幸か不幸か【動かないボーナス】(毎週ショートショートnote)

よく母親が言ってたっけ。
幸不幸の量はみんな同じだけ持ってきたの。
振り返ってみれば、幸せも不幸せもどんな人にでも同じだけあるのよ。

そうかなぁ。
小さい頃から呪文のように聞かされてきた言葉だったけど、そうだと思ったことは一度もなかった。
どんなに頑張っても勉強は1番になれなかった。
どんなに頑張っても美人にはなれなかった。
どんなに頑張っても憧れの会社には入れなかった。
スポットライトはわたしにはどうやってもあたらなくて、いつも誰かのもの。

暗闇から連れ出してくれたのは彼だった。
君は長い時間をかけて謙虚さを育んでいたんだと褒めてくれた。
今わたし達はいつも一緒にいる。
寝る時は同じシーツの中に潜り、好きな料理を作り、お腹の出具合を確かめ合う。
手をつなぐと温もりに身体や心の痛みは消えてしまう。

今まで頑張ってきて報われなかったものは、人生のボーナスとしてわたしに返ってきた。
その心の安寧は動かないのだ。
神様、ありがとうございます。