2022→2023 special interview❹
Interview&Text by Yurie Kimura
*またここから
――2022年は地方でのライブの機会も増えたと思います。待ってくれていた人たちがいたと、感じることも多かったのでは?
お客さんもそうだし、ライブハウスのオーナーや知り合いが元気で安心しました。
家族と一緒に行ったりもするので、ライブだけじゃなく旅そのものを楽しめたのもよかったですね。あと一旦ガーンと減っていたお客さんが、少しずつ増えてきていたのも嬉しかったです。東京も、以前より増えていたし。
――お客さんが一旦減ったというのは、もしかして結婚したことが原因?
(結婚したのは)ちょうどお客さんが上り調子で増えていた時期だったから、ガクンとお客さんが減ったのはそういうことなのかなって。
確かめたわけじゃないからわからないけど、歌とか音楽が好きでライブに来てくれてたわけじゃなかったのかと、正直当時はちょっとがっかりもしました。
でもまた増え始めているから、ここからだな、と思ってます。来てくれた人の中には、「歌、よくなった」と言ってくれている人もいるし、自分でも今の方が絶対にいい歌が歌えていると思っているので、また一から積み上げ直しだな〜と思ってます。
――花が咲くのはこれからだと、私も吉祥寺のライブを観て思いました。突き抜けていくような清々しいパワーを、洋平くんに感じました。
ありがとうございます。ウエケンさん(プロデューサーでベーシストの上田ケンジさん)も「俺は洋平が売れるのをまだ信じているから」ってちょいちょい言ってくれるし、同業者の先輩や身近な人間にもそういうことを言ってくれる人が結構いて、すごく嬉しいですね。
俺自身もそう思えているし、そういう“やる気”みたいなものがあまり空回らずに外に向かっている気がするから、今、すごくいい感じなんだと思います。
あと、音楽に対するヘンな抵抗感がなくなったのもいいのかもしれない。
――というと?
吉祥寺のライブで浜田省吾さんの歌を2曲カバーしましたけど、以前なら絶対にできなかった。ギターを弾いて歌うという共通点がある大先輩の曲をカバーすることで、一括りにされるのが嫌だったんですよ。
結局、音楽を楽しめてなかったんでしょうね。
音楽がすごく好きなのに抵抗していたんだと思う。
考えて考えて「でも音楽は楽しまなきゃいけないよね」くらいまでしか辿り着けなかった時期が本当に長かったけど、今になってやっと、音楽は大好きだし、とても楽しいものだ、と自然に思えるようになりました。
今はステージはもちろん、リハからすでに楽しいですからね。みんなで「やっぱり合奏、楽しいね」と話したりして(笑)。
他のメンバーもキャリアが長いから、それなりにいろんな時期を経ながら、今、音楽を楽しめている時期だったりするみたいなので、バンドとしても今、とてもいい感じだと思います。
*背負わされていたものから自由になって
――音楽に抵抗しながら作っていたかつての自分の歌を、今、どんなふうに聴いたり歌ったりしているんですか。
若い頃の曲を聴くのは恥ずかしいという人がいるけど、俺は意外とそうじゃなくて。あまり後悔することもないし、「よくぞこんな曲を書いたな」と思うことの方が多いですね。
娘がセカンドアルバム『DAY』が好きでよく家でかけるんですけど、それを聴いても「割といいじゃん。あまりいい思い出じゃなかったけど、ちゃんと一生懸命やってたんだな」と思って、当時の自分をよしよししてあげたくなる感じはあります(笑)。
――2023年はどんな予定ですか。
1月3日の郡山でのライブが2023年最初のライブになりましたけど、それ以降のライブも決まってきているし、2022年以上にたくさんライブができたらいいなと思ってます。
で、3月には染谷俊さんと一緒にツアーを回る予定です。男性ソロシンガーだったこともあって、二人ともデビューした頃は“尾崎豊”という人に繋がる流れの中にガッチリ入れられてきたけど、さすがにその呪縛からはだいぶ解放されてもきて、最近二人でやった生配信ライブでも「俺ら、それによっていろんなものを背負わされてきたからね」みたいなことも言えるようになってきたんですよ。
で、染谷さんが一緒にツアーをやろうって言ってくれて・・。「最終的には同じように“尾崎豊”という人を背負ってきた人たちが集まってきたらおもしろいかも」みたいな話もしています。
先入観なしにライブに来て、俺たちの音楽をシンプルに楽しんでもらえたら嬉しいです。
――おもしろいライブになりそうですね。
あと、しばらくご無沙汰している九州とか広島方面に、2023年はライブに行きたいですね。
それから・・。2022年の途中から、バンドでいろんなイベントに出たいなと考え始めていたので、それを実現できたらな、と。
普段の俺は弾き語りの方が多いけど、大森洋平のライブを観ることがない人や弾き語りにあまり馴染みがない人たちが集まるようなイベントやフェスにも、バンドでなら呼ばれやすい気がするし、そこから何かが広がりそうな気もするし。
ただ、問題はメンバーなんですよ。細かくイベントに出るにはウエケンさんが忙しすぎる。別のバンドをもう一個作るか、比較的身軽な俺とドラムのマスケくん(野崎真介さん)とギターのしばっちゃん(柴田拓哉さん)の3人でやるのもありだとは思うんですけど・・。なんにしてもベースが必要なんでね。ベース、探し中です(笑)。
*家族として、歌うひととして
――先日のライブのMCで、「目指しているものが少し変わってきた」と言っていた気がします。今、目指しているのはどんなことか、教えてください。
そんなに先まで見えてるわけではなくて・・。ただ今の安定したペースをなるべく崩さず日々を過ごすことを大事にしたいと思ってます。
その方が音楽も楽しくやれるし、調子も良さそうなので。
成長過程にある娘にも、カメラマンや物書きの仕事からスパイス越境がメインになったフジコさんにも、この先いろんなことが起きてくると思うので、そういう時にあまりブレない、いつも安定した人間でいられることが、今の一番の目標かもしれない。
それで楽しく音楽がやれて、その音楽を聴いてくれたみんなが楽しい気持ちになってくれたら何も言うことはないかもしれない。
――がむしゃらに何かを目指すわけではなく、淡々と日々できることをやりながら過ごしていれば、その先に何か輝くものが見えてくるかもしれない、という感じでしょうか。
さっきも言ったみたいにウエケンさんとか周りの仲間たちが、大森洋平の音楽を信じてくれているので、何かを叶えられたらいいな、と思ってはいます。
それで周りが楽しくなるような状況が作れたらいいな、と。力がずいぶん抜けた気がします(笑)。
――その穏やかさ、みんなに楽しんでもらいたい、幸せになって帰ってほしいという大森洋平の心の底からの思いが、暖かく会場を包んでいたと思います。それがとても気持ちよかったですよ。
そういうのが理想ですね。そう感じてもらえるライブをもっとやっていきたいし、喜んでもらえる歌をもっともっと作って、歌っていきたいですね。
(おわり)
最後まで読んでくれてありがとうございます。
こんな大森洋平ですが、2023年もどうかよろしくお願いします。そしてまた道の途中で出会っていい時間を共に過ごせたらと思います。お互い良い年にしましょうね。家族、仲間、関わってくれる全ての方々に心から感謝です。ではまた。
2023.1 大森洋平