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お茶淹れましょうか
昔々のことです。
わたしがうら若き二十歳前の時。
原宿の竹下通りにあるお店で洋服の販売のアルバイトをしていました。
時はバブル。
そんな言葉など知らかったけれど、とにかく皆がお金を沢山持っていた時代です。
わたしはジュリアナ東京もお立ち台も扇子も何もかも縁がありませんでしたが、前髪をくるっとトサカのようにして長いソバージュ、ボディコンファッションに(一応)身を包んでいました。(痛くても我慢して8センチヒール!!!とかも)
職場はラフォーレに近い、竹下通りのはじっこにありました。
原宿ファッションと呼ばれ、その当時のジャニーズ事務所のメンバーがコンサートで着用するような、いわゆるディスコの黒服と呼ばれた男性が着ていた服が沢山並んでいました。
こんなの誰が着るのかと思うような赤や紫のドギツイ服が袖を通すこともせず右から左へと売れるような時代。
試着しなくてもこれでいいです、これくださいとレジに並ぶ光景は今思うと異様でしたが、これが土日祝日ともなると店内がさらにごったがえし、身動きが取れなくなることもザラでした。
休憩は45分と15分に分けられ、前半は昼休憩。後半はおやつタイム。
来客の途切れるのを待って順番にビルの最上階まで階段を登り休憩を取るのです。
自社ビルだったので、その休憩所は皆が出勤してタイムカードを押すところで荷物置き場であり、事務所であり、経理の方の仕事場でもありました。
長机と折り畳みの椅子が何脚かあり、土日祝日は近くの中華屋さんのお弁当がどーんと置かれていました。
並盛と大盛があり、ご飯大好きっ子なわたしは迷わず大盛りを取り適当に座ります。
えええ?大盛り食べんの?
と、よく驚かれましたが余裕で食べられました。美味しかったなぁ。
ポットと湯呑みやカップが適当に置かれ、お茶や紅茶、コーヒーなど砂糖ミルクも可愛らしい小さな籠に入れられて、休憩所となっている机の側にセッティングされていました。
これらは経理の女性、カトウさんがわたし達の為にそっと用意してくださっているもの。
お弁当を食べ終わると口もさっぱりしたお茶を求めるもの。
わたしは振り返り、お茶淹れましょうかと皆に聞くことが癖のようになっていました。
一人分だろうが5人分だろうが変わりないと思っていたからです。
すると、お茶がいい、コーヒー。などと答えが返ってきます。
はいどうぞと皆んなに渡したあと、カトウさんにもお茶淹れましょうか?と聞くようにしていました。
すると電卓に向かって難しい顔をしていたカトウさんがひょっと目線をこちらに移し、なんとも言えない笑顔でお願い、と言われます。
お茶を淹れて机の上にそっと置くと、メガネを外したカトウさんが本当に嬉しそうに笑ってありがとうと言ってくださるのがわたしの心にいつもぽっと灯りをともしてくれました。
若かったわたしは女性のお客様の姿勢や態度から学ぶことも多かったと思います。
こうなりたいなと意識したこともあれば、こうはなりたくないから気をつけようと反面教師として捉えることもありました。
経理のカトウさんは笑顔のチャーミングな優しい方でした。
もう80を越したかと思いますが、今でもお元気でいらっしゃるでしょうか。
そんな女性達を手本に襟を正したように、わたしも次世代の方にあんな風になるなら歳を取るのも悪くないわ、と言ってもらえるようになりたいものです。
まずは筋トレして身体を整えることから始めるとしましょうか。