白井夢結のことをもっと知りたい②

俺は白井夢結の話がしたいときにしたいだけ白井夢結の話をします。
自分の思考の整理用です。

さて、アサルトリリィ BOUQUET視聴者にとって1話からずっと謎だったイマジナリー美鈴についての説明がようやくなされましたね。
作中の言葉を借りるとどうやらあれは「夢結の罪悪感の表れ」だそうです。
それがどんな罪悪感かというと、「仲間を守り切れず、大切なシルトの心にも傷を負わせてしまったこと」だとか。
結梨を救えず梨璃の心を傷つけてしまったことに、夢結は自分が思っている以上に傷ついてしまったことがきっかけで見えるようになった……うーんあまりに完璧な説明、これじゃアサルトリリィじゃなくロジカルリリィだよ……。

……本当に?
これだけじゃ10話Cパートから”また”見えるようになったことの説明にはなっても、①1話の時点で見えていたこと、②途中から見えなくなっていたことの説明がついていないじゃあないですか。
だとすればそこも考えていくのが俺の役割だろ、なあ白井……。


まず①について考えていきます。
川添美鈴の亡霊が夢結の罪悪感をきっかけに表出するというのなら、1話の時点で見えていたのも当然なにかしらの罪悪感があったと考えられます。
ここは特に考える余地もなく「シュッツエンゲルである川添美鈴を殺したこと」ですよね、美鈴を殺した罪悪感から幻想の美鈴を生み出してしまった、①はそれだけの話です。
ではもう少しだけ話を広げてみましょう、罪悪感という言葉は一柳梨璃のルームメイトである伊東閑が「責任感と罪悪感はきちんと分けないと身を滅ぼすわよ」と言うように、本来その源泉には何某かの理想、”こうあるべき”という姿があるはずなんです。
責任感が最初にあって、それを守れなかったから罪悪感が生じるんですよ。
これは直接夢結にかけられた言葉ではありませんが、結梨を亡くした梨璃の姿が過去に美鈴を亡くした夢結との対比であるならば、当然この言葉は夢結にも当てはまることになります。
ではその責任感がなにかというと、「仲間や姉妹を守ること」でしょう。それが守れなかったから罪悪感が生まれた、これは11話と同じ構図です。
俺は今まで夢結が一方的に梨璃を守ろうとするのは姉から妹への一方的な庇護関係が美鈴と夢結の間にあり、それをなぞることしかできないので夢結も梨璃を一方的に守ろうとしているのだと思っていましたが、これは明確に誤読であり実際は昔から夢結には姉妹は守り合うものという認識があったわけです。
ではなぜ一方的に守ろうとするようになったのかというと、まさにこの責任感と罪悪感の混同が起こってしまったからです。
姉を守れなかったどころか自ら殺してしまった夢結は、「姉を守る」という責任感を「守れなかった」という罪悪感に変質させ、ついには感情を押さえ続けた先に「妹を守れなければシュッツエンゲルになる資格はない」という呪いを生み出してしまいます。
6話は梨璃は言いました、夢結に美鈴を殺せるはずがないと。
11話で夢結は言いました、美鈴になら傷つけられてもかまわないと。
であるならば、甲州撤退戦で刺されているのは夢結のはずでした。
想っているのなら、愛しているのなら。
でもそうはならなかった、その場で刺されたのは美鈴のほうだった。
そうあるべきものがそうでなかったとき、その事実は人を呪います。
夢結はもう自分を信じられません、自分がいつ暴走するかもわかりません。ならばもしそうなってしまったとき、今度こそ自分は刺される側でないといけないのです。
だから梨璃が「刺してでも止める」と宣言したとききっと安心したんでしょう、今度こそ自分の理想になれるわけですから。
なあ、これが愛か?俺はバカだから分からねえけど、これって本当に正しい姿なのかよ、なあ、白井……。


すみません感情的になりすぎました、気を取り直して②について考えます。
なぜイマジナリー美鈴が一時的に見えなくなっていたのかというと、罪悪感が薄れていたからでしょう。
罪悪感が幻想を生むのであれば、それがなくなれば見えなくなるのが道理ですからね。
ではなぜ罪悪感が薄れていたのかというと、罪悪感の源泉である責任感、つまりは「仲間や姉妹を守ること」がまがりなりにも達成できていたからでしょう。
梨璃に美鈴のことを打ち明けて以降、本物の回想や残滓のようなものはあっても夢結が生み出した偽物は急速に姿を見せなくなります。
これは新たに仲間と妹を得た夢結がそれを守ることで責任感を満たすことができていたからでしょう。
結梨の死によりその前提が崩壊したのでまた美鈴が見えるようになった、疑問も解決したし今日はこのままラムネパーティでもしちゃおうかなワッハッハ。

