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大阪・関西万博への見方が少し肯定的になった話 <後編その2>

<前編>での概要、<後編その1>での事例1につづき、<後編その2>では事例2の内容について紹介と私の感想をお伝えします。


これまでの記事はこちら↓から


◉事例2)「いのち」を大切にする社会を目指して―「いのち会議」と「いのち宣言」

発表者は、:堂目卓生(どうめ たくお) 大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ(SSI)長です。

大阪大学 SSIってご存知でしたか?
私は初めて聞いたので調べてみました。
↓ 公式ページの説明です。

社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は、大阪大学の人文社会科学系部局が中心となって、理工系・医歯薬系など自然科学系の研究者と連携を図りながら、さらには、パプリックセクターや民間企業など、さまざまな社会のステークホールダーと協働しながら社会課題の発見と解決を進め、持続可能な共生社会を構想する大阪大学のシンクタンクです。社会との連携においては、「共創機構」と協力を図り、また「COデザインセンター」等と連携して未来の社会を担う人材を育成することも視野に入れています。

持続可能な共生社会を実現するために社会を先導する組織、また大阪大学のさまざまな活動をこの目標に向かって先導する組織、それが「社会ソリューションイニシアティブ」です。

大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ「SSIの概要」
https://www.ssi.osaka-u.ac.jp/about/outline/

要は、社会課題の解決をめざすことをテーマにして、人文社会系の研究者を動かし、必要に応じて大阪大の他の部局とも連携して、外部とのハブともなって調査研究・提案発信をしかけていく組織といったところでしょうか。2018年に作られています。

パーパスは、
「持続可能な共生社会を「命を大切にし、一人一人が輝く社会」としてとらえ、その実現を目指」すこと

ミッションは、
「文明の原点に立ち返って『命』に注目し、命を『まもる』、『はぐくむ』、『つなぐ』という視点に立って社会課題の解決に取り組」むこと

…とされています。(「SSIの理念」)


さて、このSSIの長を務めておられる堂目先生の報告は、経済史の研究者らしく、近代社会の基本構造とそこからの脱却の話から始まりました。

お話の要点は、次の転換をめざそうということでした。

近代社会の基本構造:
capable「助けるいのち」が社会の中心にあって、vulnerable「助けられるいのち」は、中心に近づくことを求められたり、分配を与えられる。

目指すべき未来社会:
その時vulnerable「助けられるいのち」の立場である人を中心において、その時capable「助けるいのち」である人が共感し助け合う。2つの立場は入れ替わることが前提とされている。
この構造により、「敵意のない世界」を実現する。

大阪大学×SDGs,【開催報告】2024年7月18日(木)、いのち会議 経済・雇用・貧困アクションパネル「共感経済と共助社会に向けた企業のあり方~国連グローバルコンパクトとグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの活動を中心に~」を開催しました!
https://sdgs.osaka-u.ac.jp/news/6363.html掲載の動画より
同上

「共助」の意味すること
・いつ助ける側の人が助けられる側に回ることになるかもしれない。
・助ける側の人は、財・サービス等の支援をするが、逆に心の壁から解放される。
・助けられた経験のある人は、助ける側にまわった時、理解ある援助ができる。


これに続いて、堂目先生が紹介されたのが、「いのち会議」事業でした。

この会議は、大阪大学と経済界(関西経済連合会・大阪商工会議所・関西経済同友会)が昨年、2023年3月に立ち上げた事業です。

大阪大学SSIとは別組織ですが、堂目先生がコーディネーターとして動かれているのではないかと思います。

設立の趣旨が、大阪大学の総長名で次のように書かれています。

大阪大学は経済界などと一体となって「いのち会議」事業を立ち上げました。

「いのち輝く未来社会」実現のために議論を重ね、活動しながら 2025 年に大阪・関西万博で「いのち宣言」を発するために動き出します。

いのち宣言を発することは、2025 年の万博の大きなソフトレガシーになるとともに、いのちの重みを改めて考え、かみしめ、その尊さを日本が世界に投げかける大変重要な意義をもちます。

