中村安伸『虎の夜食』
中村安伸『虎の夜食』(邑書林 2016)。
中村安伸さんとは知り合って久しい。初めてお会いしたのは、当時所属していた早稲田大学の俳句研究会でひらかれた句会の席だったと思う。学生に混ざり、今と変わらぬ柔和な笑顔で句会に参加していた印象が強く残っている。
当時の中村さんがどのような句を作っていたかについて、残念ながらはっきりとした記憶はないが、その分句集を読む愉しみを得られた。
句を引く。
睡るための翼の欲しき五月かな
書物の川に書物の橋や夕桜
ほとばしるもののひとつに春の馬
布のやうに遅日の坂をあるくかな
ある街をいつも想へり鉄線花
京寒し金閣薪にくべてなほ
特に「京寒し」の句、佳品だと思う。
あとがきに、
(中略)その頃から私にとっての俳句は鷹狩の鷹のように、無意識の空間へ放つたびに、なにやら得体の知れない、しかし、確かに自分の一部であると感じさせられるなにものかを、摑んで戻ってきてくれるパートナーとなりました。
とあって、この文章には大いに首肯した。
以下、好きな句。
これはたぶん光をつくる春の遊び
ふらここのその真夜中を撮りにゆく
檸檬だけかがやいてゐる厨かな
黄の薔薇の一輪愛し一輪踏む
ほとばしるもののひとつに春の馬
寒卵地球ふたつに割れる歌
若草や壺割るやうに名を告げし
↓Kindle版もあります。
※この句集は作者からご恵贈いただきました。感謝いたします。