GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』を書いて思ったこと
GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』を書いて思ったこと
自作SS、モバマスの二次創作である上記GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』はお陰様で読んでいただけた方には好評で、とても嬉しく思っています。
書いた本人としては色々と不安で、多少投下を恐れもしていましたが一安心しております。
また、事前の未完成版を読んで様々なご指摘をいただけました某氏には、感謝の言葉もありません。ただただ恐縮して頭を下げるのみです。
本作はもともと、白菊ほたるを主役とした不幸からの脱却をテーマとしたSSとして構想をしていました。
スレタイも最初は『白菊ほたる「アイドルのラクダ』でした。
僕は島根県民なので、隣県である鳥取へも行くことが多く、また親近感も土地勘もあります。なので、ほたるちゃんにも隣県出身ということで同様に親近感があり、またそれを除外しても可愛い容姿と不幸に打ちのめされそうになりながらも決して諦めないその姿勢に心惹かれていました。
鳥取には同じく出身として五十嵐響子ちゃんもいるのですが、彼女と違いほたるは不運がつきまとうイメージもあり、また出雲大社のある島根の幸運のアイドル鷹富士茄子さんとの対比もあり、僕は勝手にほたるちゃんは鳥取砂丘の近くに住んでいたんだろうな、と漠然と思っていました(響子ちゃんは、米子のあたり)。
鳥取砂丘には観光客向けにラクダが飼われていて、乗せてもらうこともできます。
モバマス内ではそのような設定はないけれどここで、ほたるは近所にいるラクダが好きという設定にして『ほたるとラクダを対比しつつ、過酷な旅と背中に詰めた夢というイメージでなぞらえられたら』と思いつきました。
3度の事務所の倒産を経ての、先の見えない旅路。そうしたSSが書けたらと思って構想を始めました。
それまでもツイッターで、ほたるに関するネタツイートをしていたのですが、それをまとめて読み返していると、自分のやりたいほたるの物語も見えてきました。
作中でも出てくる描写なのてすが、前の事務所にいた娘に偶然会ったほたるが嫌味を言われ、それを慰めるでもなく相手を批難するでもなく「なあ、ほたるがトップアイドルになったら、あの娘どんな顔するだろうな」って言ってあげる。つまり言外に「俺がトップアイドルにしてやるからな」って告げている訳ですよ。これはやりたいなあ、って。 あと、ほたるが道を歩くと黒猫が横切るどころか反復横跳びして行ったり来たりを繰り返すみたいなネタも、要所で入れられたらなあとこういうパーツみたいなのをやりたいこととしてたくさん頭にストックしていったのです。
でもですね、これがあまり面白くないというか盛り上がらない。ほたるがいい娘すぎて、耐えて耐えてそして栄光という図式だけで、やはり本家モバマスにある『仲間と』とか『みんなで』みたいな要素がないとドラマツルギーのないものになってしまう。やはり性格や口調・行動の違う娘が必要だ。
ほたるで仲間というと、真っ先に浮かぶのは僕はGIRLS BEの3人でした。可愛くなりたいのに素直になれない松尾千鶴ちゃん、可愛くなりたいけど目つきがきつくて自信のない関裕美ちゃん、そして困り顔で不運体質のほたる。上手くいかない、でも笑顔に憧れる3人が寄り添って夢を目指す姿は、それだけで胸を打ちます。
モバマス開始当初から松尾千鶴ちゃんが好きでしたし、関ちゃんもとても可愛いということもあって『そうだ、GIRLS BEのSSにしよう』と思い立ちました。
そうしたタイミングで、公式がGIRLS BE NEXT STEPというユニットをうちだしてくれました。
GIRLS BEに加え、岡崎泰葉ちゃん!? と思っていると、これが素晴らしいバランス。そうだ、泰葉ちゃんはベテラン芸能人だけど、以外に子供っぽくでも負けず嫌いで、そして……優しい。
公式の劇場が素晴らしかったこともあり、僕は「これだ!」と思いました。
