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下巻色の車

駐車場に『ノルウェイの森』の下巻色の車が停まっていた。ボンネットの上に下巻を置いたら保護色でどこにあるかわからなくなるのではないか、というほどの見事な『ノルウェイの森』下巻色だ。下巻を片手に板金屋に行って注文したのかもしれない。

僕は、読んだ本や観た映画の内容をすごいスピードで忘れしまう。本当にすぐに綺麗さっぱり忘れるので、果たして観たり読んだりした意味はあるのか?と自分でも思ってしまうほどだ。『ノルウェイの森』に関しても読んだ記憶はあるのだが内容はほとんど覚えてなくて、かろうじて学生寮の電話が印象的なシーンがあったということと、「突撃隊」という人物が出てきた記憶だけある。上下巻読んでこれだけだ。さすがにどうかと思う。何でもかんでもコスパコスパと言うのは嫌だが、それにしたってコスパが悪すぎる。

しかし、そんないい加減な人間でも表紙の色はしっかりと印象に残っているのだ。これはすごいことである。あの装丁を担当した人は素晴らしく仕事のできる人に違いない。いまだに僕は車に限らず深い赤と緑色のものを見るたびに「ノルウェイの森みたいな色だな!」的な例えをしているし、多分今後もする。そのくらいあの色味は自分の記憶の中に定着しているのである。

ペーパードライバーなので車は持っていないが、もし買うとしたら『ノルウェイの森』上巻色の車を選んで、あの車の隣に停めてみたいものだ。


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