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【宇宙映画博覧会】宇宙戦争
火星は昔から、地球の人間にとっては一番なじみの深い星です。何故かと言うと、太陽系の惑星の中で、地球の外側の軌道にあって、地球に一番近い星が火星だからです。
地球の内側の軌道で一番近い星は金星ですが、何故、金星に移住するとか金星から生物が来るとかという話にあまりならないかというと、金星は太陽に近い分だけ暑いんです。
かといって、火星だって寒くて生物がいなさそうですが、寒いのはなんとかなりそうでも、暑いのはなかなか難しいですよね。金星は常温で400度ぐらいあるんですよ。暑いとかいうレベルじゃないですね。
で、火星は地球よりも太陽から遠いから、その分気温は低いんですが、それでもまだ頑張れば住めないことはないっていう環境なんですね。だから、テラフォーミング――要するに地球と同じ環境にして人類が移住するということで言うと、火星が一番可能性があるんです。
しかも火星は、公転軸――太陽の周りを回る軸に対して自転軸がちょっと斜めになっているんです。ということは斜めに太陽の光が当たっているわけで、そのせいで季節ができるんです。これ、真っ直ぐだったら季節はできないんですよ、均等に当たるから。
だから地球に季節があるのは、実は自転軸が斜めのせいなんです。火星も自転軸が斜めだから、地球と同じように季節がある。
そのため、今の火星は本当に荒涼たる原野なんですが、ちゃんとテラフォーミングすれば季節のある星になるんです。そういうこともあって、地球人はどちらかというと、火星に行きたがる。火星に住むのが一番地球に近い生活ができるんじゃないかという考え方なんです。
ただし、火星の重力って地球の40%しかないんですよ。だから移住したときには、原野とかはともかく都市には人工重力を作ってるんじゃないかなと思います。
さて、もともと火星人を一番有名にしたのは――僕たちの中に火星人のイメージを定着させたのは、1898年にH・G・ウェルズが書いた『宇宙戦争』。これが始まりなんです。ここでウェルズが描いたのがタコ型の火星人。僕たちの世代ぐらいまでは、火星人というと、頭がでっかくて、足がニョロニョロしてるという、タコに近いイメージだったわけです。
ウェルズが何故タコみたいな宇宙人を発想したかというと、火星は重力が40%しかない。でも科学文明は地球より発達しているだろうから頭脳は大きいだろう。だけど、重力が軽いから、でかい頭を支えるのにそんなにがっちりした身体はいらない。細い体でもでかい頭を支えられるというので、タコに近いような形の宇宙人が出来上がった。細くても、8本とか足があれば支えられるし。
そして、この『宇宙戦争』は大変な名作だけあって、いっぱいいろんなものになっているんです。『宇宙戦争』を一番最初にメディア化したのは、実はラジオドラマなんですよ。1938年にラジオドラマ化されて、ものすごい大反響だった。どんな内容だったかというと、最初から「ラジオドラマです」と言って始めればいいものを、ラジオが普通に流れているときに、突然プツンと切れて「臨時ニュースをお知らせします。ただいまどこどこに宇宙船が……」という始まり方をした。今やったらちょっと大変なことになるんですが、それを視聴者が信じちゃって、「火星人が攻めてきた」というんで大パニックが起こるんですよ。これは本当に放送史における大事件なんです。
で、この大事件を起こしたディレクターが誰かというと、オーソン・ウェルズなんです。後に映画界の大物になる。だから、さすがにオーソン・ウェルズっぽいというか、演出としてはある意味そこまで反響を呼んだんだから、正しかったんですよね。ただし反響を呼びすぎて、全米中に大パニックが起こった。今だったら絶対騒乱罪とかそういう罪になって、逮捕とかされそうな事件になった。でも、逮捕された様子もないから、大らかな時代だったんですね。むしろ演出家としてのオーソン・ウェルズの評価が高まったということなんです。
次に出てきたのが、僕たちにとって一番なじみ深い、1953年の『宇宙戦争』という映画です。このときのエイ型の宇宙船がすごくかっこいいんですよ。とても1953年とは思えないぐらいかっこいいデザイン。原作では三本足のロボットが出てくるんですよね。三本足の巨大ロボが都市を攻めるという描写になってるんだけど、その当時の特撮技術では三本足で歩くというのが難しかったわけです。それで半重力で浮くみたいな感じの円盤を作ったんですが、この円盤がめちゃくちゃかっこよくて。これをデザインしたのはアルバート・ノザキという日系のアメリカ人なんです。
この円盤がすごく評判が良くて、『宇宙戦争』という作品のイメージがこの映画である程度固まるんですよ。この映画のときも、タコみたいな形のヌルヌルした手足の宇宙人が出てきます。
この『宇宙戦争』は2005年にリメイクされていて、これがスティーブン・スピルバーグが監督した『宇宙戦争』。トム・クルーズが主演の作品です。このときには、もうCGが使えるようになってるんで、三本足――だからトライポッドと呼ばれてるんですが――その三本足でガシャガシャ歩く巨大なメカというのが、ここで初めて原作通りのイメージで映像化されたんです。スピルバーグは基本的にオタクな人だから、53年の『宇宙戦争』も大好きで、だから自分でも映画化したいと思ったんでしょうけど、「やっぱり俺がやるからには原作のトライポッドをそのまま映像にしてやる」と考えたんでしょうね。それで原作通りのトライポッドが登場するという。
火星って僕たちにとってはいろんなイメージがあるわけですが、火星が地球人にとって一番近しい感じがするのは、フィクションでさえ、それだけ歴史があるからなんでしょうね。
※有料配信のWEBラジオで語った内容を元に加筆・修正しています。
宇宙戦争[1953](Prime Video)
宇宙戦争[2005](Prime Video)