……本当に?(2回目)
守れなかったことがきっかけであるなら、梨璃の髪飾りを探そうとする前から見えていないとおかしくない?
なんでわざわざ墓参りをきっかけにしてまた見えるようになったの?
本当にそれだけ?
別になんの根拠もなく言ってるわけじゃないですよ、というのも再び美鈴が見えるようになる10話Cパートの会話のなかでちょっとだけ引っかかるところがあるんですよ。
美鈴の墓石の前で梨璃は夢結に尋ねます、「お姉さまは美鈴さまのこと、どうやって乗り越えたんですか?」
……乗り越えられていましたか?
夢結の気持ちを、弱さを、痛いほどにぶつけられた梨璃は知っているはずです、夢結がまだ美鈴のことを気に病んでいるということを。
それにも関わらず梨璃はこう尋ねたんですよ。
で、これは俺も驚いたんですけど、夢結が梨璃に気持ちをぶつけた日=ダインスレイフを回収した日から、髪飾りを探し始めた日=結梨の死後数日程度?は五か月ほどの開きがあるんです。
その五か月の間に新しい仲間と出会い、ときに笑いときに不安になり、そしていなくなったり現実を受け止めたりしていたわけです。
その間、なんと美鈴の話はまったくない。
忘れていたわけではないですが、生者の忙しない時間の中で、歩みを止めた死者の介在する余地がなくなっていたのは事実でしょう。
そしてそれは梨璃にとって、「夢結は美鈴の死を乗り越えた」と誤解させる原因になります。
そのことを、死者を明確に思い出す場である霊園で、夢結は梨璃に突き付けられました。
夢結は自分を憎んでいました、大切な姉を手にかけ、そのことを覚えていない自分のことを。
憶えていないことが罪であるなら、忘れることも当然罪です。
夢結は美鈴のことを忘却してはいけないんですよ。
にも拘わらず、思い出すことを怠っていた、死者を置き去りにして自分だけ進もうとしてしまった、梨璃には美鈴の死を乗り越えたように「見えてしまった」。
夢結が梨璃にかけた「もう起きてしまってどうしようもないことは時間をかけて受け入れるしかない」という答えはおそらく正しい。
でも結梨の死に対し梨璃には「あなたのせいじゃない」と言いながら自分のせいだと落ち込むような人間が、直接殺した人間に対してそんなこと言えるわけがないんですよ。
だからこれは梨璃を安心させるための言葉、美鈴の言葉を借りるなら「上出来だ。大切なシルトを不安にさせちゃいけない」と言ったところなんですが、この言葉がきっかけで明確に夢結は対外的に(とはいっても妹の前だけですが)美鈴の死を乗り越えたことになるわけです。
目の前の、過去の自分と対になる梨璃はまだ受け入れられていないのに自分は受け入れたことにするというのは過去との分断、美鈴の死を過去にする行為です。
その事実が夢結の心に多大な負荷をかけ、結果美鈴が見えるようになった。
そういうことなんじゃないかなと思います。

では夢結はこれからどうしたらいいんでしょう。
12話の展開予想とかではないですよ、あくまで夢結がすべきことの話です。
たとえば俺は「十条姫和は隠世から帰ってから御前試合までの間に両親の墓参りをしていたらいいな」と思うわけで。
もしこうしていたら俺は泣いちゃうだろうなという話をします。

端的に言えば白井夢結は墓前に花を供えるべきなんですよ。
あの日梨璃は言ってくれました、「お姉さまはお姉さまです」
結梨にも言いました、「結梨ちゃんは結梨ちゃんだよ」
いいところもわるいところも、自分にとっては呪いのようなものであっても、それら全部をひっくるめて”白井夢結”なんですよ。
自分を呪い卑下しつづけた自己評価の低い夢結ですが、そろそろ自信を持っていいと思うんですよ。
だから花を供えましょう、花の名前になぞらえた今までの日々を、感情を経験を希望を、白井夢結のすべてを束ねたブーケにして。
そして言うべきなんですよ、「これが私です」と。
梨璃が認めてくれたように、私は私だと自信をもって言うべきなんです。
起こってしまってもうどうしようもないことは変えられないけど、忘れることはできないけど、それでも全部含めて私だと思えたのならそのときはじめて白井夢結は救われるんじゃないかと、俺はそう思います。
そしてそれを未来に託しましょう。
互いを愛し慈しむ心を世代を超えて伝えていきましょう。
白井夢結の投げたブーケがいつか誰かに届くことを信じて、今回は筆を置くことにします。
続きはまた、夢の中で。

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