4人を主役にして、ほたるを核とした物語を書こう。この4人の結成から頂点に至る話を書こう! そう思ったのです。
そこから物語を色々と試行錯誤して構成を組みました。
当初から、ほたるが飛び込みの面接にやって来て物語が始まるのは決めていて、Pは最初から岡崎泰葉の担当をしていて、ほたるの面接の後
泰葉「遅かったですね」
P「すまない。ちょっと新人志望の娘の面接をしていてな」
泰葉「ふうん」
P「気になるか?」
泰葉「別に。それよりも……」
みたいなやりとりから始まるパターンも考えていました。
興味なさ気な泰葉が、その面接をした娘が白菊ほたるだと聞いて俄然興味をもって食いついてきて……みたいなパターンです。
この名残はSSに残っていて、
P「では。芸能界経験のある新人アイドル志望者、として扱います」
ほたる「え?」
P「珍しいですが、前例がないわけではありませんから」
とPはほたるに話してるんですが、この芸能界経験のある新人アイドル志望者の前例が、当初の予定では岡崎泰葉だったんです。
物語が進んでいくと、ほたるが「あの時プロデューサーさんが言ってた前例って……泰葉さんだったの!?」みたいなセリフを言う展開です。
この流れはかなりやりたかったんですが、後にもっといい2人の出会いのシーンを思いついたので、やめました。
そう、僕は後に「そういうことだったのか!」と判明する何気ないやりとりを事前に描写しておく、というのが大好きなんです。よく『伏線』とか言いますけど、シナリオ術では『セットアップとペイオフ』と言います。お膳立てと回収、ですね。
伏線と言うとですね、なんだか仕掛けの罠みたいな感じがするんですよね。読んでくれてる人が線に触れたら、鳴子とか鳴って矢とか飛んでくるの。で、矢には毒が塗ってあるw
まあそれは僕の勝手なイメージなんだけど、やっぱり読んで下さる方は大事にしたい。おもてなしをしたい。
セットアップとペイオフは、お代の徴収とそれに対する対価の支払いみたいな感覚があって、そこを読んで下さいましたか! そしてそこを覚えていていただけましたか! ありがとうございます。いや実はね、あれは……こうなんですよ……ね、読んでおいて良かったでしょ? って笑顔でお礼を差し出したい。そういう感覚なんですよ。
また実際に構成を考えたり、実際に書いている時でも、セットアップとペイオフは軽い感覚でやれるんです。これを設定として置いたから、その説明がこれ。これを用意しておいたから、その結果はこれ。と、そういう感覚で置いておけるんです。途中のピタゴラスイッチ的な動作に至る流れは考える必要がない。考えなくても、物語全体を把握していれば自然に収まる所に収まるから、お膳立てと回収さえしておけばいいんです。まあこれは感覚と言うよりは、経験に基づくものですが。
SSの中でも、終盤で『実はこのPは有能じゃない。実績がない』というのが物語の大きなキーとして出てくるんですが、その為にそこに至る過程の中でそういう描写をしています。Pがスカウト枠の事知らなかったり、衣装輸送の伝票でミスをしていたり(あれはほたるの不運も絡みますが)、ドラマを撮る際の景色の事を知らなかったり、ですね。特に支障なく話が進行していくので見落としてしまうというかわざとそうしているんですけど、どれもよく考えると「なんで知らないんだよ!」とか「どうしてなの!?」って突っ込みたくなる。そういうのを後から「実はそれは、こういうことでして」って理由を、物語のキーとしてお出しする。その瞬間の楽しいこと! 書いている者の醍醐味ですな、これはw
こういうのを、たくさん仕込みたいという欲求が僕はあって、今回はそれがかなりできました。千鶴ちゃんが1人で上京してくるとか、名刺の件とかですね。
後これも個人的な僕の好みの話なんですが、後に特別な役目を持つ人物がそれに関わりながらも違う立場で登場してくる、というのが大好きなんです。今回で言うと、泰葉ですね。
最初は雲の上の存在で、直接の絡みもないのに何か気になる行動があって、それが後に理由として判明して意外な行動をしてくる……
一種のラットアップとペイオフですが、人物の登場と行動はまた違う感じなんですよね。 こういうの随所に絡ませるのが大好きなので、今回はされもあって書くのがたまらなく楽しかったです。
