ファ、ファ、ファ、ファ、ファ
道で前を歩く女性が着ているスウェットの背中にデカデカと「F××K YOU」と書かれていて思わず目を奪われた。実際には伏字にはなっておらず、皆さんが思い描くあの文言がそのままドーンとプリントされている状態だ。日本ならさほど問題ないのかもしれないが、場所によっては撃たれても文句は言えないのではないか。危ない危ない。大丈夫か。
本人は英語のプリントの意味がわからずに着ているが翻訳すると実はやばいことを言っている、というケースはたまにある。しかし流石に「F××K YOU」を知りませんでした、は通らないだろう。これを着ているということは、明確に何かに対して中指を立てる態度を表明していることに他ならないし、この場合後ろを歩いている僕がその対象になっているのだ。まいったな。僕何かしたかな。
彼女に対して、多少なりともメディアに関わる人間として言わせてもらうと、その格好でテレビ番組のロケとか行くとすごく怒られるから気をつけてほしい。ロケならまだ編集できるからいいが、生放送の中継だともう最悪だ。商店街を移動し、唐揚げやわらび餅を食べ、柔らかい柔らかいと大袈裟に騒いでいる間、絶対にカメラに背中を見せてはいけないのだ。これはなかなか至難の業であるし、どうしても背中に意識がいってしまい、「塩麹を使っている」という情報に対するリアクションが疎かになってしまう危険性もある。とにかく何もいいことはないので、メディアに出る際の着用はオススメしない。
平日の佐賀の街の昼下がり。当然ながら、「F××K YOU」プリントのスウェットは異彩を放っていた。彼女はどういう経緯でこの服を買い、なぜこれを着て街に出ようと思ったのだろうか。少なくともなんとなく買うような服ではない。無地と「F××K YOU」を比べて「F××K YOU」を選ぶからには、何かしらの動機があるはずなのである。「人と被らない」というのが動機なのだとしたら、まあ大成功ではあるが。
女性は髪の毛をまとめてポニーテールにしていた。馬の尻尾に例えられる髪の束が、歩くたびに弾むように揺れる。そのたびに、背中の「F××K YOU」の文字が隠れたり現れたりした。ファ、ファ、F××K YOU、ファ、ファ、F××K YOU、ファ、ファ、ファ、ファ、ファ、F××K YOU……
歩いているとうっすらと汗ばんできた。もう10月が終わるというのに、まだ気温は高いままだ。おそらく来年以降もこの感じなのだろう。冗談じゃないよって話だが、誰が悪いって人類が悪いのだから黙り込むしかない。畜生、人類コノヤロー。気候以外にも考えるとうんざりすることばかりで、とてもじゃないが明るい未来の想像はできない。だが、だからと言って死ぬわけにもいかないので、とりあえずは人生を続けるしかないのだ。畜生。コノヤロー。人類。コノヤロー。
ファ、ファ、F××K YOU、ファ、ファ、F××K YOU、ファ、ファ、F××K YOU、ファ、ファ、F××K YOU……