リスザルおじさんは今
小学生の頃、校庭で遊んでいると時折「リスザルのおじさん」が現れた。おじさんはペットのリスザルに紐を繋いで肩に乗せ、何をするでもなく校庭の近くに佇んでいる。僕たちはおじさんを見つけると駆け寄っていって、リスザルを見せてもらうのだった。
おじさんの顔や年齢、何か話していたかなどの記憶は一切ない。僕を含む子供たちの関心は完全にリスザルにあり、残酷だがおじさん本体にはなんの興味もなかったのだ。とはいえ、髪型が七色のモヒカンだったり、顔面にマイクタイソンと同じタトゥーが入っていたり、中世ヨーロッパの甲冑を身につけていたりしたらさすがに記憶に残るはずだから、これといって変わったところのないごく普通のおじさんではあったのだろう。
リスザルおじさんは、当時一体何を思っていたのだろうか。佐賀の田舎町でリスザルを飼うというのはなかなか珍しい。うさぎでも目立つくらいの環境の中でのあえてのリスザルというチョイスは、何かしらの信念を感じる。良くも悪くも近所の住人同士の距離が近い環境の中で、リスザルおじさんはどのようなポジションにいたのだろう。
もしかしたら近所の変わり者みたいな見られ方をしていたのかもしれない。そして想像するに、割とその可能性は高い気がする。もしそうだとしたら、リスザルを連れて小学生の校庭を眺めに行く時、彼は何を考えていたのか。明らかにリスザル目当てに集まってくる小学生を相手に、何を話したのだろうか。想像するとなんとも言えない気持ちになる。
リスザルの寿命は10〜15年なのだそうだ。であれば、あのリスザルはとっくに死んでしまっているのだろう。リスザルおじさんは、リスザル亡き後も元気に暮らしていたのだろうか。ただのおじさんとして校庭を眺めただろうか。それとも新たにペットを飼い始め、グリーンイグアナおじさんか何かにジョブチェンジしただろうか。
リスザルおじさんに聞いてみたいことはたくさんある。まずは「エサ代っていくらかかるんですか?」とかから入って、最終的には「僕もリスザルおじさんになる可能性がかなりある気がするんですよね」と伝えたい。なんとなく共鳴する部分がありそうな気がするのだ。飲みに行っても盛り上がるだろう。
とりあえず、小学校が近くてペット可の物件をそれとなく探しておこうか。