白井夢結のことをもっと知りたい
俺は白井夢結の話がしたいので今から白井夢結の話をします。
自分の思考の整理用です。
さて、白井夢結は自他ともに認める面倒な女なわけですが、なぜこんなに面倒な女になってしまったか。今日はそこを考えていきます。
かつての夢結は梨璃や本人の回想にもあるように昔は笑顔の似合う心やさしい女の子だったわけですが、その戦いでシュッツエンゲルである美鈴を亡くし、かつ自分が殺害した可能性があるということで憔悴してしまいました。
そのことで他人から距離を置いていたわけですが、「ひとりでいたかったわけじゃない、ひとりでしかいられなかっただけよ」と言うように、自分からそれを望んでいたわけじゃないんですよね。
イマジナリー美鈴からも「怖いから遠ざけたい、受け入れる勇気がない」と言われていたように、夢結が他人を受け入れるためにはいくつかの問題がありました。
夢結が何を恐れているのかというと①「大切な誰かをまた失うこと」、もっと踏み込んでいえば②「大切な誰かをまた殺してしまうこと」になるわけですが、②については夢結が心を開くにあたって最後の鍵になる話ですので、まずは①から考えていきます。
①の大切な誰かをまた失うことに対する恐怖を克服するため夢結が選んだのは、他人を遠ざける、はじめから仲良くならないことでした。
ただ、これだけでうまくいくはずはなく、ある程度名の知れたリリィである夢結のもとには梨璃や梅、楓や亜羅耶のように人が集まってしまいます。
これに対して夢結は冷たくあたってあしらう方法を取りますが、当然全員が全員離れていってくれるはずもなく、別の手段を取る必要がありました。
それが「相手を失望させること」です。
現在の自分に対して恐ろしく自己評価の低い女ですから、本当の自分を知ればそのギャップに驚き失望するのではないかと考えたのでしょう。
夢結と接する人間は誰もが夢結に対して実体とは別の像を持っています。
梅や天葉などの昔からの知り合いは中学時代のよく笑う夢結を覚えているでしょう、楓や亜羅椰などの新入生は名うてのリリィである夢結に憧れを抱いているでしょう。
そのどれもが今の自分と釣り合わないと考えているため、今の自分を知ればきっと人が離れていくはず、梨璃に対してシュッツエンゲルの誓いを結んだのも”憧れの白井夢結”など存在しないことを見せつけ自分に失望させるためではないでしょうか。
さて、ではなぜ梨璃はとんとん拍子に夢結を攻略できたのかというと、梨璃には具体的な夢結像がなかったからでしょう。
梨璃が知っているのはあの夜の笑顔とダインスレイフだけ、当時の夢結の人となりも知らなければ夢結の実力も知らないんですよね、リリィを目指したのもここ一年なので。
だからこそ今見ている白井夢結だけが梨璃の中の白井夢結たりえて、現在の白井夢結を直視できるのは梨璃だけだったんですよね。
本来夢結に対して何の像も持っていない人は夢結に対して関心を持ちようがないんです、そもそも認識していないものに関心を持てと言われても無理でしょう。
でも梨璃にはあの日の記憶があって、その笑顔と手に持ったダインスレイフを覚えていて、今はそれがどちらもないことに疑問を持ちました。
それが夢結のことを知りたいという原動力になります、だから夢結にアプローチをかけます。
ここにありのままの夢結を見てくれる、そしてギャップに失望しない女が生まれてしまったわけです。
夢結の同級生たちは確かに善き隣人ではありましたが、どうしたって今の夢結だけを見ることはできなくて、夢結に必要なのはそれができる人間だったんですね。
ただ、ギャップで失望しないことが夢結に対して失望しないことにはつながらず、真っ直ぐ夢結を見た結果面倒な女判定が出る可能性もあったわけです。
勝手に抱いた理想が崩れて嫌われるのはいいとして、本人を正視してその上で嫌われたら立ち直れません。
なので梨璃の前でルナティックトランサーを暴発させた夢結は「見ないで」と懇願しますし、「がっかりしたでしょう?」とあくまで理想との差異を示します。
ここで梨璃の発した「それでも夢結様が私のお姉様です」は夢結が醜いことを否定していないんですよね。
そうじゃないと言うことは簡単で、でも本人は絶対にそれを認めなくて、だからこそ本人の言を認めつつそれでもあなたが私のお姉様ですと言うのは他でもない夢結自身の肯定なんですよ。
これまでの夢結は過去を、後ろを見てばかりで梨璃を見ていません。
誰よりも本当の自分を見てほしいのに自分は相手を見ていないんですよ。
だから梨璃に「私を見てください」、今を見てくださいと言われるまで、梨璃が夢結に対して理想を持っていると勘違いしたままなんです。
だから「がっかりしたでしょう?」なんて言葉が出るんです、アイツは梨璃を見ていないので。
少し言葉が荒くなってきてしまったので一度話を戻し、②について触れていきます。
夢結は知ってのとおりルナティックトランサーの暴走で美鈴を(おそらく)殺ってるので、大切な人ができるとまた同じことが起きるんじゃないかと怯えているわけです。
