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モラ夫の処し方

10年来の友人と会った。
遠方から尋ねて来てくれて、本当にうれしかった。これがまた、女一人旅というので羨ましく思った。
彼女の二人の娘たちは大学生と高校生になり、部活もないのですっかり手が離れたのだそうだ。本当に羨ましい。

で、カンパーイ!とやってしばらく近況を話していたが、彼女は何か語りたそうである。
そりゃそうだよね、わざわざこんな田舎まで、喋りたいこと、聴いてほしいことがあるから来たんだよね。

「…昔から知ってると思うけどさ、ダンナがさ」と始まった。

私は姿勢を直して、傾聴モードに入る。

彼女の夫がちょっと子どもっぽいひとなのだとは、昔から知ってはいた。
というか、モラハラだなと思っていた。
しばらく仕事の関係で別居していたけれど、それが終わってまた一緒に暮らし始めたら、最近またひどいらしい。

彼女曰く「無視、壁を殴る、ため息をつく、外の人に悪口を言う、ひがむ、ねたむ、ごねる、人格否定する」。
挙句の果てに、従業員の前で「もう俺のこと好きじゃないんだろ!」とかいうらしい(彼女の夫は自営業)。

それで、ご飯が食べられなくなって5kg痩せてしまったとのこと。
いや、居酒屋に入ってきた彼女を見て、痩せて綺麗になったなぁって思ったんだよね。でもそれ、ダイエットじゃなかったんだ。

私は傾聴モードと言いながら、開いた口が塞がらないというかなんというか…それって、要は、かまってちゃんの超拗らせモラ夫ってことじゃん?

「そうなんだよね…娘たちも呆れてしまって…これってさ、治るのかな」
「いやぁ…ていうか、別れる気はないの?」
「うん、まぁ正直言って、下の子が18になるまでは我慢しようと思ってる。私、自立してるからさ、暮らしていけるんだよね」
「だよね」
「でも、もし変わる可能性とかあるなら、と思ってさぁ。夫婦お互い様なところあると思うし、私もちゃんと挨拶したり、パパありがとうってお礼を言うとか、がんばってみてるんだけどね、無視だからさ」

そんな彼女に言えることが、たった一つだけある。
私の父は、モラ父である。いや、モラ父だった。

そう、父は変われたのである。

私が自分の父がいかにモラ夫だったか語ると、今度は彼女が絶句していた。「ダンナとおんなじじゃん・・・」

でも、そんな父が55歳の時に変わったんだ、と言うと彼女は身を乗り出してきた。
「えっ、なになにどうやって?!」
「あのね、猫なんよ」
「え、猫?」
「そう。父が天井裏で泣いてたのを見つけて、生後2日くらいの状態からずっと育てたの。ミルクあげてお尻拭いて、仕事に行くときも連れて行って、一緒に寝て。あの頑固おやじが、「よちよちミルクでしゅよ~」って、本当に赤ちゃん言葉で言うんだよ」
「うそでしょ…」
「いや、ほんとに。家族一同、驚愕したんだけど、それですっかり人格が変わったの」

彼女はしばらく黙って、それから小さな声で訊いた。
「・・・それってさ、なんでだと思う?」

私も、母とこのことについてはめちゃくちゃ語り合ったから、すぐに答えることができる。

「うん、無償の愛情の交換だろうなと思ってる。あの子は父が愛情かけて育てないと死んじゃうし、可愛くてたまらないのよ。それで猫が懐くのよ、父に。甘えて追いかけてきて、絶対逆らわない。お互いに無償の愛でしょ、そういうの」
「・・・あぁ~~~~~・・・」
「でもさ、人間同士では今更、そういうの無理じゃん。だから、猫」
「なるほど・・・いや~今日ここまで来てよかった!こんな話が聞けるとは思ってなかったけど、やっぱりそういう導きがあったんだよ!
「そうだそうだ!飲もう飲もう!」

という感じで、そのあと私たちは、ひとしきり語って、飲んで、笑って、解散したのだった。


猫でも犬でもうさぎでもなんでもいいとは思うけれど、無償の愛を注いでそれにこたえてくれる存在に出会えたら、人はとっても満たされるんだと思う。
彼女だけが我慢して、夫に自分の人生を捧げることなんかしなくてもいいんじゃないか、とは思うものの、彼女の夫が満たされないものを抱えて苦しんでいるのもまた事実。

それを救えるのは、残念だけど妻である彼女ではないだろう。
でもね、私の父の例があるからね。
それは、猫かもしれないし、鳥かもしれない。
出会えたらいいね、そういう存在に。

そして、彼女が幸せでいてくれますようにって、心の底から思うな。

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