こうした色々な、自分のやりたい要素を組んでいくわけですが、そこで三幕構成です。
三幕構成も細かく色々な取り決めはありますが、それは絶対的なルールではありません。ただ知っていればより色々な手を打てるという程のもので、三幕構成もそれに囚われるようなものではないんです。
だだ長編なんかやろうとすると、すごい指標になって物語がとり散らかるのを防いでくれますし、何より便利です。そしてこれは、コツを掴めて短編にも活きてくると思います。
三幕構成なんて難しい! と思わず、まずはミッドポイントを決めることだけでも全然違います。
ミッドポイントは、そのお話の転換となる部分です。物語の流れがガラリと変わったり、ラストへ向けての動きが始まる所ですね。
大抵は2幕の真ん中におくので、ミッドポイントは丁度真ん中に置くようになります。 8000字で1本お願いします、とか依頼があるとミッドポイントは4000字あたりになります。だから4000字を超えたあたりで、その物語を収束に向けないといけなくなります。これは文字数があらかじめ決まってる時の話ですが、ミッドポイントははそういう役所の目安になります。
今回のSSは、4人が集まってから物語が終盤に向かうので、ミッドポイントは真ん中よりもかなり後ろ寄りになります。EXプレス登場とその妥当が勝利条件として提示される辺りです。
ただ後ろよりとはいえ、ミッドポイントがどこであるかを書いている自分が把握しているのは大事な事で、セットアップとペイオフだってそれに合わせて配置しますし、それ以外のやりたいことのパーツもそうです。ここが転換でこういう提示がされる。じゃあこのパーツはどこにどう配置するべきか、ミッドポイントの把握さえできていたら適切に置いていけます。
よく、長編を書くと話が散漫になっちゃって、とか、書きたいことがたくさんできて、とか、書いてるうちに考えていたのと違うほうこうにいっちゃって……、とかいうのは三幕構成を覚えて、そうでなくてもミッドポイントというものを理解して設置するようにすれば防げます。
その為にというか、長い話を頭から書いていくのが苦手な人は、書きたい所、やりたいことだけバラバラに書いてもいいんです。実際僕も、今回そうしています。
書きたいシーンを好きなように、好きな順に、好きなだけ書いていってそれを組み立てたっていいんです。それを無理なく自然にしかも面白くなるようにくっつける事ができるのも、三幕構成の強みです。構成の仕方がわかっていれば、そういうことができるんです。
それを今回、僕も実感しました。
とにかくバラバラに書いていきましたが、構成を組んであるので長くても破綻せず無理ない話に出来ました。考えた色々な流れやパーツを組んでいくのが三幕構成であるわけです。
あと大事だと痛感したのは、作品を通してのテーマの設定とその活用ですね。
今回の場合はラクダでしたが、常にそのテーマを意識してなぞらえたりする事で話の中で一貫性ができて、終わりも綺麗にまとめられました。
これは今後も活かしたいと思います。
最後に小ネタを少々。
ドラマを撮る監督がややオネエ口調なのは、作中に何人か監督という肩書きの人が出てくる中でちょっと大事な役回りなので、引き立てる為ですね。
EXプレスは新幹少女とはあまり関係なくて、アイドル達がラクダなのでそれに比較して大量に人も物も輸送できて早いもの……と考えていたところ、ディズニー映画のシンデレラに出てくる継母の家計が『トレメイン家』だったので、それをもじってライバルプロダクションをトレインにしてトレインつながりでエキスプレス……という流れで命名しました。
ほたるがかつて所属していた事務所名シルル・ペルム・石墨(石炭)は、古生代の紀からとってます。滅んでしまった時代というモチーフにしました。
スレタイは4人を主役にすることから、『白菊ほたる「アイドルのラクダ」』から『GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』』に変更しました。ユニット名でのスレタイはあまりないので不安でしたが、結果的には良かったようです。
以上、覚え書きをかねて。
#SS