企業、政府・自治体、NPO・NGO、そして博覧会協会とともに、国内外の他大学などとも連携しながら、学生を中心に次代を担う若者たちにも積極的な参加を促します。

本事業を、平和で豊かな地球を目指し、「誰ひとり取り残さない」世界を実現するための価値ある宣言へとつなげ、2025 年以後も継続されるソフトレガシーを生み出す場に発展させてまいります。

いのち会議「設立の趣旨」
https://inochi-forum.org/prospectus/

具体的には、
・12のテーマについてアクションパネル(パネル=助言・討論を行う専門家集団; 委員会)が活動中。
・「いのちの声」(=自分が望むことや未来の社会に関して、世代や性差、民族や国籍等、あらゆる境を超えて、若者やこどもたちも含めた小さな声)の集積と分析を行っている。
…とのことでした。

アクションパネルの12のテーマをHPで見てみると、次のようになっています。

①医療・福祉 (SDGs3)
②教育・こども (SDGs4)
③経済・雇用・貧困 (SDGs1・8・12)
④街づくり・防災 (SDGs1・2・6・11)
⑤食・農業 (SDGs2)
⑥多様性・包摂 (SDGs5)
⑦平和・人権 (SDGs16)
⑧エネルギー・気候変動 (SDGs7, 13)
⑨資源循環 (SDGs12)
⑩環境・生物多様性保全 (SDGs14, 15)
⑪アート・文化・スポーツ
⑫SDGs+Beyond

いのち会議「活動状況|アクションパネル」
https://inochi-forum.org/action-report/action-panel/ap-about/より

大半がSDGsに関するものです。
しかし、そこに「アート・文化・スポーツ」と「SDGsとその先」が加わっているというのが特徴と言えます。


「教育・こども」の実績例を具体的に見てみると、以前からある取り組みも含まれていました。例えば、★印は、勤務していた高校の生徒が10年以上前から参加していた事業です。

②教育・こども (SDGs4)
・「企業が教育現場に関わろう!」共同主催「未来をになう若者のためのつながりと助け合い~若者同士、おとなと若者~!」共同主催
★「待兼山会議」(大学生による高校生の探究学習支援活動および発表会)
・「コスモポリタンキャンパス2024 Spring with EXPO」後援(中学生向け)
・「社会とお困りごとを、みんなでたのしく学び、実感!」主催(こども・学生向け)
・「高校生万博チーム」の取り組み 大阪府教育庁共同主催(以降、毎月)(高校生向け)
・「コスモポリタンキャンパス2024 with EXPO」後援(中学生向け)
★Future Global Leaders Camp 2024 (FGLC2024)(大学生による高校生の探究学習支援活動および発表会)
・「これからの教育の可能性を考える~「未来の教育デザイン」」主催
・「こどもと大人が社会価値を共に創ろう!」主催

万博に向けた新しいイベントだけではなく、社会課題への取り組みを広く把握し、つなげようという意図が見えます。


🔷この「いのち会議」、活動の範囲は広くその主体もさまざまで、つかみどころがない程とも言えますが、
-「敵意のない世界を作る」という大きな目的を掲げていること、
- 関連する活動をまとめ、繋げようとしていること、
- 多様な立場の声・小さな声を拾い上げようともされていること、
- 万博以後に続く動きとしようとしていること
- 大きな影響力を持つ企業を巻き込んでいること、
…は、意義がある、

そして、万博を契機にしてこのような動きが起こるのなら、万博も悪くないと思った次第です。


<後編その2>はここまで。
事例3の「万博学という視座」については、<後編その3>にてご紹介します。

「万博学」をシンポジウムに「噛ませる」あたりが、「さすが民族学博物館!」と言わせるところなんです。お楽しみに。


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