そこでまずルナティックトランサーを使わないという自力での制御を試みたわけですが、6話時点で既に二度暴走するなどとてもうまくいっているとは言えません。
たとえ相手が自分の元を去らないと分かっても、ここが解決しない限り夢結は一生ひとりでいるしかないんですよね。
シュッツエンゲルとは守護天使、相手を守る存在であるべきなのに、ルナティックトランサーがある限り夢結は大切な人を傷つける可能性があるわけですから。
だからこのレアスキルは夢結にとって呪いであり、同じマギを持つ存在でありながらその力を制御できることのみをもってヒュージと人間を分けうるとするのなら、それができない夢結は醜い化け物でしかないんです。
レアスキルをなくす方法があるのかは分かりませんが、夢結がそれを選ばなかったということは現時点ではおそらくなく、ルナティックトランサーを封印してもその実力は折り紙付きであった夢結が暴走したとき止められる人がいるはずもなく、夢結はひとりでいるしかないんですね。
だからまだ梨璃を遠ざけようとするんですが、梨璃は夢結が暴走したときは「また私が止めます、何度でも止めます、何をしても止めます、たとえ刺してでも」と返します。
夢結が美鈴を刺したことを考えるとこれは「同じ苦しみを味わってでもあなたを止める」という覚悟ではあるんですが、「トランス状態の夢結を刺せるぐらい強くなる」という宣言でもあるんですよ。
実際CHARMにマギを流すことすら難しかった梨璃が、楓曰く「普通なら2、3回斬られてる」夢結の斬撃を全部止めてるんですよね。
シュッツエンゲルがシルトを守れないと意味がないのであれば、梨璃が夢結を守れるだけの強さがあれば何の問題もないわけで。
出撃前に夢結が梨璃に対して言った「もちろん、梨璃の足りないところは私が補います。責任をもって」が跳ね返ってくる形になってるんですよね。
また、何度でも止めるということは夢結がルナティックトランサーを発動するときは必ずそばにいるという宣誓でもあって、どうあっても夢結から離れるつもりはないという梨璃の強い意志なんですよ。
こうして一遍に①も②も解決するとんでもねー台詞を叩きつけられて、流石の夢結も「梨璃。私は、あなたを信じるわ」と相成ったわけです。
これまでずっと梨璃を認めつつ「いくわよ」や「ついてきなさい」など背中を追いかけさせてきた女が、ついにその胸襟を開き「いらっしゃい」と正面から向き合うようになるんですよ、オオ……、夢結、よかったね、夢結……。
しかも梨璃がいれば今後暴走しても止めてもらえる、つまり他の人と仲良くしても殺す心配はない!
梅と仲良くしても祀と仲良くしても百由と仲良くしても天葉と仲良くしてもいい!!!!
ヤッター夢結おめでとうこれからの人生楽しくなるといいね俺は今とてもうれしい辛い時期を送った分これからは楽しく暮らしてほしいリリィの死亡率?知らんもうここで終わりでいいじゃん6話で最終回だったことにしようアサルトリリィ BOUQUET最高!!!!!!!!!いいアニメだったね!!!!!!!!!!!!!!!!!!
おわり!
※11/12追記
とはいえさすがにあの段階で梨璃のために山梨まで行くのはチョロすぎでは……?という気持ちがあったのですが、夢結が梨璃とシュッツエンゲルの誓いを結びたくない理由として「梨璃を守れない」というのを挙げていたように、夢結の中には姉は妹を守るもの=一方的に施すものという認識があり、これはおそらく3話で慣れないながらも梨璃の毛繕いをしていたときのように夢結の姉である川添美鈴がそういうタイプのお姉様だったのではないかと思われます。
で、あるならば、本来一方的に庇護するはずの妹に「一方的になにかをもらってばかり」の状況は夢結にとって許容できない、なぜなら自分の姉である美鈴はそうではなかったから、ということになります。
だから梨璃のために梨璃の喜ぶものを探しに山梨まで行っても不思議ではないんですが、これってやっぱズレてるんですよね。
梨璃の好きな物を調査する過程で散々「夢結の選んだものならなんでもうれしいのでは」という意見をもらっていたにもかかわらず、特段提言を聞かずに物にこだわっちゃうんです。
かわいい妹を放っておいて暴走して妹の好きなものを探しに行くという構図は、6話のかわいい妹を放っておいて暴走してヒュージと戦うという構図と対になっていて、白井夢結の人格とレアスキル「ルナティックトランサー」の性質が不可分であることを意味します。
ので、美鈴の殺害はレアスキルのせいではなく夢結の人間性に起因するものであり、ルナティックトランサーのせいではない=呪いではないという生まれ持ったものに対する肯定の面を持ちつつも、夢結はなにかのせいにすることができない苦しみを背負うことにもなり、ルナティックトランサーを持たないにも関わらずいざというときは夢結を刺すと宣言した梨璃はそこに寄り添うものであったのかもしれないなあと思いました。
俺は白井夢結の何?