろん若いうちにまとまった額をもらうことでしか得られない経験というものはあると思うので、それはそれで大事なことだと思いますが「とりあえず給与っしょ」と、なんとなくで給与を最優先の軸にする前には少し考えたほうがいいかな、という事でした。

おわりに

今回は以上になります。実際の見学や面接に関するスキルなどは最近の事情に詳しい方の情報のほうが有用だと思いますし、そちらに譲りたいと思います。

まあ、たかが2年間の付き合いですし、入ってみてアカンかったと思ったら中断→変更もできますから、あんまり気合を入れすぎず臨むのがいいと思います。
色々あるけどとにかく心身の健康を第一にですね。今のところ日本では医師免許は生きてる限り有効ですから、どれだけ健康に長く生きられるのかというのも非常に大事です。

ここからは個人的なことになるので有料部分になりますが、自分がどう軸を決めたかと実際行った病院の待遇等について書いておきます。
※具体的な病院名や固有名詞は出てきませんのでご留意下さい

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