第三部「穢れた土俵」第二章の8.北の波の目指したもの

中学在学中から相撲取りになった北の波は、怪我や挫折で辞めて行った力士たちが、外の世界に出て苦労するのをたくさん見てきた。

まだ十代で外に出る者はいい。

上下関係に厳しい角界で鍛えられた従順さと、その体力で力仕事などの職業にも付けるだろう。

または十両、平幕で何年か活躍出来たものは、多少の貯金も出来るだろうから地元に戻って事業をすることも出来る。

しかし中途半端に幕下や十両くらいまで上がり、付け人などを付けてもらえる立場になって、突然怪我などで辞めざるを得なかった者が一番苦労する。

人に使われるには若くもないし、プライドと腕っぷしだけはある。

と言って力士時代に貯めた金も無い。

受け入れてくれる実家や地元があればいいが、それでもどうしたって、その体格の良さから只者ではないと思われ、必要以上に警戒されることも多い。

逆に裏社会の相撲好きに元力士だとバレて連れ回され、そのまま仲間に引き込まれることもある。

裏社会と関わりたくない、と本人が思っていても、巷で腕っぷしに自信のある素人集から力比べをせがまれ、断ったことでケンカに巻き込まれた者も居た。

相撲取りは、力士を辞めても簡単に相撲と縁が切れるものじゃない。

職業ではなく生き方なんだ、と北の波は考えるようになっていた。

だから相撲取りが生きられる角界は、どんなことがあっても守らなければならないのだ。

北の波は親方になれない相撲取りや、怪我などで途中で辞めざるを得なくなった相撲取りが、相撲関係の仕事で食べていけるような王国を作りたいと思うようになっていった。

その為に必要なのは、まず資金だった。

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